面白い、そして現実のこととして考える材料満載である。
2012/11/08 17:49
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトル、副題からすでに「パンク」や「ハッカー」、「DIY]といった生物との関連がすぐにはつかないような単語が並んでいる。そして初めの数ページから「こんな人たちがいるのか」「これは近未来SF」ではないのか、「ありそうだけれど、ほんとうにあるの?」という感じであった。私が遅れているだけなのかもしれないが。
企業や組織の中でなく、自宅のキッチンのようなところでDIY工作のようにDNAを調べたりいろいろやってみたい、と実践する人たち。そんな人たちを「バイオパンク」と呼ぶのだそうだ。本書ではそんなバイオパンクがどのような理由でDIYで始めたか、どんな活動をしているのかなどが実在の人や会社の話として、さまざまな角度から語られていく。
文章は良いテンポで、サイエンス・フィクションの感覚て読んでいるうちはスリリングでわくわくする。しかし、これはサイエンス・ドキュメンタリーであり現実なのだ。そう思うと、読み進むうちにどんどん希望と不安にさいなまれることになり、考え込みさえしてしまった。
強調されるのは「一部の人間や既存のシステムにだけ独占させるな」ということ。権利や安全を理由に情報が閉じられていることで発展が妨げられているのはおかしいという主張だ。情報を公開し広くアイデアや方法を使えるようにしよう、という主張はわかる。しかし、少々著者の肩入れが強すぎるような文調に抵抗を感じるところもあった。よいことばかりではないのではないだろうか、と。
本書内でもしばしば出てくるが、原子力の扱いと共通する問題が多くある。例えば情報を公開することの重要性。実際に放射能がどうなっているのか、などについての原発事故の記憶は日本人には生々しい。情報公開はしてほしい。だが「操作する自由」はどうか。「自分でコントロールしている、という感覚を人は必要としている」という著者の考えは正しいだろう。しかし「自分で責任を持ってすべて管理する」ことのつらさ、重さに耐えられる人間ばかりだろうか。人間は「楽でいたい」と欲するのもまた正しいようなのだから。こんな風にさまざまな疑問が突きつけられる。
「ネットで注文すれば・・・」などの記述は、現実にやろうと思えば個人でDNA検査をし、DNAを組み立てることは日本でだってそんなに難しくないことを示している。放射能の測定や検査を「自分たちでやらなければ」となっているのも事実である。しかし、「個人で加工する、反応させる」のはどうなのか。事故の際の管理はどうするのだろう。 著者はあくまでも「皆が共有すれば科学は善いものである」と楽観的であるが、一度事故が広まった時のことを皆がきちんと考えられるだろうか、と悲観的な思いがどうしてもつきまとった。
面白い、そして現実のこととして考える材料満載である。
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かつてスティーブ・ジョブズは「文系と理系の交差点に建てる人にこそ大きな価値がある」という話を聞いて、その道を志すことを決心したそうだ。すなわち人文科学と自然科学の交差するところに、自身の活路を見出したということである。
その感覚の正しさは、現在の世の中の趨勢を見れば火を見るより明らかなのだが、スティーブ・ジョブズが決心したのは、もう何十年も前のことである。以降、新しい交差点はいくつも出来て、中には消えていったものもある。
本書で紹介されている内容は、その新しく出来た交差点の中でも最もホットな領域にあたるのではないかと思う。それが生命科学と情報科学の交差点である。発端は2003年のヒトゲノム・プロジェクトによるDNAコードの解読だ。研究者たちは、生命の設計指示書であるDNAコードとコンピュータのプログラミングに使うコードが驚くほど似ていることに気付いたのである。
コンピュータハッカーの第一世代が自宅のガレージで革新的な技術やソフトウェアを生み出したように、21世紀のバイオハッカーたちも自宅のガレージやキッチンで、DNAデータを使って生命言語の操作に乗り出しているという。かつてのハッカーを彷彿させるアウトサイダー研究者たち。本書はそんな彼らの実像に迫った生命科学の最前線レポートである。
MITを卒業したあと就職せず、自宅のキッチンで揃うものとインターネットで買える中古品だけで遺伝子検査システムを組み立てた23歳のケイ・オール。彼女が知りたかったのは遺伝疾患の原因遺伝子の有無である。高級クリニックで数千ドルを払って遺伝子検査を受けることもできた。しかし彼女は、ほおの内側を綿棒でこすりとった試料を特注の物質と混ぜ、クローゼットに設置した機器にセットするだけの方法を選んだのだ。
大学を卒業後、DIYバイオという組織を立ち上げたマッケンジー・カウエル。彼は家族が用意してくれた2万ドルの信託財産を使って、オークションで輸送用コンテナを購入した。そして十分な広さの裏庭とアイデアがあるところならどこへでも牽引していける、可動式ウェットラボとして活用したのである。それはバイオテクノロジーのドアを、経歴や所属組織に関係なく、一番クリエイティブな人に開放したいという信念を形にすることであった。
ヤシの木のプリント模様が入った派手なオレンジ色のポロシャツを着た28歳のジョン・シュレンドン。相棒のシュレンドンと、自身の免疫系を操作して癌細胞を殺すというアイディアを追求している。二人は住宅街のガレージの中にポリ容器とビニールシート、中古の高性能フィルターを使って、実験装置を組み立てた。そして、免疫細胞が癌細胞を叩きのめす様子をどんどんビデオに撮りためていっているのだという。
まるでSFの世界のような話が、ありふれた日常として描かれている。ちなみに標題のバイオパンクとは、元々はSFの派生ジャンルを指し、遺伝子操作などの合成生物学に基づいて未来を描くもののことである。
それにしても、一体何が彼らを突き動かしているのか?それは、次の一言に集約される。「我々に疑問がわずかでもあるなら、だれかに答えてもらうのをただぼん��りと待つことをしない。」(※「バイオパンク宣言」より)
生命科学と情報科学が交差する。この出来事が双方の分野に与えるインパクトは非常に大きい。例えば、ネットの領域。コンピュータ・コードのウイルスによるデジタル世界の破壊なら、景気やインフラを弱らせるだけですむかもしれないが、遺伝子コードで作成された人工ウィルスがヒトのネットワークに入り込んで広がれば、死人が出ることもある。ネットの世界におけるセキュリティやウィルスは文字通りの意味に原点回帰するのだ。つまりは、ネット世界が身体性との接続を果たすということを意味する。
そして遺伝子の領域。デスクトップDNAシーケンサーはゲノムを読み取り、そのデータをiPhoneに同期させる。ソフトウェアは「遺伝子デザイナー」がDNA断片を切り貼りして「遺伝子マシン」を設計するのを助ける。ITの進化は、他の分野同様に生物学の進化も後押ししてきたのだ。
本書を一読した後の読後感は、初めて『ウェブ進化論』(梅田望夫・著、ちくま新書)を読んだ時のインパクトに酷似していた。ウェブ進化論で「次の10年への三大潮流」として書かれていた、「インターネット」、「チープ革命」、「オープンソース」。これらがまさに今、遺伝子の領域で起こっているという印象なのだ。
例えば、ウェブの世界にGoogle社が登場したように、インターネットの「あちら側」で情報発電所の役割を果たす企業もいくつか出現してきている。そのうちの一つが、消費者直販ゲノミクスの23&ミー社であるだろう。顧客は試験管の中に唾液を入れ、それを郵送するだけだ。その後、ラボ作業が終わると、顧客はウェブサイトでパスワードを入れてログインし、自分専用のページで検査結果を読む。ちなみに、23&ミー社を創業したアン・ウージスキーは、あのGoogle社の共同創始者、サーゲイ・ブリンの奥さんだ。
また、オープンソース・ハードウェアの登場により、バイオテクノロジーのツールはチープ革命の真っ最中だ。シリコンバレーのテックショップのような市民向け機械作業所では、発明家の卵のだれもが会費を払いさえすれば、施盤からフライス盤、コンピュータ式ビニールカッター、工業用ミシンまで何でも使えるのだという。3Dのプリンターなら、コンピュータの画面から試作品まで一気に造形できる。インターネットで条件のいい加工業者を探し出し、そこに設計図を送れば試作品が宅配便で届く。こうした動きはみな、究極的には「ツールをなるべく多くの人に」という方向へと邁進しているのだ。
さらに、癌治療のリナックスを目指している企業もある。生協モデルでの治療を模索する、ピンク・アーミーという組織だ。ある治療法があるメンバーに効いたなら、その情報をピンク・アーミーにフィードバックする。別のメンバーがそれを試してみる。効くかもしれないし、効かないかもしれない。それぞれの実験の累積で、大きな知見が得られる。そんなオープンソース・フィードバックループという仕組みを考案している。
これまでにオプティミズムと行動主義が、ウェブを牽引してきたという側面は否めないだろう。事実、コンピュータの世界で最強のハードウェアとソフトウェアは、ガレージの中から生まれてきた。一方で、このような捉え方には問題点もある。それは、はたしてバイオテクノロジーという領域をウェブのアナロジーとして理解していいものだろうかということだ。特に慎重に議論されるべきなのは、合成生物学が神の領域にあたるのではないかということである。
これについて著者は、遺伝子工学者がどれほど創造性を発揮してみたところで、自然界が作った精密な生き物には到底かなわないのだと白旗を上げている。自然の名工の優れた職人芸に比べれば、私たちのやれることなど、ままごとのレベルにも届かないのだと主張しているのだ。しかし、この状況が未来永劫続くものなのかどうか、それは神のみぞ知ることである。
2006年に刊行された『ウェブ進化論』の内容が現実のものとなるまでには、若干の時間を要した。それにはソーシャルメディアの台頭や、スマートフォン・タブレットなどの普及を待たなければならなかったのだ。しかし、今度の進化はそこまで時間がかからないのかもしれない。なぜなら高速道路は既に引かれている状態なのだ。
新しい交差点がもたらす希望と不安。はたしてネットによる情報革命は、遺伝子工学のための予行演習に過ぎなかったのだろうか。この迫りくる未来をいたずらに煽るのも、過剰に拒否反応を示すのも誠実な態度とは言えないだろう。
ただし、論点はてんこもりだ。これまでにネットが担ってきた情報革命の功と罪、現在のバイオハッカーの動向を局所的なものと捉えるか否かという楽観と悲観、遺伝子を操作することが生み出すこれからの人間社会の善と悪。
本書で提示されているのは、そんな過去、現在、未来のさまざまな論点を繋ぎ合わせた、Web以上SF未満の世界だ。我々は、また一つ、正解のない問いに直面しているのかもしれない。
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容紹介については、私が言葉を尽くすより山形浩生さんの書評を見ていただければ↓
新ジャンルに取り組むアマチュアたちの挑戦とその障害をまとめた、わくわくする本。
欧米には[バイオパンク]を掲げる人たちがいるらしい。暗号化技術の産官学独占への市民抵抗活動であるサイファーパンクのバイオ版ということで、「産官学に独占されている遺伝子情報と遺伝子操作技術を市民の手に!」という運動らしい。自宅のキッチンで、ガレージで遺伝子検査や遺伝子組み換えに挑む「バイオハッカー」たちの生態が活写されている。
「ハッカー」というと社会道徳など無視して好きなことをやる人たちという印象があるが、バイオハッカーのみなさんは社会貢献に対する意識が高いのが特徴のようだ。本で紹介されている活動から気になったものを列記。
◆発展途上国で伝染病を早期に特定するためのlava-amp
◆PCRをガレージで行うための廉価(599ドル!)な機械 OpenPCR
◆オーダーメードな乳がん治療を推進する団体Pink Army
著者はバイオパンクを無批判に称揚するのではなく、産官学のメインストリームの生物学を補足・拡張するために重要な活動であると主張する。
「バイオパンクはいまのところ、大躍進と呼べるような成果は出していない。この先もおそらくそうした成果は出せないだろう。しかし、彼らはそんなことなど気にも留めずに楽しそうにやっている。彼らは、自分のために科学が何かを実現してくれるのを待つよりも、自分で科学しようと決めた。何ができるかできないかは、自分で決める。すべて自分でやる。そして少しばかりの運と才能があれば、何かナイスなことをやってのける。」
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全体の率直な感想としては、こんなに進んでいるのか!と驚く場面よりもまだまだ入り口にうろうろしているだけなんだな…、と感じる場面の方が多かった。
また、バイオパンクの思想の根底にはソフトウェアの分野で起こったオープン、シェアと同じことが遺伝子でも可能である、という考えがあるという指摘が(良い意味で)頭に引っかかった。興味をもったのは他の分野での考え方をそのまま適用できるのではないか、と考えるに至った思考の過程とそれが広く受け入れられた理由は何か。
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本書は分子生物学、遺伝子工学の最前線に関する本である。
分子生物学というと、大学の研究機関、政府機関、大手製薬会社などのいわゆる産官学での研究が主流で、何重にもセキュリティがかかったラボの中でひっそりと実験が行われていると考えるが、本書の主役であるDIY科学者は例えば終えのガレージから生物学にイノベーションを起こそうとしている。かつて2人のスティーブがIT業界に対してそうしたように。
例えば自分の唾液を送るとDNA配列をメールで返してくれるサービスや、DNAの合成に必要なタンパク質の合成を行うサービスなどが現在すでにある。Googleのファウンダーであるサーゲイ・ブリンの妻アン・ウォジツキの運営する23andMeという企業は999ドルで個人のゲノムの解析を行うサービスをスタートさせている。
ただ、こうした活動がすべての人に歓迎されているわけではなく、中には反対する人もいる。遺伝子の情報を書き換えたり、テロリストの手にDNA情報がわたって細菌兵器を開発されるが恐れがあるから遺伝子に関する情報はオープンにしないほうがいいと考える人達である。
実際のところはタンパク質を合成して未知の細菌兵器を作り出すことは、現在存在する最高の技術を持ってしても不可能だし、そもそもテロリストは炭疽菌などすでにある最近を培養するだけで細菌兵器は作成できるのでDNAの情報をオープンにするかしないかは現状あまり人々の危険に影響を与えないというのが実情らしい。
もっとも、分子生物学に疑問の声を投げかける人々はそういった論理的な説明では納得しない。最近は目に見えないし、自身の身の安全に直結するので、無条件に不安視してしまうのだ。この点は今の日本で言う放射能と構造が同じだと感じた。
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<キッチンからバイオを! 「日曜大工」研究の裾野を広げよう!>
タイトルも副題も余り親切ではないと思うのだが、つまりは、公的機関や企業などの大きな組織に属さないアウトサイダー科学者としてバイオ研究を実践している人々についてのレポートである。自由な発想で新しいバイオ研究を行っている多くの「DIY」研究者を追う、なかなかエキサイティングな1冊である。
どの分野でもおそらくそうなのだろうが、組織に属して研究を行うということは、時に、さまざまなしがらみを背負い、承認やら申請やら予算やらといった諸々のことに縛られる一面を持つ。
コンピュータ業界に関していえば、ジョブズは元々ハッカー集団の一員だった。リナックスはオープンソースで無料だ。ならばバイオもそれに倣おう!というわけである。そのためには、どこでも誰でもできるように、それこそ「趣味」としても楽しめるようにしようというのが、「バイオハッカー」の狙いである。
ここでハッカーと言っているのは、システムに不正に侵入したりといったネガティブな意味ではなく、知恵に頼って自力で創造的に問題を解決することを指す。そのためには、多くの人がツールを使用し、知識を得ることができるようにしよう、ということである。
プログラミングや数学と比べて、組織に属さないアウトサイダー・バイオが一般的でないのは、1つはコストの問題があるからだろう。ドライと違ってとにかくウェットはカネが掛かる。装置は自作すればかなり低価格で作れたとしても、酵素や試薬といった消耗品のコストをどう下げていくのかが重要だろう。本書の中には核酸増幅に必要な酵素を自分で抽出したというツワモノも出てきてすごいのだが、まぁそれにしても抽出にもカネが掛かるしね・・・。
あとは、「バイオ」というと、どうも「アヤしい」「アブない」と思われがちなこともあるのだろう。「生物兵器」とか、「バイオテロ」とかとすぐ連想されがちな。
しかし、DIYバイオはまだそこまではいたっておらず、テロを実践するのであれば、既知の天然毒物(炭疽やリシン等)を使うほうがよほど現実的なのだとか。
バイオについては、研究者と一般市民の間の意識の乖離が特に大きいような気は確かにする。
鳥インフルエンザの感染性に関わる突然変異の論文を雑誌に載せる載せないでモメていたが、ようやく掲載されたようだ。
悪用を心配するよりも、知識を共有して、後の研究に役立てた方がよいということだろう。
インサイダー・アウトサイダーに関わりなく、知識を囲い込むのではなく、オープンにして皆で議論しようという姿勢は大切なものなのだろう。
DIYバイオを実践するには、現実面で乗り越えなければならない問題が多々あると思うが、大切なのは、「気概」だ。
個々の人物がなぜそれほどDIYでバイオをやりたいのか、個人的にはいまひとつ納得しきれなかったのだが、裾野が広げること自体は、すばらしいことだと思う。
日経サイエンス6月号に掲載された本書に関する書評(渡辺正隆氏)がアツかった。
私はそこまでアツくなれなかったけれど、おもしろい��方をくれる1冊である。
*PCRを手軽に行えるようにして、感染症が蔓延している地域で即時診断できるようにしよう、という話が一番印象に残った。これはすごいと思う。
*タイトルは「バイオバンク」じゃなく、「パンク」です。もうここからしてすでに象徴的だが、重要な概念となる原語をそのままカタカナ用語にしているものが目立ち(私も今、つられて「キー・コンセプト」と書きそうになった(^^;))、取っつきにくい感を与えていると思う。パンクとかギークとかハックとか、確かに日本語にしにくい言葉だと思うが、何とかならなかったものなのか。
著者が(多分)ITベースの人で、コンピュータ業界ではよく使う言葉なのもあるのではないかと思うのだが。でもそれを日本語としてそのまま持ってくるのはどうなんだ・・・?
*うげげ、長くなってしまった・・・。読んでくれた方、ありがとうございます&すみません・・・。
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アップルのコンピューターはガレージから生まれ、リナックスはオープンソースと言う新しい取り組みでプログラムを進化させた。バイオテクノロジーと言うと閉ざされた世界というイメージだが、バイオハッカーはコンピューターとバイオテクノロジーは似ているという。DNA検査はガレージで出来るし、ヒトゲノムのような遺伝子情報もオープンソースにしたほうが解読が進み世界に貢献すると言う立場だ。
今では自分の遺伝子情報を調べたければ、キットを買って綿棒で口の中をこすりそれを送るだけで出来る。さらにはDNAを複製することはそれなりの専門知識があれば自宅ででき、ケイ・オールは中古のサーマルサイクラー(温度を上げたり下げたりを繰り返す装置、炊飯釜と大差ない)100ドルちょっととwebで注文したDNA断片で自分で遺伝子検査を行った。
遺伝子組み換え作物に関するエピソードではインドの農民がモンサントの足元をすくった話が面白い。Btコットンと言う害虫を寄せ付けない成分を作るようになった綿はインドでは禁止されたが、ある種子はBt遺伝子を含んでいた。この種子を売った会社、インド政府、モンサントそれぞれの言い分に関係なく農民たちはこの種子をさらに交配させ元々のBtコットンより安くBestコットンという名で売られ続けている。インドでは遺伝子は特許性がなく政府もなすがままに遺伝子組み換え綿を承認し、Bestコットンは農民たちの共有財産となった。
バイオテクノロジーに対しては強硬に反対する人も多い。この理由は宗教的なものと、知らないものは怖いと言う心理、また新しい技術に対して慎重な立場などが有りそれぞれの言い分も理解はできる。しかしイノベーションは必ず起こるし一度起こればインドの農民同様成果を享受するだろう
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ハックというのはコンピュータの世界でよく使われる言葉ですが、DIY遺伝子工学もなるほどハックの雰囲気を漂わせています。サーマルサイクラーが高価だから作ってしまえ、安く作って売ろう、という精神もハッカーぽくっていいですね。
読んでいると、自分ももう一度勉強しなおしてDIY学者を目指してみようかと思わせられます。そう思わせられたところでバイオテロリストとして目をつけられる話が出てきて冷水を浴びせられたりもしますが。
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ガレージが生んだITイノベーションに倣い、バイオをラボで行うものではなくDIYできるものに変えようとしている科学者たちの物語。
上記のストーリーだけでなく、これまでのバイオを作ってきたメンデルの実験、DNA二重らせんの発見やコーエンボイヤー特許とGenentec、クレーグベンダー、23&Meに関する話など、遺伝子工学や合成生物学、バイオインフォ、スタートアップいずれかに興味のある人なら誰でも面白いと思うはず。
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遺伝子工学の歩みは、起源はそれより古いのにITに良く似ている。
性善説に則るハッカーは悪意によって動くクラッカーや無知・無理解、既得権による迫害を想像できない。
彼らがこの世界の醜悪な特許システムを打破できるかといえばおそらく出来ないだろう。
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目次
PARTⅠハック/オープン
第1章シンプルな遺伝子検査
第2章アウトサイダーのイノベーション
第3章バイオハッカーの源流
第4章自分で科学する
第5章途上国のためのバイオテクノロジー
第6章価格を下げてハードルを下げる
第7章遺伝子組み換え作物はだれのため?
第8章遺伝子操作の所有権はだれのもの?
第9章リスクのない医学の発展はない
第10章キッチン発のイノベーション
PARTⅡリード/ライト
第11章生命の言語を読む
第12章生命の言語を書く
PARTⅢセイフティ/リスク
第13章バイオテロ
第14章アウトブレイク
PARTⅣライフ/サイエンス
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遺伝子工学をDIYでやってしまう在野の科学者達のお話−バイオにおいてもオープンソースがイノベーションを生み出す可能性は大きいが、安全面・倫理面の課題も大きい。
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『MAKERS』のバイオテクノロジー版ならバイオパンクでしょ!っていうノリ。
でも『オープンサイエンス革命』みたいなどっちかっていうとバイオインフォマティクスのようなコンピュータ使ってっていうドライベンチでなく、実際に遺伝子操作のようなバイオ実験をするウェットベンチを普通の人が自分の家でっていうのは驚いた。
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アメリカの話だけど、バイオの世界にオープンソースみたいな動きがあるというのが面白い。一番縁遠い様な気がするのだが。品川。
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パンクとは、何であれ自分が達成したいと思うもの。コンピュータ技術が敷衍したように、これからはバイオ技術もハック対象になることで、更に進歩する。
バイオハッカー達を信頼できるかという問い。人類としては、人類の集合知を信じるしかない。