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紙の本
友だち何人できたかな
2011/08/05 08:19
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
和田誠さんは多才の人です。
イラストレーターはいうまでもなく、絵本作家、映画監督、作曲家、エッセイスト、等々、それに本書でその才能の一端をみせる俳人。
俳人についていえば、和田さんはアマチュア俳人と謙遜されるでしょうが、かつて和田さんが「麻雀放浪記」で初監督をした際にアマチュア監督といったら怒られたように、ここは「異業種俳人」といえばよろしいのかもしれません。
そうはいっても俳句という文芸は五七五という短詩形式ゆえに素人でも詠みやすいですから、アマチュア俳人が登場しやすい世界だといえます。まして日本全国いたるところに、五七五のリズムによる標語とか惹句があふれていますから、俳句の文法を知らなくても、ふと口からこぼれるのが俳句めいているのはよくあります。
もっとも和田さんの俳句はそんな素人俳句の域をすっかり越えられているのは、本書の俳句を詠めば一目瞭然です。
この本にはそんな和田さんの俳句でつながる交遊録、人物評がエッセイとしてして綴られています。
「楼蘭に架かりし虹の大いなる」という句は黒柳徹子さんに贈られた句です。黒柳さんは俳号に「楼蘭」とつけられるほど画家のマリー・ローランサンの絵が好きなんだそうです。だから、こっそりと句のなかにもしのばせたというわけです。
そういうユーモア感が和田さんの俳句の特徴といえます。それにこういう俳句をもらえば、自分のことをちゃんと覚えてくれているんだと感激ひとしおだと思います。黒柳さんだってうれしかったにちがいありません。
そういう人の優しさが和田さんの俳句の魅力だし、和田さんのたくさんの才能の基本だし、それこそ和田誠という人間の魅力でもあります。
和田さんはまさに「友達づくりの名人」なのです。
こういった交遊録俳句以外に、本書には映画好きの和田さんならではの映画俳句も収録されています。
たとえば、「野伏せりも絶へて我等の田植歌」は黒澤明の名作『七人の侍』から詠まれた俳句です。わずか五七五の俳句であの長編の映画の心髄を詠んでしまうのですから、和田さんの俳句の腕まえはすごいものです。
和田さんの詠みっぷりもすごいですが、俳句という短詩はそういう批評性のある詠み方も可能な文芸ということを再確認できます。
俳句はいろいろなルールのある文芸ですが、和田さんの俳句はそんなルールを軽快に飛びこえています。そういった軽妙さもまた、和田さんの俳句のおもしろさといえます。
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