紙の本
冬は雪に閉ざされる島での古い家をめぐる歴史と秘密を丁寧に描く
2012/03/08 16:53
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
スウェーデンから橋一本でつながるバルト海に面した島、エーランド島。
ここは、夏は海と気候のすばらしさで別荘地としてたくさんの別荘がある島です。
「プライベートが守られる、あこがれの田舎暮らしはいかが?リフォーム要だが、
夏はゲストハウスとしても有効な広い屋敷」
そんな広告を見つけて、ヨアキム・ヴェスティンと妻、カトリン、娘のリヴィア、弟のガブリエル
4人家族はストックホルムの喧騒を逃れて、その家を買い、移り住んできました。
双子灯台という2つの灯台が近くにあり、北側の灯台は古くて灯をともしません。
しかし、この古い家、ウナギ岬の家は、1984年に作られた古い屋敷なのですが、
荒々しい、バルト海で沈没した船の木材で作られた家なのです。
たくさんの死者によって見守られているような家。ヨアキムたちはそんな事は知らない。
リフォームが趣味で出会って結婚した、というくらいの夫婦だから、家のリフォームは
喜んでやるところですが・・・・・・・妻、カトリンが海に溺れて死んでしまう。
喪失感にさいなまれるヨアキム。しかし、警察は足をすべらした・・・と判断しますが、
どうも釈然としない。
そんな時、女性警察官、ティルダがこの島に赴任してきます。のどかな島とはいえ
ドラッグや空き巣などの犯罪が都会よりも多いのが現状なのでした。
物語はゆっくりと家の昔の物語、伝承物語とヨアキムたちが少しずつ、妻、子供たちの
母の喪失感から抜け出していく様子を描きますが、警察官のティルダは大叔父にあたる
イェロフ老人から昔の話を聞き、テープに収めています。
死んだ妻のカトリンも、ティルダももともとはこのエーテル島の出身でした。
しかし、だんだん、ヨアキム一家にまた危険の予感がやってきます。
物語は十月から始まりますが、夏は海のある別荘地でも冬はブリザードに次ぐ、ブリザードで
雪に閉ざされた孤島になってしまう。
物語はじっくりと人々の様子を描き出し、また、エーランド島の自然や海の素晴らしさ、
海の怖さ、スウェーデンという北欧の冬の厳しさなどと丁寧に描きこみながら、
事態は意外な結末へと導かれます。
まさに読者は、導かれるというのが適切だと思うくらい、派手な事件、ショッキングな事件は
起りません。しかし、人々が暮らすというそのこと、日々の生活、そして積み上げられた
島の歴史がからみあって、クリスマスを目前にした吹雪と暗さの中でのある決着へと
集約していく様子は実に確実に、自信を持って、ある意味、急がず展開していく。
特別、特殊な人々は出てきません。ごく普通の人々の間に起きる「ずれ」
そして少しずつヨアキムが、わかってくる「古い家の持つ歴史」
また、この家には、人には知られないたくさんの秘密がありました。
荒れた海の近く、難破船の多いところには幽霊話がつきものだ・・・不動産の物件情報には
全くそんなことはうたわれません。様々な幽霊話が出てきますが、この物語では幽霊話は
メインではありません。幽霊のせいにしたがる人々の心の変化を、難破船の木材でできた家
という形にしました。
とても静かな物語ではあるのですが、その底に情熱のようなものを感じ、また、ブリザード
北欧の冬の厳しさをノンフィクションのように丁寧に描き出したからこそ、意外な結末を
知った後の余韻はさらに大きくなっていると思います。
紙の本
エーランド島の冬
2016/07/24 06:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
スウェーデン南東部に、海岸線に沿うようにして浮かぶエーランド島が舞台。
最も近い都市はカルマルで、ストックホルムとマルメのちょうど中間地点ぐらいにある。
島はバルト海に面していて、冬は海が凍るしブリザードもやってくる。 スウェーデンといっても、広いなぁ。
なんかもう、このシチュエーションだけで心惹かれる。
ストックホルムを離れて、近くに灯台のあるこの島の家に越してきたヨアキム一家。
この家族には悲しい過去があったが、それを振り切るために新しい生活を出発させたのに、またしても悲劇が・・・。
この古い屋敷には幽霊伝説があり、それがキワモノとしてではなく物語にうまく入り込んでいるというか、不思議な抒情性を全編に漂わせる効果をもたらしていて素敵です。
ほんとは『黄昏に眠る秋』から続くエーランド島四部作らしいのですが、主要人物が違うので(探偵役になる人だけが同じっぽい)どこから読んでも大丈夫らしい。 実際、この話の中では『黄昏に眠る秋』に関しての言及はなかったですし。
雰囲気だけで十分に読ませる作品なんだけど、最後にはしっかりミステリとしての解決が提示されていて・・・なんだかいきなり現実的になってちょっとびっくりした。
幻想文学的にまとめてもよかったのかもしれない。 もうひとつの主役は時の流れと、過去の死者たちだから。
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環境的な寒さ、冷たさはヒシヒシ伝わるけど、感情面の描写は全く寒さ、冷たさを感じない。
人ってあったかいもんやなって感じる。
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英国推理作家協会賞
スウェーデン推理作家アカデミー賞
「ガラスの鍵」賞
三冠の傑作!
…とまあこれだけの評価があるのでかなり期待していたんですが、
ちょっと中途半端かなあという印象。
エーランド島に移住し、双子の灯台を望む屋敷に住みはじめたヨアキムとその家族。しかし間もなく、一家に不幸が訪れる。
悲嘆に沈むヨアキムに、屋敷に起きる異変が追い打ちをかける。
無人の部屋で聞こえるささやき。子供が呼びかける影。何者かの気配がする納屋……
そして死者が現世に戻ってくると言われるクリスマス、猛吹雪で孤立した屋敷を歓迎されざる客たちが訪れる。
あとあと上記のあらすじを読むとかなり興味を惹かれるのですが、ちょっと冗長すぎる。これは作者の狙いでもあるのでしょうが。
肝心のクリスマスの場面とラストが残り4分の1から始まり、ラストは少し拍子抜けしてしまいました。
妻を喪った夫が、妻の還りをずっと待っている心情や、数々の伝記譚は良かったのですが…。
リーダビリティは高く、前作が傑作だったので期待しすぎたのでしょう。
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スウェーデン・エーランド島4部作 2巻目
美しい島の岬に立つ双子の灯台。その灯台守のために、嵐で難破した船の積荷で立てられた古い屋敷。秋、都会からその岬の屋敷に、妻と二人の子供と移り住んだ主人公を悲劇が襲う。ひと気のない冬の別荘地で強奪を繰り返す若者たち、島に再開された警察署へ赴任した若い女性警官。そして章ごとに語られる屋敷と灯台にまつわる死者たちのエピソード。壁の中からきこえる囁き。ある筈のないものの痕跡。不吉な予兆。謎めいた気配が、ひたひたと打ち寄せるように屋敷を訪れ、やがてブリザードの吹き荒れるクリスマスイブの夜を迎える。
秋から冬へ、ゆっくりと季節が移ろうように物語も動いていきます。全編通じて語られるのは、すべて死者たちの物語。前作でも登場した元船長のイェルロフ(今回もいい味を出しています)が語るのも、死んだ彼の兄の逸話です。北欧の暗い夜を想い、不気味なほどに陰鬱な気配を味わいながら、浸るように読むのがいいみたい。
おもしろかった。
春の巻の翻訳が待たれます。愉しみだ。
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ML 2012.5.6-2012.5.20
この作者は、派手さはないけど味わい深い作品となっている。
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これはいいです!
前作「黄昏に眠る秋」もよかったけれど、さらにしみじみとした味わいがある。ややホラー的なところもまたよし。じっくりした大人の読み物だと思う。
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エーランド島に移住してきた一家に訪れる不幸。
妻は死に、子供たちは夜な夜な幽霊の声を聞く。やがて死者が現世に戻るといわれるクリスマスが訪れる。
実に丹念に人間と自然の地味なドラマを描いている。
オカルトチックでもあり、それがブリザードの世界と相俟って、なんとも味のある物語を作っている。
本筋を牽引していく事件がまったくの脇役になってしまっているところもまた面白い。
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エーランド島 4 部作、
秋編「黄昏に眠る秋」に続く冬編「冬の灯台が語るとき」。
純粋なミステリからは大きく逸脱しているのだが、
なぜか惹かれるこの作家、この作風。
春編、夏編もすでに既刊なんだな。
翻訳が待ち遠しい。
2008 年 スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀長編賞受賞作品。
2009 年 ガラスの鍵賞受賞作品。
2010 年 英国推理作家協会(CWA)賞インターナショナル・ダガー賞受賞作品。
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ゴシックとミステリーの融合のために凝った筋書きが用意されてるかと思いきや、皆無なので、ちょっと肩透かし感。
ですが、双子の灯台や隠された礼拝堂など、舞台はおどろおどろしくて好きな雰囲気でした。ブリザードの中をもうろうとしながら歩くヘンリクを祖父が引っ張っていく場面がよかったなあ。
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北欧ミステリ。海辺に立つ古い家。その家に暮らしてきた人々の短いエピソードと新しく引っ越してきた家族の話が交互に語られる。その形式が「ボグ・チャイルド」を想起させたのだが、途中呼応するように「沼地での捧げもの」の逸話もあり驚いた。ミステリとしての解決はあまりすっきりしなかったが、土地の風物・空気感は楽しめた。
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(No.12-45) ミステリです。
内容紹介を、表紙裏から転載します。
『エーランド島に移住し、双子の灯台を望む屋敷に住み始めたヨアキムとその家族。しかしまもなく、一家に不幸が訪れる。
悲嘆に沈む彼に、屋敷に起きる異変が追い討ちをかける。無人の部屋で聞こえるささやき。子供が呼びかける影。何者かの気配がする納屋・・・。
そして死者が現世に戻ってくると言われるクリスマス、猛吹雪で孤立した屋敷を歓迎されざる客たちが訪れる。
スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞、「ガラスの鍵」賞、の三冠に輝く傑作ミステリ。』
テレビの本紹介番組でなんだかすごく面白い本らしいと知り、読んでみることにしました。え~っ?その時には言ってなかったじゃない、これがシリーズ2作目だとは。
でも登場人物が何人か同じ人がいるほかは、主人公も(同じ島だけれど)場所も違って、これ一冊で完結してるとのこと。じゃあとりあえずこれから読んでも良いかな!
雰囲気は暗いです。灯台付近で起きた過去の悲劇的な事件の話が時々挟まれ、ホラーっぽい場面もちらほら。
大きな盛り上がりもなく、淡々と話が進んで行きます。
一家の悲劇とは無関係に思える、ある若者たちの暴力的な犯罪。この島にやってきた、新任の女性警官ティルダのこと。
何故か同じトーンで暗くてひっそりした感じ。
読んでいて気持ちが沈みこんでいく感じがしました。だけど、ぐいぐい惹きつけられているわけじゃないのに、物語に捕らえられてしまって読むのをやめれません。なんだか呼吸まで静かになってしまって。
この静かで暗い物語を読み終え、ふと、気持ちがとても軽くなっていることに気が付きました。
多くの犯罪被害者家族の方がこう言います。「何が起きたのか、なぜなのか知りたい」と。
そう、私はずっとヨアキムの気持ちに寄り添ってこの物語を読んでいたのです。そして軽くなったこの気持ちは、ヨアキムの気持ちなのだと思います。
これは是非シリーズ一冊目を読みたい!たくさん賞をとったことに納得の一冊でした。
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前作、『黄昏に眠る秋』を上回る出来。
2つの灯台のある「ウナギ岬」で、過去の魂と現在の不幸、計画進行中の悪事が交わる人間ドラマ。
前作同様、現在の物語に過去が追いつく構成をとっているのだが、各登場人物の交わり方がとにかく秀逸。ああ、そういうストーリーだったのかと。
何が中心的な事件なのか判然としないまま物語は流れていくのだが、それは決して前振りが長いと感じるようなものではなく、全ての要素が人間ドラマとして興味深い。過去が現在にオーバーラップしてくることにより、連綿と続く土地の歴史と各登場人物の繋がりが見えてきて、物語全体の深みが増す。
読み終わることによって大きな絵の全体が明らかになる。チープなトリックに凝ることない、現代ミステリとしてあるべき形の一作と感じた。
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面白かったです。
幽霊の話し(過去の話し)と今の話しとが
混ざってからまっていい感じになっています。
シリーズとして読んでも、単品で読んでも
どちらでも楽しめると思います。
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先日読んだ「黄昏に眠る秋」と同じ著者が執筆した本書。
「黄昏~」がデビュー作だったので、デビュー2作目となります。
舞台は前作と同じエーランド島です。
では、前置きはこの位にしてあらすじをご紹介。
ストックホルム在住の若い家族連れがエーランド島東部、ウナギ岬にある木造邸宅を購入。
荒れ果てたこの家をリフォームし、ここで暮らしていこうとするが、何の前触れもなく妻が海に向かって投身自殺する。
憔悴する夫。
やがて彼は、家族以外に誰も居ないはずの自宅に何者かの存在を感じ始める。
そして、ブリザード吹き荒れるクリスマスの夜。
妻との再会を望む夫のもとにやって来たのは・・・
前作同様、過去と現在を行き来しつつストーリーがつづられています。
全編ホラー小説的な印象を受け、読みながら「前作とは違って本書はホラー小説的な内容なのかな?」とも思ったのですが、きちんとミステリーしていました。
尚、同書も「ガラスの鍵」賞を始めとする様々な賞を受賞しており、訳者による後書きで引用された英ガーディアン紙の書評によれば「前作を上回る出来」との事。
大人向けの¨苦味¨のある小説をお読みになりたい時などにお勧めです。