紙の本
小説家の凄み
2019/02/13 14:23
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投稿者:beni - この投稿者のレビュー一覧を見る
エッセイが面白すぎる佐藤愛子氏なので、正直、創作物である小説はどうかな、と思いつつ手に取り、二日ぐらいで読んでしまった。
真面目に妻がいる男性との付き合いに向き合っているけれど、どうしようもなく心に溢れる思いに流される自分を止められず、けれどそういう自分を常に冷静に、冷徹に見据えている主人公が「女流作家」という設定は大正解だと思った。
職業のみならず家族構成もろもろの設定も含め、作者と共通点が多いので、これは佐藤愛子氏自身の経験を描いた私小説ではないかという話も聞いた。
それがどうした、である。
この本に描かれた主人公の色とりどりの心模様、そこに読み手は引き込まれ、何らかの感興をもたらした。
ネタ元がフィクションかノンフィクションかなど、どうでもいいと思える。
小説は、そこが肝心。そうでなくてはと思う。
上の言葉と矛盾するようだが
作者はどれかのエッセイで「書くことは、終わらせること」と書かれていたような記憶がある。
他の小説家の方も、しばしば同じ意味の言葉を仰ることがあるが、正に、この小説は佐藤愛子氏が、「書いて、終わらせた」ことではないだろうかと、読了後そんな気がした。
小説家という者の凄さとか業といったものも、また感じさせてくれた小説だった。
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心情の描写がきめ細かい。
自分の中で言葉にでききれない部分が的確に文章になっていて、その言葉の使われ方一つ一つに感動しながら読んだ。
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はたからみると幸福そうな4人家族
その妻は2回の結婚を経てもうけた3人のこどものうち2人を手放し、現在は実の母と娘と暮らしながら執筆活動に励む女流作家
その夫は中流俳優であり妻の幼なじみであり既婚者こどもあり
その上の娘は最初の夫との間にもうけた子どもであり妻が手放した子どもであり育ての親のもとあまり気の進まない学問に励む女子学生
その下の娘は妻の2番目の夫との子
主人公リツコの感情の抑制と爆発の起伏の描写が丁寧。嫉妬の裏返しの従順さ、時が流れるにつれはがれていく見栄や過剰な思いやり
どきっとするくらい自分の中のいやらしい部分が見透かされたって感じが
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こんな生き方もあるんだなと思った。
《本文より》
堂本からの電話を受け取ると、私は書きかけの原稿をほうり出し、着替えをしながら夕餉の買い物を家政婦に命じ、振り出してきた雨の中を、レインコートを着ることも忘れてタクシーを捜した。彼から誘われると、どんなに忙しいときでも私は断れなくなる。堂本に会いたいという気持ちの強さよりも、堂本が私に会いたいと思っているその気持ちを拒むことが私にはできないのだった。私は5分でも早く堂本の待っているコーヒー店へ行きたかった。一刻も早く堂本に会いたいたいというよりは、堂本を待たせるのが辛いのだった。
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「九十歳、何がめでたい」や、孫の桃子ちゃんとの写真をとても、読み易い本を読んでいたのだが、、、
作者 佐藤愛子氏の生い立ちのような内容のこの作品。
父親も小説家 母親は女優の両親を持った作者。
詩人のサトーイチロー氏は、異母兄だったのでは、、、
人間の機微の細やかさが、描かれているおり、甲南女子の学校への通学で、遠藤周作が、マドンナというほど美人だったのだろう。
それでいて、人生の流れは、複雑だったのか?その当時、戦争を挟んでの世界が歩ませたのか?、、、
「九十歳、何がめでたい」で、何でも言えるようになるには、人生経験が物を言っているのだろう。
この本の主人公 藤山立子の上流作家が、不倫相手の堂本へ、我慢の尾が切れて、放つ言葉「世界は あなたを中心に回ってるんじゃない!」に30年の月日をかけて、、、
全てが終わった後の静寂の中主人公の立子は、又、上流作家の顔に戻るのである。
現在、不倫の話、そして、財産を守るために離婚調停を伸ばしていた一人芝居劇場の話が、テレビでにぎわせている中、この本を読んで、人生はもっと複雑の中 静かに時を刻む人もいるのだと、、、思った。