紙の本
男たちの痛々しさ…佐藤泰志「大きなハードルと小さなハードル」。
2011/08/03 17:45
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずっと読んできた佐藤泰志も文庫作品はこれで終わり、初期作品集を
残すのみとなった。何だかちょっと寂しい。さて、この「大きなハード
ルと小さなハードル」は「秀雄もの」と呼ばれている連作5作が第一部、
その他の短篇2作が第二部という構成。第一部、最初の「美しい夏」で
主人公の秀雄は光恵という女性と暮らしているが、そのタイトルとは逆
で全編を被っているのは、ギスギスとした何ともイヤな空気だ。そのほ
とんどは主人公秀雄が生み出している。次の「野栗鼠」では2人の間に
陽子という三歳の娘が生まれ、表題作「大きなハードルと小さなハード
ル」では秀雄の重度のアルコール中毒が明らかになる。いたたまれない
ような家庭の雰囲気、少しも噛み合うことのない夫婦の会話、この連作
にはこれまでの佐藤の作品にはあった、ささやかな喜びやかすかな希望
さえ感じることができない。作者のいつもながらのリアリティに感心し
ながらも戸惑っている自分がいる。
第二部はまったく違う主人公たちの話なのだが、やはり居心地の悪さ
というか読み心地の悪さがある。この本の男たちは常にいらだっている
のだ。ラスト一作だけ少し明るいトーンがあるのが救いだが…。あがき
ながら、もがきながら、なんとか輝きを取り戻そうとする男たちの痛々
しさに少々まいった。
紙の本
孤高の短編集
2017/04/15 03:54
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
社会から忘れられたような場所で生き続けることが伝わってくる。芥川賞に5度落選しても屈しない心を感じた。
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この作品、労働小説色が濃くなかったぶん、読みやすかった。
あくまでも個人的に。
特に後半の二作「鬼ガ島」「夜、鳥たちが啼く」がよかった。
「夜、…」の方は、村上春樹「風の歌を聴け」を厭世的にではなく描いたら…という印象。
あくまでも個人的に。
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第1部「美しい夏」「野栗鼠」「大きなハードルと小さなハードル」「納屋のように広い心」「裸者の夏」、第2部「鬼ガ島」「夜、鳥たちが啼く」。
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「凄春」という表現を使ったのは五木寛之先生だったであろうか…だが敢えて私はこの言葉を佐藤氏の小説に冠したいと思う。
今回は結婚、離婚を扱った中編1作と短編2作、当然ながら独特の視線で我々の日常では経験することのない設定がされていることは言うまでもない。その世界観が「受け入れられなかった作家」の理由なのでありやはり万人にお勧めすることは出来ないだろう。
しかしどの作品にも描かれる闇は決してネガティブなものでなく光を求めて切り拓こうともがく凄春は常に前を見ている。そしてそこから「輝く」ことこそが佐藤氏の永遠に追い求めたテーマなのである
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41歳で止まってしまった作者死後にまとめられた最後の作品集という。しかし、どうしてこんなにみずみずしいのだろうか。生前芥川賞候補に何回もなりながら受賞しなかったというが、これこそ芥川賞じゃないか!
文章リズムの若々しさと、雰囲気がえもいわれぬ。そして何しろ登場人物たちの会話がいい。エスプリとはこういうものを言うので。
例えば「夜、鳥たちが鳴く」の一節
(浮気をされた友人の妻が、主人公の借家に飛び込んできて同居する羽目になったのだが、友人妻のやけくそ行動に心穏やかならず、ついになるべくしてなってしまったその後に・・・)
・・・・・・・
「なんだ」
「あたし、どこかおかしい?」
男のことだとわかった。考えるふりをした。慎重に言葉を選んだ。まず、首を振った。それからいった。
「ただ、とっかえひっかえじゃ、疲れないか」
「かもしれないわ」
「それでいいと思っていたんだろ」
「ええ」
「俺ならしない」
「あんたはあたしじゃないわ」
「でも、自分でやっておいて、そんなことを喋ることはないだろ。違うか」
「かもしれないわ。・・・・・・・
収められている5つの短編がそれぞれ、言葉と言葉、文章と文章の間のきらめきを感じる。
古いところで長塚節氏「土」の文章と会話のリアリズムになぞらえてしまう。あれは俳句的な要素もあったが、ここでは現代詩的要素と言いたい。短編それぞれのタイトルがいいのは前にも言った。
またこの文庫本の堀江敏幸さんの「陽の光は消えずに色を変える」解説が抜群、すっきりとよくわかるこれ以上の解説はないと思う。(堀江敏幸さんは未読なのでぜひ読もう)
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映画、きみの鳥はうたえるがとても良く
同原作者が映画化されるという事なので読んだ
父親もアルコール中毒だったし
私も人の親になってもおかしくない齢にもなったので
感慨深く読みました
二編共に平穏とは呼べない日常が描かれているが
その中でも希望を見い出し先へ歩む
そんな結末だった
やはり子どもは光
きみの鳥はうたえる
もう一度観てみよう
原作も読んでみよう
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佐藤泰志作品の映像化は欠かさず観てるので未読だった『夜、鳥たちが啼く』の制作が決まってこの文庫購入。
まずこちらから先に読んでしまったけど、収蔵順に読んだほうがよかったかな?
Ⅰ部の5編は連作で登場人物が繋がってます。
Ⅱ部の2編は書かれた時期、掲載順などは全く関係ないのですが、通しで読むとこの順番の妙がわかりました。編集者ってやはり凄い!
(ちなみに映画は「夜、鳥たちが啼く」の一編からだけでなく、この一冊の中からいくつかのエピソードを入れ込んでいます。ですから一冊丸ごと読んだ方が映画は更に面白くなるのではないかと。)
小説は独特の〝視点〟の取り方に初めは混乱しましたが、そういう事ならそれを思いきり味わおうと、少し意識して読み始めました。が、そのうちそんなことも忘れてノってしまいました。
Ⅰ部における主人公秀雄は、ひどい人なんです。
でも変な色気というか、活き活きとしていないところで逆に生命力を感じるような、そんなダウナー的魅力を感じてしまった。
光恵も同じだったのかな………。
だからといって光恵には共感は出来ないけど。
II部の「鬼ヶ島」は、サラリと書かれているように見えつつ実はかなり重い。そして僕〝高橋君〟は、この先苦しくなるに違いないと思うのだけど、彼がそれを自分の事として捉えられるのか、が気になります。自己中なようで実は視野広め。でも我は強い。文子とは共依存的なのかもしれないな。
「夜、鳥たちが啼く」はこの一冊の最後の締めとして実に良いんです。佐藤泰志にしては珍しく、ある意味前向きな話で。
〝そうだね。でもそう考えただけで素晴らしいんじゃないか〟キーになるこの一文に救われる。
全編通して、何かを背負い込む男は優しいだけじゃないと教えてくれました。
既に何かを抱えてるからそうするんだな。
男に限った話じゃない。
他人に限った話じゃない。
もう一回観たいな、映画。
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”世間の眼などどうでもよかった。鳥は夜に眠り、啼かないものだ、と教えてくれる世間など。”
作品の空気感みたいなもので言えば、一番クセになっている著者。
今作も男女や家族の3つの短い物語から、カラッと晴れてはいないけど雨でもない、それでいてジトっとともしていないような、独特の空気を感じとれた。
どの作品も明るく朗らかって感じてはないし、早々特別なことがあるわけでもないけど、日常生活の些細な機微がきっかけとなり、微かなこれからへの希望を見出していた。
長い時間をかけて、この人の物語をできるだけ多く読んでいきたい。
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この時期に読めてよかった。暑すぎる夏にぴったりの作品集だ。
IIに収録されている「鬼ガ島」と「夜、鳥たちが啼く」がとても好き。どちらも最後が良かった。最後の良い小説は、読んでいてうんと元気が出る。