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追悼・原節子さん - 私、猾いんです
2015/12/16 07:52
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「永遠の処女」と呼ばれた昭和の大女優原節子さんが2015年9月5日に亡くなっていたことが公表され、師走の街を驚かせた。
原節子さんは昭和37年の「忠臣蔵 花の巻・雪の巻」(稲垣浩監督)を最後に銀幕から忽然と姿を消したので、現役時代の原さんの姿を知っている世代も少なくなっている。
それでも、原さんの姿が私たちに鮮明に残っているのは、世界の映画史の中でも屈指の名作といわれる小津安二郎監督の「東京物語」(昭和28年)への出演があるからだろう。
私も原さんの姿を初めて銀幕で観たのは小津作品だったと思う。
原さんのどちらかといえば大づくりの容姿は端正の美しさとはいい難い。けれど、観るものを惹きこむ力は強い。私も、なんて美しい人だと思った。
原さんは何故銀幕から姿を消したのか。そして、何故隠遁生活のような暮らしを送ったのか。さまざまな憶測は、謎が深い分、飛び交う。
映画評論家西村雄一郎さんのこの本はそんな原さんの姿を興味本位で描いてはいない。
では何故西村氏はこの本を書くに及んだか。その動機を西村氏は「小津映画六作に登場した時の、原節子のあの官能的といっていいほどの異常の美しさは何だろう」、それを検証したかったという。
西村氏がとった手法は、「映画を見直し、資料を吟味し、現地を自分の足で歩き、関係者にウンタビューし、想像力を駆使」したものだ。
答えは、この本のタイトルに出ている。
西村氏はこう書く。
「『東京物語』は、小津が原節子に宛てたラブレターだ。原節子は人生を賭けてそれに答えた。それこそが、まさに「メロドラマ」なのである」
もちろん、真実は、原さんが亡くなった今、誰も知り得ることはできない。
還暦を迎えた誕生日のその日亡くなった小津安二郎、彼の業績を顕彰する碑に原節子という芸名でなく本名の「会田昌江」で基金した原節子。
「東京物語」の終盤、原さんが演じた紀子は、こんな台詞をいう。
「私、猾いんです」。
小津安二郎との関係を問われれば、やはり「私、猾いんです」と原さんは答えたかもしれない。
原節子さんを知らない若い読者にはぜひ読んでもらいたい、愛の一冊だ。
「秘められた恋」の真実に肉薄する
2012/09/29 17:19
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投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
家から歩いて10分くらいのところにこの大スタアが住んでいたので、けっしてパパラッチということではなくて散歩がてら浄妙寺まで出かけたものだったが、家内と違ってとうとうその実際のお姿を瞥見することは叶わなかった。
小学館の元編集者でかの「日本国憲法」をものした島本脩二さんも、かつてここで何日も張り込みを続けたそうだが、結局駄目だったという。
浄妙寺の隣の熊谷さんと家内は顔見知りだったが、その熊谷さんの父親が原節子の姉の連れ合いであり、戦前戦後に活躍した映画監督兼プロデューサーであり、この永遠の処女の処女を奪ったかもしれないと噂されているなどとは知らなかった。
その噂を信じた東宝の元社長の藤本真澄が原節子への恋を諦め、しかし彼女を経済的に庇護し続けたのみならず、パパラッチどもの特ダネ情報の公表を何度も阻止していたとは、これまたついぞ知らなかった。
そういう下世話な話が満載の実録ドキュメンタリーでもあるのだが、本書は表題のとおり、この日本映画界を代表するビッグネームが生涯にわたって貫き通したプラトニックラヴを巡る考察と推論であり、「麦秋」などの作品に影を落とした彼の戦争体験について具体的に言及した初めての解説書でもある。
小津の有名なローアングルは、正確には「ロー・ポジション、水平アングル」であることや、全作品で台詞のラスト10コマと次の台詞の冒頭の6コマの合計16コマ、3分の2秒が必ず空けられており、これが彼の映画に独特のテムポを創造したことなども、私は本書で初めて教えられた。
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