投稿元:
レビューを見る
編隊アクロバットの魅力は、静と動が織りなす”斉一と破綻の妙味”にある。一糸乱れぬ稠密な編隊が、頭上で一瞬にしてばらばらと散逸するさまは演技の終盤で観客の驚きを誘う。このような曲芸飛行というものは、そもそも軍を除隊したパイロットが生計を立てるために、大道芸のようなスタント飛行を行ったのがその始まりであるという。以来、空飛ぶサーカスの伝統は軍組織によって守られ、パイロットの士気高揚のため、航空機の可能性と将来性を納税者に示す展示装置としての役割を果たしてきた。日本においても、曲技飛行によって養われるパイロットと機体の閾値を見極める力が緊急時のとっさの対処に結び付くとされ、導入されることとなった。そして最初に正式化されたアクロバットチームが、ブルーインパルスであったのだ。
ブルーインパルスにとって「7」と「4」は、マジックナンバーである。過去二回の墜落事故がいずれも7月4日に起きているのだ。2000年7月4日に三名のパイロットが殉職。その九年前の7月4日にも二名のパイロットが殉職。いずれも宮城県金華山を中心としたエリアにて事故が起こった。そして、さらにさかのぼること九年前、今度は7月4日ではなかったが、浜松基地航空祭の際に、一人のパイロットが殉職している。墜ちた機体は174号機。T-2型機の74番目の機体であった。
浜松基地航空祭の惨事は、大観衆と報道陣のなかで一部始終が目撃されるという異常性もあり、最も注目を浴びた事故である。ブルーインパルスの六機は、終盤の曲技科目、「下向き空中開花」の最中での出来事であった。「下向き空中開花」とは、空中で宙返りをおこない、頂点をすぎて全機が真下を向いた時点で編隊長の号令にしたがい、それぞれ六方向に開花(ブレイク)するというもの。ここで難しいのが、編隊長機の真後ろに付ける四番機である。二、三番機はそれぞれ左右へ三十度、五、六番機も左右へやや後方百三十五度にひねるが、四番機だけは真後ろの百八十度反方位へ向き直らなければならないのである。墜落したのは、その四番機であった。
事後調査で明らかになったのは、最大の要因は編隊長のブレイク指示の遅れにあったということだ。通常より約三秒遅れ、墜落を生還かの分岐点からは、わずか0.9秒遅れという際どさであった。そして、さらに明らかになった衝撃の事実は、四番機のパイロットにも過失の可能性があるというものである。事前にサインした「思想統一事項」という書類を元に、危険を感じたとすれば、ブレイクするべきではなかったという解釈が生じてしまったのだ。
ここで取り沙汰されている問題は、奥が深い。つまり、事故になったからといって、その指令に忠実に従った部下に過失を問えるのかということである。隊長の命令に従う規律と、命にかかわることは自分で判断すべきという裁量。突きつけられているのは、二つの矛盾した要求である。ここには自衛隊という存在そのものが持つ、曖昧さも潜んでおり、この問題の本質を見事に浮かび上がらせている。
著者は、当時の関係者が定年退職するまで26年間取材を自重し、2008年から一気呵成に取材を展開し、本書を書き上げたたそうである。これまでに著者の作品は、何冊か読んだこ��があり、スポーツライターとばかり思っていたが、元は航空専門誌記者であったそうだ。鬼気迫る取材量と、鮮やかな情景描写。一気に引き込まれる力作である。
投稿元:
レビューを見る
ブルーインパルスの誕生前夜から、これまでの事故の検証を
しながら航空自衛隊のパイロットたちの人間群像を描いた
力作である。
ブルーインパルスが遭遇した事故の検証だけなら、非常につまらぬ
ものになっただろうが、そこに関係者の人生を加えたことで人間味
のある読み物に仕上がっている。
特に浜松での航空祭の墜落事故の考察は、組織としての責任の
所在を考えさせられる。隊長の命令に従って墜落事故を起こした
パイロットにも過失があるのか。
上官の命令は絶対。しかし、命に関わることであれば自己判断。
相矛盾するふたつの要求の間で、どちらを得選ぶべきなのか。
著者は事故関係者が定年退職をするまで待って、本書の取材を
始めた。元航空専門誌の記者だけに、これは関係者に対する
心配りか。戦闘機乗りたちに対する著者の愛情が行間に溢れて
いる。
今日も日本の領空のどこかで、観客を楽しませる為の曲技の訓練を
しているパイロットがいる。他国機の侵入に対してスクランブル
発進しているパイロットがいる。救難隊はより厳しい環境を設定
して救助訓練を行っている。
現在のブルーインパルスのことを詳しく知りたいと思う向きには
物足りないかも知れぬが、自衛隊を知らぬ人にもお勧め出来る
1冊である。
投稿元:
レビューを見る
ブルーインパルスがますます好きになった。事故の詳細などは食い入るように読んだ。バーディゴとか未確認飛行物体とか興味深い話もたくさんあった。もう一度読みたい。
安全目に倒されるのは少し寂しいけど仕方ない。事故のないようにこれからも素敵なショーを見せてもらいたい。
投稿元:
レビューを見る
発足以来幾度もの墜落事故に見舞われながら、その存続に命を懸けた戦闘機パイロットの熱い思いが伝わってきました。ブルーインパルスのアクロが見たい!
投稿元:
レビューを見る
東京オリンピック
浜松での事故
アグレッサー
救難
P.59
入間基地から離陸するとき、管制官は松下に「any altitude okey(どの高度で飛んでもよろしい)」と言った。
その日、一九六四年十月十日の東京の空は、完全にブルーインパルスのものだった。
投稿元:
レビューを見る
全体のストーリーとは関係ないが、未確認飛行物体を目撃した空自のパイロットは少なくないという話が印象的(好事家なので)。強烈に光っているのにレーダーに映らない物体や巨大な蛍光灯のような物体(しかも小さな光が出入りしている)などなど、懐疑派の人間から見ても具体的で信憑性が高くておもしろい。それはともかく、息の詰まるようなエピソードばかりで、ネットにあるアクロバット飛行の動画を見ながら読むと、さらに息が詰まってしまって、なんかもう感嘆です。
投稿元:
レビューを見る
1979年11月14日、浜松基地航空祭で演技中に墜落した4番機、高嶋潔氏 の文字通り命をかけた生き様と、残された者たちの思いを中心に、関係者 各位が航空自衛隊を退官するまで待って取材を敢行した労作。
わたしは、著者が編集に携わったという在籍した航空ジャーナル誌の熱心な読者でもあり、1982年8月にT-2ブルーインパルスのビュー二回目の演技を青空の千歳基地で見ている。当時、高校卒業後、モラトリアム期にあったわたしにとって、この事故の映像と記事は大きな衝撃であった。
この事故の前、部隊内でのできごと、人事のひずみ、不条理きわまりないことの数々。組織人のぶつかる壁。それらを飲み込んで飛び続ける人々。 事情聴取に際し、建前と本音のつじつま合わせをパイロット達に強いる人たちへの怒り、実際にT-2に同乗してアクロバット飛行を体験し事故原因究明にかける担当検事の、真相に迫ろうとする真摯な態度への尊敬、負傷した子供の親の敬服すべき態度、事故後の高嶋氏の親族の方々の生き様。 学ぶべきことはたくさんある。
飛行教導隊でのT-2の事故の原因については、驚かされる。T-2、F-1が全機退役したいまだから書けることだろう。
ブルーインパルス黎明期の逸話は楽しい話もある。このチームの名称には日本人が忘れてはいけないことが含まれていること、チームの長い歴史の中での晴れ舞台、その逆に関係者の目に見えない葛藤など、外部からの想像を超えたエピソードが多い。
組織にいる以上、思いどおりにならない不条理を感じることはあるが、そこに命を賭けられるか。そこに命を賭けた人達がいる。自分ならどうするかと考える場面がたくさんあった。
投稿元:
レビューを見る
こどもの頃、TVの特番(水スペとか木スペ)でよく見たブルーインパルスが、その光の部分とすれば、本書はその闇の部分を描いている。
教育飛行隊の指導教官(本業)を務めながら、BIパイロット(副業)としてアクロバット飛行も行なう。第一線のファイターパイロットコースから外れた職場、任期も不明確で、ファイターパイロットに戻れる保証もない。キャリアパスとしては敬遠される職場。そんな職場に集められたパイロットたち。事故の責任追及で表面化する上司、同僚への不信感。チームの結束力欠如。問題は山積みだった。
しかし、それらの問題を昇進したかつてのBIメンバーが解決、改革した(アクロバット飛行専業、任期3年)ことは意義があると思う。
以下、引用
●「パイロットに『命令に服従する義務』を与えておきながら、『ブレイク・ナウ』という命令に従ったお前も悪いというんだったら、息子は死にきれんじゃないか!軍の命令とはそんなもんなのか!そんな自衛隊だったらとっとと解散してしまえ!」(略)「(略)命令が下っているのに、そのあと個人の判断に任せること自体おかしいと思う。突撃せよと命令されてある兵士はそれに従い、別の兵士は危ないと判断して引き返す、そんなことが軍組織で許されるわけがない」戦ったことのない、軍隊ではない軍隊。ブルーインパルスの事故には、自衛隊が生来かかえる曖昧さがにじんでいた。
投稿元:
レビューを見る
ブルーインパルスの歴史。読んでいる途中で何度も鳥肌がたちました!ギリギリの所で技術を極め続けるパイロット達、大きな事故を乗り越え、人々に感動を与え続けてくれるブルーインパルスは最高\(^o^)/ ブルーインパルスを初めて見た時の感激を思い出した
投稿元:
レビューを見る
今まで何となくな認識で居たブルーインパルスについてイロイロ学べたし誤解・誤認していた部分も多かった。JSDFの歴史にもつながる貴重な資料かも。内容的にすっごくすっごく引き込まれました。
投稿元:
レビューを見る
先週末の航空祭でも大観衆を前に素晴らしい飛行展示を見せてくれたブルーインパルスの本。第五福竜丸が水爆実験で被爆したことがきっかけで『ゴジラ』が生まれたこと、原爆の閃光と「ブルーインパルス」の関係、東京オリンピックで描いた五輪の輪、そして事故の記憶と、知らなかったブルーインパルスが盛りだくさんでした。もっとブルーインパルスのこと知りたい、という人にはオススメです。^^
投稿元:
レビューを見る
色々な意味で戦後日本人は「航空」というものを殆ど理解していない、或いは理解したくても出来ない環境で生きてきたのではないか。この本を読んで自分は率直に、そして改めてそう思った。
そしてこの本のおかげで、ハチロクから現在にまで至るブルーインパルスの歴史において自分が目にしてきた断片的なシーンの数々、それらがまるで一本の線のように繋がった…そんな感覚を抱くことも出来た。
著者が言う通り、本書に記されているこれらの事実を世に出すには非常に長い年月による「濾過」が必要だったのだと思う。が、それ故に本書はこれまでに書かれてきた航空自衛隊関連の書物とは一線を画すリアリティに満ち溢れている。ブルーインパルスを通じて少しでも「航空」というものに興味を抱いたのであれば、ぜひとも本書を手に取ってみて欲しい。
投稿元:
レビューを見る
ブルーインパルスを東京五輪、墜落事故、そしてアメリカでの展示飛行を通じて紹介するブルーの全史といってもいい内容です。
また、空自の黎明期、教導隊の戦い、救難隊へF転したパイロットの話なども書かれており、特に教導隊の情報を知ることができる数少ない本のうちのひとつになっています。
今では大人気のブルーの過去、戦闘機パイロットの生態を知るには必見の本です。
投稿元:
レビューを見る
ブルーインパルスの歴史ノンフィクション。1964年の東京オリンピックで五輪のスモークを描いたエピソードが印象に残った。当時のパイロットは豪放磊落な人達で、前夜から飲み明かして本番に臨んだ豪傑もいたそうだ。細かく管理された今の時代では考えられない話。ブルーインパルスに纏わる色々なエピソードが紹介されていて面白く読めた。
投稿元:
レビューを見る
ブルーインパルスといえば、華やかな世界の住人のように見えますが、当然ながら違う側面もあるわけですそういった部分にフォーカスをあてた本です。単純にかっこいいなーと思っていたのですが、この本を読んで、ブルーインパルスに対してより興味をもつようになりました。