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紙の本
文吉と勘太が藤木家に帰ってきた。跡継ぎの心配はなくなったものの、紋蔵には新たな悩みが。
2012/02/14 18:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
物書同心居眠り紋蔵シリーズ第九弾。
相変わらず、江戸社会を知る楽しみと暖かな人間関係が心地よい。
さまざまな難題や事件が意外なところから解決する魅力や、御定書を材にした物語の生々しい時代感はいつもの通り。
そして今作では、かつて藤木家の養子となっていた文吉と勘太が帰ってきて、面白さは倍増している。
上の兄姉は養子や嫁に行き、藤木家に残るのは、十二の妙ひとりだった。
紋蔵や妻の里は、継ぐのも継がないのも妙次第とは言うものの、新妻と婿の事件があって、婿を迎えるなら慎重にならざるを得ない。
そこへ文吉と勘太が帰ってきて、跡継ぎの心配はなくなった。
ところが、二人の通う手習い塾のごたごたが起きて、紋蔵の悩みは増すばかり。
そんな子供たちの問題と絡み合いながら進んでいく物語は八話。
【女心と妙の決心】
新妻の複雑な女心を甘く見て痛い目にあった婿の顛末。
婿の顔が嫌だからと家を飛び出しておきながら、放って置かれると気にくわないという理不尽な女心。
理はこちらにあると思っていると痛い目に遭うという、男には悩ましい題材。
【江戸相撲八百長崩れ殺し一件】
三場所連続優勝と三十連勝が期待される羽黒嶽を破った浜錦の死の真相。
八百長相撲と浜錦の死の真相に驚かされるが、辞めてくれ戻ってきてくれと身勝手な手習い塾のお師匠さんには驚かされる。
相変わらず文吉や勘太には辛い試練ではあるものの、けっこう人気があるのが救いだ。
【御奉行御手柄の鼻息】
町方の捕らえた掏摸を、加役(火盗改)が横取りしたことから始まったごたごたの顛末。
鬼平のイメージもあって火盗改は凄腕警察部隊という印象だが、実際の火盗改の内証は火の車で……。
【文吉の初恋】
十一にして女より義を貫いた文吉の苦い初恋を描いた作品。
二人の将来を想像させる結末が良かった。
武州へ行くこととなったちよ。手紙を無視した文吉を怒っている。
ちよは、見送りの文吉に板橋までついてこいと無言で首を振る。
板橋に着いて文吉の帰り際、それまで文吉を無視していたちよは、目に涙を浮かべていった。
「(手紙の)返事を寄越すだけじゃ駄目よ。迎えにくるのよ」
何年も先のことで、互いの状況も大きく変わっているはず。それでも文吉ははっきりいった。
「必ず迎えにいく」
【天網恢々疎にして漏らさず】
天網恢々疎にして漏らさずを地でいってしまった悪人の話。
せっかく一度は天の法の網を抜けたのに、ごたごたを起こしたばっかりに……。
【一心斎不覚の筆禍】
講釈師・風流軒一心斎が『戦国乱世美談の真贋』なる正鵠を射た書本を書いたために招いた筆禍。
たとえ正鵠を射た本当のことでも、それによって人の心が傷つけば、その気持ちも本当のこと。
論理的に正しければ、すべてにおいて正しいとは限らない。
【糞尿ばらまき一件始末】
小間物屋の店先にばらまかれた糞尿と冤罪の始末を描いた作品。
糞尿ばらまき一件の顛末だけでなく、ライバル店に奉公に出された小僧失踪の顛末を見ると、人の欲や妬みはあらためて怖いと思う。
【十四の娘を救ったお化け】
ろくでなしの父に遊女奉公へと売られそうになった娘を救ったものとは。
それにしても、『生活レベルの低い者が養女を遊女奉公に出しても、実家からの奉公中止の訴えは取り上げない』という細かいことまで御定書にあるのには驚いた。
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