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会話のテンポや絶妙な比喩、シニカルで皮肉たっぷりなこの物語がチャンドラー本人によるモノなのか、役者である村上のおかげなのかはわからないが、ものすごく楽しんで読めた。確かにストーリーの辻褄が合わない箇所や意味がよくわからないところはあったが、それを補って余りあるくらいの魅力のある作品だ。
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レイモンド・チャンドラーによる私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするシリーズの一冊。何と言ってもチャンドラーの作品の魅力はこのフィリップ・マーロウという素晴らしく魅力的な人物造形にあるわけで、アイロニカルな笑い、クールな彼が珍しく感情を露わにする場面などを楽しみながら、今作も読むことができた。
プロットに若干の荒さはあり、かなり読み進めるのがしんどい部分もあるのは事実だが、タイトルにある「リトル・シスター」にマーロウが最後に対峙する場面でのやり取りは名シーンだと思う。
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村上訳チャンドラーとしては三作目になる『リトル・シスター』。旧訳では『かわいい女』だった。最近特に奇異とも思わなくなった英語原題片仮名書きタイトルだが、今回は兄弟関係がテーマになっていることからもこれが適当だろう。化粧っ気のない縁なし眼鏡をかけた田舎娘をつかまえて「かわいい女」はない。旧訳タイトルの「女」は誰を指しているのだろう。誰をヒロインにするか、訳者の好みでタイトルが変わることもある見本。七篇あるマーロウものの長篇第五作目。タフが売り物の探偵も三十八歳になり、少しくたびれかけている。
カンザスの田舎から音信不通の兄を探しに妹が出てきた。曰くありげな娘の様子が気になり、相場の半額で仕事を引き受けたマーロウだったが、行く先々で出会うのはアイスピックを頸椎に突き立てた死体。どうやら強請がからんだ事件らしい。現場で見つけた一枚の受領証を手がかりにマーロウは事件の解決をはかる。だが、そこには映画の都ハリウッドならではのスキャンダルが隠されていた。大量の注射針を隠し持つ医者やアル中のマリファナの売人、詐欺師、やくざ上がりのハンサムなレストラン経営者と、虚飾の都の裏通りは背徳と頽廃の棲処だった。推理する暇もあらばこそ、一気に大団円に向かって突き進む展開は息つぐ暇もない。たった二日間の出来事なのだ。その上最後の謎解きがどんでん返しにつぐどんでん返しで真相は藪の中。
正直いって、ミステリとしてあまりよくできた作品とはいえない。プロットが複雑すぎて一度読んだだけではよく分からず、何度も前の頁を繰る羽目になる。前に戻って読んで分かる場合はいいが、どれだけ読んでも分からない部分もある。会話の中で、すでに話されたこととして処理されている内容が、実はどこを探しても書いてなかったりする。
男性に比べると女性の人物造型が難とされるチャンドラーだが、今回も重要な役割をつとめる二人の映画女優の造型はいまひとつ。セクシー・シンボルを地でゆくドロレスはカリカチュアとして楽しむことができるが、マーロウが守ってやりたいと思う売り出し中の女優ミス・ウェルドの方は、映画の台詞をなぞっているようだ、と自分でも口にする。ヒロインが自分で類型化されたキャラクターだと証しているようなものだ。
それでは、面白くないのかと言われるとそれはちがう。さすがにチャンドラー。読者が何を期待して自作を読むのかよく知っている。たとえば、独特のキレがよくってテンポのいい会話はいつにも増して洒落ている。ちょっとメモしておいて使いたくなる決め科白も少なくない。ひねりが効きすぎて時に理解不能になる比喩の濫用。やたらに長い修飾部を持つ饒舌な文体。自己憐憫に陥る一歩手前のルサンチマン溢れる社会批評。タフでハードな探偵稼業をきびきびこなす男の裏側にあるセンチメントをこれでもかというくらい過剰に見せる演出は今回も絶好調である。チャンドラーを嫌う人なら目を背けたくなる。
女を描くときは類型的だが、男の場合は別だ。チャンドラーの筆はエキセントリックなまでに個性的な人物を描き出す。ガラスで囲まれたオフィスのパティオで三匹のボクサー犬に小便をさせる映画会社の社長オッペンハイマーの見せる迫力はどうだ。この手の大人物の前ではマーロウなんぞひよっこの青二才に見えてくる。昼間ピアノ練習をするために深夜の勤務を選んだ物静かな警官もいい。タフを売り物にする男たちには皮肉で相手するマーロウが唯一心を開いてみせる。出番はわずかだが、その存在感は大きい。それとは逆で、一生懸命やっているのに誰からも誉められず、批判され、嫌われるばかりという警官を代表するフレンチ。このロス市警警部補がマーロウに奮う長広舌もいい。凡庸な人物の心の裡に降り積もる日々の鬱屈。このスピーチに共感する読者も多いだろう。チャンドラーは、一作ごとに強烈な印象を残す脇役を創り出す。小説の魅力は人物にある。
最後まで読み終えても、何度でも読み返したくなるというのがチャンドラーの小説である。犯人が分かってしまえばそれで二度と読み返すことのない「ミステリ」の枠におとなしく収まっているような代物ではない。『リトル・シスター』には確かに瑕疵がある。それは作家自身承知していた。が、それを補ってあまりある読む愉しみを味わわせてくれるのも事実。評者は新訳を充分楽しんだ。さて次回は、何を訳してくれるのだろう。『大いなる眠り』あたりではないか、と思うのだが、それではあんまり本命過ぎるか。いずれにせよ、楽しみなことである。
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清水俊二版マーロウに慣れ親しんでいるので村上春樹版マーロウは物言いが少々理屈っぽいような感じ。あくまでも個人的な感覚ですが。
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チャンドラー翻訳ものの3作目、村上春樹さんが期待を裏切らずに、読みやすく快適にマーロウ・ワールドを楽しませてくれます
訳者・村上春樹さんもあとがきに書かれております…
『僕は何度もこの小説を読み返しているし、このように翻訳までしているのだが、 結局誰が誰を殺したのかと訊かれると、急には答えられない』
インフルエンザ・ウイルスの発熱の中、半ば朦朧とした意識で読んでいたw244は、幾度も幾度も頁を戻る有様でした
『チャンドラーの小説においてはしばしば物語の筋の整合性が問題になるが、この「リトル・シスター」ではその傾向がいつもより強くなっている』
w244、あとがきを最初に読むタイプの本読みではありません …が、今回は少しだけそこらへんを後悔致しました
インフルエンザのウイルスが脳にいってしまったかと、筋を理解できないw244、少々焦ったりいたしましたので…
C・ドイルでもA・クリスティーでもありませんので、チャンドラーはプロットが云々で評価される作者ではないと思います
筋が少し合わなかろうが強引に読み進めていけば楽しめるのです
因みにw244―、結局誰が誰を殺したのかと訊かれても、もう一度読み返しても答えられないかと…ry それでも、お薦めの一冊でございます
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レイモンド・チャンドラー作。
村上春樹訳。
おなじみ探偵フィリップ・マーロウシリーズのハードボイルド。
小気味よいマーロウの会話と、古き良き時代のアメリカの場末感、というのが相変わらず良い。
ただよ、ただですね、途中から、女優が二人でてきたり、なんだかわけがわからなくなったのは僕だけでしょうか。
家族で映画見ながら、このおっさんはだれの父親なんだ、とか確認し合ってた母と妹の気持ちがよくわかった一冊でした。
ま、だれが犯人か、なんかよりも僕はマーロウの気の利いたセリフの数々が読みたかったわけですが。
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なるほど、複雑な話だったな。「かわいい女」を読み直したい。村上春樹、好きだけど、思い入れが強いのか、どうも、ダメだ。残念。
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初めてのチャンドラーにこれを選んだのは失敗だったかも。
話の筋書きがあちこち飛んでいてまとまりがない。
書かれていないことが突然出てきて焦ることも。
人物も「リトル・シスター」以外にさして魅力はない。
それでも「こんなの読んでられない」とは思えなかった。
不要にも思える描写、脱線する会話が不思議と心地よい。
村上春樹の翻訳がワイルドさを程よく薄めているせいもあるかもしれない。
何も予定のない薄曇りの朝には、よく似合う作品だった。
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最初はあの独特の会話のリズムに慣れなくて、サクサク読めなかった。
慣れてくるのにつれて話の糸もほつれて行ったので、気にならなくはなったけれども。
話はまあまあ、どちらかと言えば「ロング・グッドバイ」の方が好き。
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フィリップ・マーロウ・シリーズ
マーロウの元にやってきた依頼人・オーファメイ・クエスト。行方不明の兄オリンの捜索。オリンの住んでいたアパートの捜索。オリンの部屋を物色するヒックスと名乗る男。捜索中に殺害された管理人クローゼン。クローゼンが電話をかけた相手。ホテルに呼び出されたマーロウの前にあらわれたヒックスの遺体と謎の女。女優メイヴィス・ウェルドとオリンの関係。殺害されたギャング・スピンクの秘密。オリンの遺体発見。マーロウの手に入れた写真とネガの秘密。スティールグレイブの秘密と死。依頼人オーファメイの謎とラガーディー医師の秘密。
2011年9月23日読了
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村上春樹によるレイモンド・チャンドラー作品の翻訳3作目です。
ミステリー史上に残る「さよなら、愛しい人」「ロング・グッドバイ」に比べると、この本の知名度、劣りますが、出来もその程度なのが残念です。
導入部は順調で、その後も部分部分、読ませる文章はあるんですが、全体の構成が未整理で、中盤には読むのが辛い部分もあります。
事件の全貌が明らかになっていく終盤は勢いが復活するのですが、村上訳のチャンドラーを手に取るなら他の作品からが良いでしょう。
それを読み終えてなおアメリカ文学への興味が尽きないなら、フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」かカポーティの「ティファニーで朝食を」をおススメしたいですね。
以上の作品を読み終えてなお、というなら良いと思います。
この作品で注目したのは、青豆さんの殺しの技が藤枝梅安由来でなかったことかな(笑
この本の原著を村上春樹さんが読んだのは随分前だと思うのですが、その記憶が熟成されて、後の1Q84のキャラクターに結実した、と思うと胸熱ですね。
海外の作家を読む込むことで、文体も磨かれたのだ、とも感じます。
今回は微妙な評価ですが、それでもかつて読んだ清水俊二訳よりは遥かにイイです。
MGMで映画化されたおりの写真がカバーに使われている清水訳の「かわいい女」が手元にあるんで、読み比べました。
本当は懐かしい、と言いたいんですが、読んだ記憶まったくありません(笑
それにしても、こんな本まで読んでいたんだな。
自分の青春時代は、暇だったんだなあ、と思いますね。
↓コレは文句のない傑作です
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村上春樹の新訳を再読。
なんというかフィリップ・マーロウの野蛮さがソフィスティケートされた感じ。
でも旧訳より読みやすいのは確か。
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春樹の訳し方がなのか、そもそもチャンドラーの文章がなのかは分からないけれど、とにかく読みにくかった。洒落っ気たっぷりでストレートにものを言わない人物たち。こういう文章には不慣れなもので、たびたび思考が止まってしまった。
終盤になると話が入り組んできて、誰が何をしたのか、よく分からなくなってしまった。こちらの理解不足かと思ったけれど、あとがきで春樹もそう書いているので、そういうモノらしい。
この文章に慣れる頃にはもう数ページしか残っていなかったので、もう一度読み返してみると楽しめるのかも。
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レイモンド・チャンドラーの描く物語は本当に面白い。数々の魅力的なキャラクターが登場する本作『リトル・シスター』、私には『ロング・グッドバイ』に並ぶ程に好きな作品となりました。
村上春樹さんが寄稿した訳者あとがきによれば、チャンドラー自身はこの『リトル・シスター』に好意を持っていないらしい。村上氏によれば、そこには相応の理由があるようなのですが…何はともあれ、私はこの作品が大好きなのです。
行方不明の兄オリンを探して欲しいとマーロウに依頼したのは、オーファメイと名乗る若い娘でした。
何か裏があるに違いない…と、調査を始めるマーロウの行く先々では、アイスピックにより一突きにされた遺体が彼を待ち受けることになるのです。
『リトル・シスター』が指すものとは…
とても複雑で転々とする結末と激しく絡み合う人間関係は、しっかり読み込まなければ混乱してしまうかもしれません。
いままでの邦訳版では、『かわいい女』として出版されてきた『Little Sister』。原題のタイトルままに、『リトル・シスター』としたところに訳者・村上春樹さんの、本作への深い愛情を感じました。
『かわいい女』では、ここまでの感動と読後感を味わえたかどうか…作品の意図するものには、『リトル・シスター』という響きが実に似合うと思うのです。
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探偵ものの面白さのキーは依頼人の魅力だと思います。
依頼人のオ―ファメイという人物がとても魅力的な存在感を放っています。