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鎌倉時代後期〜南北朝時代の女流歌人(伏見院の中宮)。
新古今集以降、和歌は衰退して、つぎに正岡子規まで、みるべきものはなかった、みたいな乱暴な歴史感をあっさりと裏切ってくれるなんともすがすがしい歌の数々。
新古今集の過去に読まれた和歌のかずかずを複雑に襞として内側に内包しつつ、今、ある情景や心境を詠むという技巧をつくした世界を味わうと、たしかに一つのアートが完成し、完熟したと思ってしまう。
この先になにがあるのか?ということが考えられなくまで完成度。
が、永福門院は、そういう袋小路など、存在しないほど、あっさりと新鮮な歌を詠む。爽やかな風が吹いてくるような。
歌題としては、風景の描写が多く、素人の私が読んでも、概ね、歌の意味がわかるというか、解説なしでも直接その情景を味わうことができる。
なんだか、最近、読まれた歌のように、まだまだフレッシュな感覚。
過去においてさんざん歌われてきた情景などあまり気にせず、自分が面白いと思ったものを、そのまま歌にしたような感じ。もちろん、歌がそんなに簡単なものではなく、この自然さを表現するのに、相当の力量がいるだろうことは想像に難くない。でも、なんだか、すらっと自然に読まれているようにみえてしまう。
という感じで読んでいて、風景描写から、恋歌にうつると、とたんに歌を読んでも、意味がわからなくなる。。。。といっても、いわゆる新古今集的な難解さではなくなく、心理面の複雑さを繊細に読み込んでいるからだろうな。
終わりのほうでは、世の中が南北朝時代となって、だんだん厳しい環境のなかにあって、自身の死を意識したような作品が紹介されている。
今となっては、遠い歴史のなかの世界なんだけど、そこで生きる一人の人間の感情に触れた感じがした。