紙の本
放射能について、自分で考えるために
2011/08/09 22:08
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:dogger bank - この投稿者のレビュー一覧を見る
原発のひどい状況を告発する本はたくさんあるが、この本のアプローチはかなり変わっていて、おもしろい。著者は東大で言語論を研究している人。
原発事故のあと、メディアでは「ただちに健康に影響はありません」とか、「基準値以下の放射線なら心配する必要はありません」というような言葉を、立て続けに聞かされた。それに対して、「本当にそうなのかな?」と思っても、それをうまく周りの人に伝える言葉がなくて、欲求不満になった人は多いと思う。
たとえば、Dr.中川こと、東大病院の中川恵一氏は「100ミリシーベルトを被爆しても、がんの危険性は0.5%高くなるだけです」(毎日新聞3/20)と語った。中川氏は読者を安心させるために、今でもこういうことを言っているのだが、著者は反論してこう言う。
「ある学校の生徒200人につき1人を、無作為に選んで命を奪うという脅迫があった。過去の事態から、その脅迫が深刻に受け止めるべきものであることもわかっている(同じ0.5%のリスク)」これが「安全」と呼べるだろうか。
「危険」な状況を、「安心」にすり替えることは、実はそう難しくないようだ。社会的には年間1ミリシーベルトの基準があることをスルーした上で、発がんリスクを日常生活の中のリスク(たとえばタバコ)と比較して、放射能のリスクが比較的小さなものだと理解させればいい。もともと人々は、「安心」できる情報を求めているのだから、飲み込みは早い。
私たちのほとんどは、情報をマスメディアから受け取っているので、情報を正しく読み解くことは必須だ。中には間違ったものや、有害なバイアスのかかった情報もあるが、読み方によっては、実はいい情報源であることも多い。
注意しなければいけないのは、「社会的な基準(たとえば年間1ミリシーベルト)に言及することなく、専門家が自分の意見を主張している場合には、情報の受け手として注意が必要」と著者は訴える。
原発関係の本はたくさん出版されているが、メディアを席巻する「安心」「安全」報道を少しでも読み解き、なにより、自分で考える力を取り戻したい人にお勧めしたい、小さな本。
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友人たちとの勉強会の事前資料として読んだ。著者の影浦氏は、情報媒体構造論と言語メディア論の研究者。本書は、福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の影響をめぐるの報道を「その構造と機能の観点から言葉に即して読み解く」ものだけれど、同時に、放射性物質についての基礎知識と判断基準が誤りなく平易に読者に届くように注意深く工夫されているし、それだけでなく、端々に著者の真摯な姿勢が伺える。途中の論理展開には賛否もあるだろうが、貴重な新書と言ってよいと思う。
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放射能の危険度に関して
「ただちに危険な状況ではない」とか
「通常程度に食べていれば問題ない」とか
何だか よく分からない
何を信じていいのか 分からないことに
イライラする
さまざまな放射能の影響に関する本が出ていて、
どれを読んでも、どれが正しいのか分からず、混乱するばかり。
何が安全で、どうすれば安心かについて知りたいのに
明確な答えが得られない。
そんな時には、この本!
答えがわかります。
どこで情報の明確さが失われたのか、はっきりと解ります。
放射能の危険度は、年齢やら環境やらで複雑に変わってくるので
一言では説明できないこと
(=ニュースの限られた時間では無理)
確実に言えることは、
なるべく放射線に汚染されないのが一番ということだけ。
つまり、答えは自分自身で判断するんだということ、
そして、その判断の基準を明確にすることが必要だということ
それが一歩一歩くどいように説明されます。
これを読んでから、各種の放射能本を読むと、すっきりと解ります。
危険度の計算の仕方も書いてあります。
絶対おすすめの一冊!!!
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推薦理由:
原発事故後に繰り返された「直ちに健康に影響はない」という報道の根拠は何か、「暫定基準値以下なので安全」は信じられるのか、政府の「冷静な対応を求める」の意味は何なのか。本書は、様々な報道を分析し、自分で正しい判断を下す事の大切さを教えてくれる。身近な例を挙げた説明には大変説得力がある。
内容の紹介、感想など:
3月11日の大震災で東京電力福島第一原発の大事故が起こり、大量の放射性物質が放出された。政府は原子力緊急事態宣言を発令し、以降テレビや新聞などのメディアは様々な情報を伝えてきたが、その殆どは、放射能が各地で検出されているが、健康に被害を及ぼす程度ではないという「安全」を強調したものだった。本書では、メディアを読み解く情報リテラシーの専門家である著者が、原発事故後2か月余りの間にもたらされた新聞記事、政府の会見、専門家のコメントなどの様々な情報を分析し、これらの「安全」報道の問題点を明確にしている。
著者は、「安全」の社会的基準が正しく認識されないまま「暫定規制値」が安全の基準であるかのような報道をしたり、安全(根拠がある)と安心(個人的な感想)を混同したり、比較するべきではない状態を比較して安全の根拠としたり、事後に安心させるための理論でこれから対策を取るべき事前の安全を論じて危険を過小評価したりという様々な過ちを指摘して、安全報道の問題点を解説している。また、暫定規制値以下の被曝食料品が売れないのは明らかに「汚染被害」であり、それを「風評(根拠のない噂)被害」だとする報道は、生産者を苦しめ、消費者に汚染食品を強い、原発事故の責任を曖昧にするものであると批判している。
現代の情報化社会においては、錯綜する様々な情報を正しく判断する事が自らの命を守る事になる。本書は、情報リテラシーという視点から原発事故の報道を分析した、大変興味深く役に立つ本である。
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原発災害後の政府の発表した
「ただちに健康に影響はない」
「暫定基準値」
「冷静に行動を」
などのレトリックがいかに間違ったもので、どうみても国民の安全・安心に反したものであったかをわかりやすく解説した本。
放射能汚染の基準値を平常値よりあげ、暫定基準値とした上で風評被害という言葉で不買行動を片付ける報道そのものが、風評被害の原因となっていることなどわかりやすく書かれている。
また成人に対する安全係数をつかいながら幼児でも大丈夫などという初歩的な(あるいは意図的な)報道をマスコミが行ったことも弾劾している。
著者はリテラシーの専門家であって、放射線医学の専門家ではないが、放射線医学が放射線と健康の問題についてどう扱ってきたかということをしっかり理解し、伝える能力はあるので、その主張は妥当である。
マイナーな出版社であるとおもったが、本が売れなくても本を裁断しない出版社とのこと、多少読みにくいが、時間がたったいまこそあのときの報道は何が問題だったのか冷静に考えるために役に立つ本だ。
わかりやすさとリテラシーが同義ではないことも読んでいて感じた。
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昨年に読んだ本の一冊.報道の分析,概念や単位の丁寧な整理はさることながら,p.182-183は必読に値する.はしゃいだ精神に冷水を浴びせかける,厳しくも正しい問いかけだ.
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放射能「安全」報道をメディアの批判分析を行なったものである。そこで風評被害のレトリックを明らかにした。さらにICPRの基準値の年間1ミリシーベルトという政府の宣伝に対してヨーロッパ放射線リスク委員会CRRでは、持続的外部被爆については十分でないことと内部被爆では科学的方法の利用において重大な誤用があるということで、一般人の年間被爆量を0.1ミリシーベルト未満に抑えるように主張している。
年間1ミリシーベルトでは、2万人にひとりが癌で死ぬ、つまり6000人が癌で死ぬことを許容していることである。
年間0.1ミリシーベルトのためには、水が1リットルあたり2.5ベクレル以下であり、野菜が1キロあたり8.4ベクレル以下である。今は基準値以下で素通りである。
ニュースのメディアリテラシーを考えるために、現時点の日本では最適の本であろう。
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この本は震災4か月後に発行された、福島第一原発事故による放射線汚染の報道について分析したものである。そしてメディアの放射線報道を分析することにより、私たちが普段から目にするメディアの見方を説いている。
全体的に章立てもうまくされて、随時まとめのようなものも挟んであるため、とてもわかりやすい内容になっている。
放射線報道がよくわからない人の入門書としてだけでなく、メディアについて学びたい人におすすめしたい本。