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久しぶりに有吉佐和子さん。
有吉さんの作品を読むときは、また楽しませてもらえると安心して思える。
陶芸家により生みだされた青磁の壺。
その壺が、売られたり贈られたり盗まれたりしながら、様々なひとの手元に渡る。
青い壺は、所有者と浅く深く関わりながら、それぞれの生活を見つめる。
ひとつの作品であるが、全13話ひとつひとつが独立した物語になっている。
壺など命を持たないものが、人間の生活を見つめる話はよくある。それ自体に珍しさも意外性もないが、ありきたりな設定も有吉佐和子の手にかかれば素晴らしい作品に仕上げてしまう。
今回の有吉佐和子にも間違いなしというところだ。
どの物語も面白く読めるが、その中で特に印象に残るもの。
第二話
会社を退職した寅三は、妻の勧めもあり世話になった上司にお礼をするため百貨店へ行く。品選びに迷う中、青磁の壺に出会う。
寅三は青磁の壺を持って会社に向かうが…。
何ということのない物語だが、会社を辞めた寅三が上司にお礼してからが切ないというか物悲しいというか。
生活の張りを失くした男の悲哀がある。
第七話
バーのマダムが忘れ物の青磁の壺を届けてくれる。
その壺を見て戦争中の夫との思い出を回想する母親。
裕福な暮らしを送っていても、戦争の影響は必ずある。
海外にもよく行き、都度高価な食器などを土産に買ってきた夫は、生活の変わってしまった妻のためにディナーを用意してくれるのだが、夫の心遣いと心の豊かさがじんわりとする。
第九話
年老いた弓香が、京都へ50年ぶりの同窓会のために行く。
若い頃に別れたままの旧友に、腰も痛んでまっすぐ伸びなくなってから会う。
弾む気持ちで新幹線に乗る弓香だが…。
旅行の準備でわらわらする様、旅先での色々、青磁の壺に思いがけず出会い手に入れるまでなどの文章が面白い。
クスリとしながら読んだ。
最終的に、青磁の壺は陶芸家本人の目の前に戻ってくる。
そこでまたひとつ物語があり、最後に陶芸家の感じたことで話は纏めてある。
陶芸家が生み出して始まり、陶芸家の気持ちで締めくくられ、上手くひとつの物語として構成されている。
壺は次にどんな生活を見るのかと気になって、一息に読んでしまった。
和服にも詳しく、歌舞伎など舞台にも造詣の深い有吉さんが青磁の壺を描写するところなどに、日本の文化を大切にされ、作品それぞれにも表れている有吉さんらしさがあった。
文章も弾むように活き活きしている良い作品だった。
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美しい青磁の壷が作者の手を離れてから10数年の間に13人の手を経て再び作者と再会するまでのお話。ふと海外の蚤の市で買ったアンティークを思い出した。私の手元にやってくるまでにどんな人生を見てきたんだろう。様々な人の業を染み込ませながら古色を帯びてきたのかと思うとなんだか怖い。
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短編の連作。会話が中心で非常に読みやすく、引き込まれる。それぞれの話にちょっと毒が含まれていておもしろい。それでいて考えさせる要素も盛り込まれていて、非常に満損感を得られる作品だった。
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ある一人の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺は、売られ、盗まれ、譲られながら人の手を渡り、果ては遠く異国の地へ運ばれる。
青い壺が映し出したそれぞれの人の営みが今ここに。
青い壺が誕生する瞬間の、見事なまでの美しさを目に焼き付けたところから物語ははじまり、青い壺が辿った道のりを読者は追随していくのですが、これがまたおもしろいんです。
連作短編集といっても、ある一定の範囲で主人公が入れ替わるのと違って、青い壺が受け渡されると場面はかわり、それでいて前後の繋がりはわかり、不思議な縁に導かれてそれぞれの物語を読むのがこんなにわくわくするものだとは思いませんでした。
そして、章ごとに綴られた物語がまた胸を打つんです。
どの章も甲乙つけがたいんですが、特に好きだったのが、素敵なご夫妻が戦時中にとった特別なディナーの話。
読んでいて違和感がないからつい忘れてしまいそうになるけど、この本が書かれたのも35年ちかく昔の話だから、自然と戦時中のことが身近な昔話として登場したりするんですよね。戦争を乗り越えた人たちの、芯の強さに触れて、人としての尊さとは何かを考えさせられたりもしました。
きっと骨董品などの古くから受け継がれたモノたちもまた、こんな風にたくさんの人の手を渡って、いろんな物語を見てきたんだろうと思うと、それもまたおもしろく思えます。
時代を越えていきいきと息づく物語は、今の時代にこそ読まれてしかるべきものなのかもしれないですね。
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老境に差し掛からんとした陶芸家がふとした偶然で青磁の名品を焼き上げる。その青い壺が人から人へと渡り、様々な形で紡いで行く13編の物語。一つ一つの話はどうということのない日常描写なのだが、不思議と飽きさせない。
有吉佐和子は(友人からオススメされて)少し読んでみようと思っている作家なのだが、なかなか時間が取れずに、まだ「恍惚の人」も「複合汚染」も未読。しかし、この「青い壺」も代表作の一つとのこと。
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青い壺が巡る様々な人間模様。登場人物や人物を取り巻く環境、さらに作風や台詞回しを微妙に変えながらの短編集で飽きずに読める。まだ背景が戦後であること節々で時代を感じる場面があり、この本が書かれた昭和51年頃の時代に思いを馳せる。青い壺の成り行きが時折刻銘に書かれておらず、読者の想像力を掻き立てさせるところが上手い。本編に関係なく挿入されるエピソードなどが奥行きを感じさせる。
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青磁の壺が人から人へ伝わっていく数奇な連作短編集。京都で磁器を作り続ける省造はある日会心の壺を焼く。この壺が狂言回し役となって、持ち主が移り変わり語られるエピソードが楽しい。練達のストーリーテラーが綴る極上のエンターテイメントです。
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久しぶりに、有吉佐和子を読みたくなった。
牧田省造は中年で、磁器を作っている。父親の仕事を受け継いだのだが、だんだんと父親に似てくる自分が嫌になる。父親は気に入らない磁器は投げつけて壊していた。そんなことは、したくないと子供ながらに思っていたが、それをしてしまう。それでも、快心の磁器の経管ができた。青いずん胴の壺。実に味わい深いものだった。省造は、古色にする技術を持っていた。フッ化水素酸を使うのだ。
贔屓の古物商がやってきて、古色化したものを受け取るときに、その青い壺を褒めた。省造は喜んだが、古物商は、古色にしてくれと言って帰った。がっかりするのだった。そのがっかりを見た妻は、デパートの営業が気に入ったというので、売ってしまった。
そこから、青い壺は、バトンのように人から人に渡っていく。定年退職した夫と一緒に買いに行った妻がデパートで見つけ購入する。そして、青い壺を世話になった副社長に届けるのだが、夫は完全にボケていた。仕事が趣味の夫は、仕事をとったら、抜け殻のようになっていた。有吉佐和子の「恍惚の人」を思わせる描写。戦争を経験した人たちの過去が浮き彫りになる。青い壺は寸胴になっているので、花の生け方が難しい。その壺に会う花を生けるのに一苦労するのだ。花器に合わせていけるのは確かに難しい。
フランスのほろほろ鶏の料理などもなんとも言えない哀愁を感じる。フランスにいた母親は、「味覚は教養なのよ」なんていうのだ。それは、70歳になって女学校の同級生の京都旅行でも、その老人たちのボケぶりが遺憾なく発揮される。コルセットや入れ歯が話題となる。嫌だ。嫌だ。老人の愚かさを見せつける。
子供達に、豆腐や人参を食べさせる苦労をする栄養士。豆腐や人参はうまく食べさせ評価を受けた、ほうれん草のスープは、えぐみが取れず真っ黒なスープになった。子供達は泣き出す始末。
修道院のシスターの45年ぶりのスペインの里帰り。時間が経ち老人になったことを知るのは恐ろしいことなのかもしれない。そして、スペインまで行った青い壺は、東京に戻り、また牧田省造と出会うのだった。省造は、たった10年で 深い古色がついたことが不思議に思えたのだった。青い壺も成長して、人間の生き様に育てられたのだ。やはり、有吉佐和子の作品は、老いに対する深い慈愛が満ちている。
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昭和51年に書かれたもので古く感じるところもありますが、思いがけず感動しました。ホロホロ鳥食べてみたい。
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これはおもしろい。これまでの長編有吉作品と少し毛色は違うけれど、ミステリーのようでいて向田邦子風戦後の昭和の市井の暮らしぶりを描いたエッセイのようでいて。
一人の陶芸家の傑作青い壺が様々な人の手にいろいろな事情で渡り旅に出る。その世間の荒波がまた遺産相続、病気、嫁姑・など様々な人間模様の中に置かれ、途中盗まれたりスペインの市場にまで行ったというのに最後にまた偶然作家が目にした場所とは。
13篇のなかで、定年後の夫との生活の憂いを描いた話がもう何十年も前という設定なのにめちゃくちゃリアルで、可笑しい。
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恍惚の人、悪女について以来、15年ぶりくらいの有吉佐和子の作品。恍惚で描かれた老人に関わる家や健康の問題と悪女のような多面的なストーリー展開に作風を感じた。悪女について程のスリリングさやインパクトはなく、少し小粒な印象で終わった。
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無名の陶芸家が偶然生み出した美しい青磁の壺が、次々と人手に渡り、十余年を経て再び陶芸家の目の前に姿を現す。
その間に壺が見てきた様々な人間の人生を切り取ってみせる連作短編集だ。
ある種のうっすらとした気味悪さと、もの悲しさと、少しの滑稽さ。持ち主が変わるたびにそれぞれのドラマが醸し出す雰囲気に唸る。
初めは不幸の壺として描かれるのかと思いきやそうではない。味わい深く、楽しめた。
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★3.5のおまけで。
こういう連作って昔からのものなんですね、よく考えたら(ちょっと違うかもですが)連歌というジャンルもあるくらいなんだから最近の流行りではないということ。
内容は読みやすく長旅なんかには持ってこいという感じですが、後半がちょっとダレてるというか、青い壷があんまりスパイスとして効いていない気がする。内容としてはこの作家が取り上げる題材でもあり読ませてくれるんですが、あくまで「青い壷」があまりワークしていないという意味です。
でもやっぱり読まれてないんだろうな、最近は。。。流行作家ってこういうものなんですかねぇ。
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有吉佐和子は本当に私にとってとてもおもしろい。
これは短編だが、ひとのドロドロした部分の想いが包み隠さずよく描かれている。
時代を感じさせない。
時代変われど、ひとの動向は変わらないんだと、とても参考になった
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主題ではないけど、1970年代って第二次大戦と地続きのところにあったんだなあとつくづく感じさせられた。
この小説に登場する人たちは、誰もが何かしらの形で戦争に関わりを持っている。
戦争で婚約者を失った人を見て気まずい空気になったり、軍歌の歌い方が成ってないと怒る人もいるけれど、そのときを生きるのに必死で、戦争について表向きはどこかあっけらかんとしている。不思議な空気感だなと思った。
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「肩に模様がない」
「(蜜柑を)お獅子にして積み上げる」