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いま《アジア》をどう語るか みんなのレビュー
- 有馬 学 (編著), 松本 健一 (編著), 中島 岳志 (編著), 劉 傑 (編著), 李 成市 (編著)
- 税込価格:2,090円(19pt)
- 出版社:弦書房
- 発行年月:2011.11
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紙の本
明治維新史観、植民地史観、辛亥革命史観。
2011/11/19 10:22
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アジアを中心とした研究者である有馬学、松本健一、中島岳史、劉傑、李成市の5人による、アジアを考察するシンポジュウムの講演内容、討議内容をまとめた一冊である。会場はアジアの玄関口といわれる福岡というのも一興である。
この中で世界史の観点から発想を柔軟にして見なければならないと気付かせてくれたのは、松本健一氏の「大西洋」「大東洋」だった。現在、何の疑問も抱かずにアメリカとヨーロッパに挟まれた海を「大西洋」、アメリカと日本に挟まれた海を「太平洋」と呼んでいるが、幕末、日本では「太平洋」ではなく「大東洋」と記されていた事実に歴史を見るにあたって地理を含めて読まなければならないことが新鮮なひらめきだった。この話から、日本人の思考回路がダブルスタンダードであることを認識させられたが、他者の講演内容、シンポジュウムの内容に厚みを増している。
歴史は、現在の常識で過去を裁いてはならないといわれるが、植民地支配は当時のヨーロッパでの常識であり、そこから日本の植民地支配を否定することに難しさが生じることが分かる。されど、その被植民地にとっては屈辱のなにものでもなく、その対立構造を和解させることの困難を実感する内容でもあった。さらに、ダブルスタンダードの発想で考えると、太平洋戦争と大東亜戦争が異なる戦争であることがわかり、多面的に見なければならない歴史が一面的にしか認識されていない現代に愕然とする。
本書の中で玄洋社が日本軍部の手先となって朝鮮半島、大陸の侵略の先導役であったという定説が大きく揺らいでいることに、ようやくここまで来たのかと思った。日本の敗戦後、アメリカ帝国主義の戦争裁判によって日本の歴史は書きかえられてしまった。ゆえに、辛亥革命を支援した玄洋社が朝鮮半島を侵略したとする偽りの歴史が解明されないままとなった。なにかしら、日韓関係の対立構造を煽ることでメシを食った輩がいたのではと疑問を抱く。
今、日本は明治維新史で歴史を見、韓国は植民地史で歴史を裁き、中国は辛亥革命史で国家のプライドを維持している。それぞれが、それぞれの事情で歴史を見ているので、歴史教科書の整合性がとれないのは当然である。アジアの中の日本をどう位置付けるのか、どのように日本はアジアに生きて行くのか、発想の転換のヒントが隠れている一冊だったが、まだまだ道は遠いと思った。
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