紙の本
事実の重みとそれが解かれていく快感。そして、スリリングなうねり。
2011/12/26 21:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アヴォカド - この投稿者のレビュー一覧を見る
圧倒的な調査量、構成力で、ぐいぐい読ませる。
かなり読み応え、噛み応えあり。
1860年に起きたイギリスでの幼時殺害事件を描いたノンフィクション。
事件そのものを追うとともに、当時の捜査、中産階級の屋敷の社会的な位置、女性の位置、その頃 ”一時的精神錯乱” を弁護に用いることが可能になったこと、そしてこの事件に刺激を受けてウィルキー・コリンズ「月長石」を始め、チャールス・ディケンズ、コナン・ドイルなどが探偵小説を生み出したこと…などなどが、少しずつ明らかにされていく。
その解き明かされていく過程が、またスリリング。
歴史小説にも、数奇な家族史にも1女性の人物史にも、ミステリにも読める。
それも、ぐいぐい。
物語のうねり、面白さがある。
紙の本
本格ミステリを歴史を追いながら読んでいるわけではないので知らなかったのですが、ここで扱われている事件て有名だったんですねえ。そういう意味ではウィッチャー警部も有名人。だから発見を期待する本というのではないような・・・
2012/02/20 19:51
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
好きなデザインです。色合いも含めてどちらかといえばピーター・ラヴゼイの本といっても通じるもの。こういうデザインを見ると、ハヤカワ・デザインは新潮社装幀室とおなじく、かなりしっかりしたデザインポリシーを持っているんだ、って思ったりします。ま、新潮社ほど格調高いデザインは多くありませんが・・・
装画:J.Grimshaw,Blackman Street,London(C)akg/PPS
装幀:ハヤカワ・デザイン
で、私はこの本を以下のように考えて読み始め、そして読み終えました。そして
1)探偵に比べ注目されない刑事のルーツを、世界で初めて本格的に調べた
2)そして、今まで不明であった最初の刑事を特定した
3)その刑事の生涯がどのようなものであったかを明らかにした
4)その刑事にとって最も重要な事件について、調査した
という本だったな、と思ったわけです。つまり、ウィッチャー警部というのはこの本で初めて明らかにされた〈最初の刑事〉であり〈ロード・ヒル・ハウス殺人事件〉も、埋もれていた事件をケイトがウィッチャーとの関連で発掘したものでであると思い込んでいたわけです、つい最近まで。
つい最近、というのを具体的に書けば田中芳樹『髑髏城の花嫁』(東京創元社2011)を読むまでは、ということになります。『月蝕島の魔物』に続く一冊で、ヴィクトリア朝怪奇冒険譚三部作の二作目にあたる面白い小説ですが、そこにロンドン警視庁を創立した一人、イギリスで最初の刑事ウィッチャー警部が登場します。
そこのところを読んだとき、サラリと通り過ぎて、あれ? と思って引き返し、なんだかどこかで似たような記事を読んだ記憶が、と思い、自分のメモを検索したわけです。そうしたら、ズバリ、この本のタイトルがみつかり、あ、そうだった。もしかして、田中も『最初の刑事』を読んで、使えると判断したのかな、と思ったわけです。出版時期から言っても少しも矛盾はありません。
で、書評をまとめようと思ってまず、被疑者の一人〈コンスタンス・ケント〉についてネット検索したら、出るは出るは、なんとこの人も、ロード・ヒル・ハウス殺人事件も、有名だったんです。事件そのものが扱われた有名作品もある。ウィルキー・コリンズの 『月長石』がそれです。日本でも戦前に森下雨村が「コンスタンス・ケント事件」を書いているらしい。新青年傑作選に載っているようなので私も読んでいるはずですが記憶はありません。
コンスタンス以外の、刑事についてもディケンズが言及し、ジョン・ディクスン・カーも 『ハイチムニー荘の醜聞』でオマージュを捧げているというのです。そうなればディケンズが登場する田中の『髑髏城の花嫁』のウィッチャーが登場するのは当然といってもいい。ということは、私が最初に掲げた4つの項目のどれもがこの本の特徴というわけではなくなります。
最初の刑事がウィッチャーであることは有名だったし、その人生についても作家が取り上げるほど人口に膾炙していました。そして事件そのものもすでに探偵小説のルーツともいわれる小説のモデルにされている。つまり、発見したのではなく、超有名な事件と人物について、改めて調べなおしたノンフィクションということになります。
しかし、これはウィッチャー刑事を讃えあげる話にはなっていません。のどかな村で起きた幼児の惨殺事件解決の切り札として投入されたウィッチャーは、見事にその任務に失敗します。犯人と目される人間を絞り込みまでしたのに、決め手がないままにその人間を捕まえることができません。そして被疑者は海外に行ってしまいます。
そして事件の6年後、修道院で修行をしていた人物が院長にフランシスの殺害を告白し、訴追され、死刑を云い渡されますが、ヴィクトリア女王の特赦により終身刑に減刑され、100歳まで生きることになります。大体において暗く重苦しい話です。読み終えてスキッとする人は少ない。ヴィクトリア朝特有のものかもしれません。少なくとも女性が読んで楽しむものではない。
ネットでこの本、かなり多くの人が取り上げていますが、殆どが男性(ネットなので、言い切れはしませんが)で、どうも読んでいると、事件やウィッチャーのことをこの本で初めて知ったという人がかなりいるようです。そしてミステリマニアは刑事についても事件についても知ってはいますが、でも本格的なノンフィクションは初めて読む気配が濃厚です。
そういう意味で日本でやたら評判がいい本、とはいえるのでしょうが、私としては読後感がスッキリしません。総じて後付けの感が否めないのです。ただし、面白い人が出てきます。トマス・ソーンダースがそうで、「第十四章 ご婦人がた! 黙っていなさい!」で、ウィルトシャー、ブラッドフォード・アポン・エイヴォンの法廷弁護士で治安判事らしいのですが、この人、権限がないのに自発的にテンパランス・ホールで審問を開いたというのです。
自発的に? 勝手に、というか思い付きで、というほうが正しいような気がします。で、そこに人が集まる。メチャクチャだな、要するにリンチでしょ、って言いたくなります。ともかく、自分が担当ではないから、自分で場所を確保してそこで審問を開く。いまなら間違いなく法曹界から追放でしょう。全体が地味すぎるので、こんなヤンチャの存在が面白い・・・
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1860年、ヴィクトリア朝時代の英国。のどかな村にたたずむ屋敷<ロード・ヒル・ハウス>の敷地で、当主の三歳の息子が惨殺死体となって発見された。カントリーハウス・ミステリーのお手本のようなこの事件は当時の世間を賑わし、英国中を探偵熱へともたらした。本書は、その時屋敷の中にいた十二人の人物、十九の部屋を巡り、犯人と刑事が繰り広げた実在の事件を、探偵小説の手法も用いながら描いた一冊。
意外なことに、探偵というものがこの世に登場したのは、小説のほうが先であったという。1841年のエドガー・アラン・ポー『モルグ街の殺人』にてである。現実世界における最初の探偵は、その翌年、ロンドンの首都圏警察によって任命された。その時に刑事課を構成した八人のうちの一人、ジョナサン・ウィッチャー警部が本書の主人公の一人である。
警察と刑事とは、似て非なるものである。制服に身を包み、自分の受け持ち区域をコンパスの針よろしく巡回して、定期的に各地点を見回るのが警察の主な役割。一方で刑事は制服を脱ぎ捨て、自分達が捜索する悪党と同じように匿名の神出鬼没な存在となる。すぐれた記憶力、場違いなものを見抜く目、鋭敏な精神という、まさに「探偵的洞察」が求められる役どころである。この「探偵的洞察」こそが、本書において終始一貫、根底に流れるキーワードだ。ちなみに、本書において「刑事」と「探偵」は、ほぼ同義の意味として使用されている。
ウィッチャー刑事が、もつれた糸をほどいて解明していく様は、見どころ満載である。しかし、ミステリー小説を読み慣れている人にとっては、既視感のあるストーリー展開かもしれない。それもそのはず。この事件がきっかけとなり、その後さまざまな作家がインスパイアされ、数々の探偵小説を作り出してきたからにほかならない。代表的なものとしては、ウィルキー・コリンズ『月長石』、チャールズ・ディケンズ『エドウィン・ドルードの謎』、ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』など。あの『古畑任三郎』だって、『踊る大捜査線』だって、この事件がなかったらきっと生まれていなかったに違いない。
そして、その探偵的洞察は、犯人の中にも見出すことができる。犯人の某人物は、子ども時代に目にしたさまざまな小さな出来事をつなぎ合わせることで、結果的にある真実に気づく。そして、それが後の殺人へと、つながっていく。刑事と犯人はコインの表と裏。同じような資質を巡って、反対の立場から攻防を繰り広げるということなのである。
最も特徴的な点は、事件が解明されて以降のパートにある。古典的なミステリーの文脈にあてはめると、やや間延びしているという印象を受けかねないだけの分量を割いている。しかし、ここにノンフィクションとしてのリアリティを感じるのも事実である。現実は小説とは違う。事件が解明されたからといって、犯人の生涯がそこで終わるわけではない。実際に、犯人と目される某人物は、結果的に百歳まで生き延びる。エンディングの長さは、犯人の人生の長さでもあるのだ。
そういった意味で、本書の著者も探偵的洞察をいかんなく発揮している一人と言えるだろう。百年以上前の事件を丹念に調べ上げ、さまざまな事実をつなぎ合わせ、壮大なエンタテイメントへと昇華させている。犯人、刑事、当時の世相、著者、読者、その全員が探偵的洞察という秩序のもとに体系化され、一気にエンディングへと突き進む。その仕上がりは、まさに圧巻である。
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ヴィクトリア朝時代のイギリス、カントリーハウスで起きた殺人事件(犯人はこの中にいる!)とその捜査の顛末、関係した人々の人生を膨大な資料を元に再構成したノンフィクション。
ミステリー小説として読むべきではありません。結末の訪れない不安に身を委ねられて幸せでした。
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イギリスで最初の刑事となったウィッチャー。彼が手がけた一番有名な事件〈ロード・ヒル・ハウス事件〉について、本書では膨大な資料を基に再検討している。
事件そのものは非常に既視感がある。閉ざされた館で、謎めいた殺人が起きる。犯人はおそらく館にいた人物だが、みなが小さな秘密を抱えており、絞り込むことができない。その中を丹念に証拠を集め、証言をつきあわせ、事件をひもといていこうとする探偵……。
この事件が英国の初期探偵小説のモチーフとなっていることが多いそうだ。たしかに納得できる。
当時の空気感がよくわかり、非常におもしろかった。
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ヴィクトリア朝時代のイギリスで起こった幼児殺害事件のノンフィクション。
カントリーハウスに住む家族と使用人、内部犯としか思えない犯行、スコットランドヤードから派遣されて来た刑事、そして暴かれてゆく家庭の内情…まさに古き良きミステリの原点とも言えるこんな事件があったとは知らなかった。
スコットランドヤード刑事課創設時の8人の刑事の1人、ウィッチャー警部が捜査にあたるが、当時は刑事への偏見があり、中産階級の家庭内のプライバシーを暴くことへの反感も強く、捜査は困難を極める…
事実は小説より奇なりというような事件ではあるが、家族や使用人について、捜査の過程などを丹念に描いているため疾走感には乏しく、かなり重苦しく読みづらく感じた。しかしノンフィクションであるからそれも当然かもしれない。
タイトルでは”刑事”が主役のようだが、一方では事件の当事者の家族についての本とも言える。幼児が殺されて残った家族が疑われ、不倫や精神異常疑惑が世間に取り沙汰される。関わった人がみな不幸になってやりきれない事件だが、当時の世相やこの事件の古典探偵小説への影響がよくわかって面白かった。
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面白いです。
ノンフィクションなのですが、事件を追うと共に、当時の捜査、中産階級の屋敷の社会的な位置、女性の位置、そしてこの事件に刺激を受けてウィルキー・コリンズ「月長石」を始め、チャールス・ディケンズ、コナン・ドイルなどが探偵小説を生み出したこと…などなどが、少しずつ明らかにされていきます。その過程がまたスリリング。
歴史小説にも、数奇な家族史にも1女性の人物史にも、ミステリにも読めます。 圧倒的な調査量、それを組み立てる構成力、結びと後記による余韻。
物語のうねりがあります。
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久しぶりに睡魔に襲われる本でしたが、読後感はそんなに悪くありませんでした。本のタイトルと内容が一致してないようには思いましたが、、、
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ロード・ヒル・ハウス事件をミステリ(フィクション)のように読みたい場合、かなり欲求不満を抱えることになるでしょう。ノンフィクションゆえの驚き(関係者の写真とかその後とか)もあれば、イライラ(ほんとうに解決されたのかどうかは神のみぞ知る……?)もあります。さらに、とにかく登場人物が多く、実際にそれだけの人々が関わったのだから仕方がないとはいえ、特に前半は誰が誰やらわからなくなりそうでした。巻末の索引は、編集さんの恩情でしょうか……。
索引も入れて全514頁。後記までで438頁。ウィッチャー警部がロード・ヒル・ハウスで捜査を開始するのが110頁を過ぎてからです。序盤が長い~。
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19世紀半ばのヴィクトリア朝の英国で起こった実在の事件に関するノンフィクション。
このロード・ヒル・ハウスの殺人事件は、そのセンセーショナルな事件の性格から、英国中の人を"探偵熱”にうかれさせたという。
1860年6月のある日、のどかな田舎の村にある”ロード・ヒル・ハウス”の敷地内で、この屋敷の主サミュエル・ケントの3歳になる息子サヴィルの遺体が発見された。
サヴィルは切断寸前まで深く首を切られた上に、主に使用人が使う外便所の汚水だめに糞便にまみれ捨てられていた。
屋敷は厳重に施錠がなされていたため、いわば密室状態で、疑われたのは家族とその使用人だった。
このロード・ヒル・ハウス事件は、発生当初から世間の注目を集めたが、地元警察の初期捜査の不手際もあり暗礁に乗り上げる。
そこでスコットランド・ヤードから派遣されたのが、ジョナサン・ウィッチャー警部だった。
ウィッチャーは、犯人は屋敷内部の人間だと確信していた。
彼はロード・ヒル・ハウスの住人たちの癖や声の抑揚、身体や顔の表情を観察し、その人柄を推理した。
この事件は捜査する者がある人物を探し出さなければならないのではなく、その人物の隠された秘密を探り出さなければならないと考えていたのだった。
この事件がその後の探偵小説の祖であるといわれる所以はここにある。
まさにフーダニット。
古典的ミステリの容疑者たちは皆秘密を抱え、その秘密を守るために嘘をつき、しらばくれ、捜査する者の質問をはぐらかす。誰もが隠しごとをしているために、誰もが犯人に見える。
だが、そのほとんどの者の秘密は殺人ではない。これが古典的ミステリの主題だ。
ウィッチャーは、確信をもって家族のなかのある人物(一応、隠しときます)を犯人であると断定するが、探偵小説のようにすんなりと解決というわけにはいかなかった。
世論が犯人に味方したのだ。
敗北のその主な原因は、当時の階級差別にあった。
実際にはそういうことはないとわかってはいるものの、立派な中流(日本でいうところの上流)家庭の中に殺人犯がいるということなどありえない、あってはないらないという"偽善的モラル”と、労働者階級である警官が、立派な中流家庭に土足でずかずかと踏み込み、あれこれと詮索するなど許せないという反発のためだった。
ウィッチャーの名誉は地に落ちるのだが、その後事件は意外な進展をみせることとなる。
本書の巻頭には、わざわざカラーの2点の水彩画とセントポール大聖堂の床にあるモザイク画が添えられているが、意味は終盤明らかとなる。
著者はこの実在の事件の顛末を探偵小説の手法を用いて描き出したが、ある意味ディーヴァー並のラストに仕上げているのだ。
この事件は、確かにその後英国で花開く探偵小説の”始まりの書”となった。がしかし、現実の殺人事件は探偵小説とは絶対的に異なる。
それは時として事件を解決しそこなうばかりか、もつれ合った過去で道に迷い、自ら掘り起こした収集のつかない泥沼に陥ってしまうことさえもある。
http://spenth.blog111.fc2.com/blog-entry-119.htmlより
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のどかな村で起こった幼時の殺人事件の謎にスコットランドヤードの最初の刑事の1人であるウィッチャー警部が迫る。
寡聞にして知らなかったのだけど、描かれているのは実際に起こった事件で、のちに数々の探偵小説が生まれるもととなったものだそう。
刑事への偏見や、非協力的な被害者の家族たち。隠される人間関係の秘密…とミステリ小説さながらの問題を抱えて捜査は混迷を極める。
そしてあっけない犯人の判明。
謎は多く残り、小説のようにすっきりとした解決を見ない。
すっきりと片の付く探偵小説との対比を組み込みながら、関係者のその後まで描いていてとても興味深い。
脚注もあれこれ面白すぎる。
きっと何回でも読み返したくなる。この本と、そこに出てくる探偵小説を。
事件のルポだけでなく、最初の刑事ウィッチャーの挫折と功績、探偵小説の成り立ちを描き、歴史物としても楽しめた。
ミステリ好きなら読んで損はない1冊。
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1860年6月30日の朝
イングランド西部トロウブリッジの先の、のどかな村にある屋敷
「ロード・ヒル・ハウス」で、その屋敷の3歳の息子の死体が発見される。
屋敷を含む敷地内は、ある意味密室状態。
屋敷の外から人が入って逃げるということは考えにくい。
では、この犯行を行ったのは誰か?
家族か?使用人か??
ヴィクトリア朝時代のイングランドの田舎町で実際に起きた事件。
スコットランド・ヤードのウィッチャー警部が捜査にあたる。
のちの世の探偵小説のもとともなる、この事件の捜査や顛末を
つぶさに調べて描きだしたノンフィクション作品。
どうしたわけか、電車の中で読んでいると、何度も途中で寝てしまい
最後まで辿り着けるのかと、不安だったけど・・・おもしろかった!
1888年の「切り裂きジャック」よりも前に、こんな事件がおきていて
刑事によってしっかり捜査されていたとは・・・
しかし現実は、小説のようにはいかないものだ。
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19世紀、スコットランドヤード刑事課創設の際に「刑事」となったジョナサン・ウィッチャー警部と、彼が追った「ロード・ヒル・ハウス事件」を中心に置いたノンフィクション小説。
コリンズ、ディケンズといった人気作家が描いた作品に、ウィッチャーはじめ「最初の刑事」達が大きな影響を与えたことが判る。
この本、「ロード・ヒル・ハウス事件」を軸にはしているものの、時間軸が前後しながら彼らが扱った全く関係ない他の事件のエピソードも大量に含まれているため、一つの事件を扱った「探偵小説」として読むには難あり、な構成です。
しかし、19世紀末当時のリアルなイギリス家庭、社会風俗、ゴシップ誌による白熱する報道、日々の生活に関係する様々な職業(例えば家庭教師、メイド、そして「刑事」)を知るための「資料集のような小説」と見れば、この情報量は読み応えバッチリの良書でしょう。あとは、この事件に絡んだ様々な関係者の伝記的小説とも解釈できるかな。
というわけで、この本は「切り裂きジャックのような実際にあった事件」や「19世紀の英国」に興味があり、その方面の研究書などを読み慣れている人向けで、「最初の刑事が事件をぐいぐい調査してスパーンと解決!」のような綺麗な「探偵小説」としての流れを望んでいる人には、かなり読み辛い本なんじゃないかなぁ、というのが読了後の印象でした。
自分はこういう研究書の類も大好きなので苦にならない読書でしたが。
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たんたんとして始めは乗れなかったけど、梅毒という病気が発端で起こってしまった事件かもしれないとと思うと、やりきれない気持ちになった。19世紀において弱者である女性の悲劇といえるかもしれない。
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うーん、最初の三分の一ほどはすごく面白かったんだけどなあ。その後はやや退屈だった。実在の「最初の刑事」と実際に起こった殺人事件を追っていくことで「ミステリという娯楽」について考える、という構えは新鮮だが、ちょっと中途半端な感じで焦点がぼけているのでは。