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日本を代表する仏教学者である中村元先生の選集の中から、普及版として発刊された本になります。煩雑な注は削除しているということで、一般読者には大変ありがたい読み物になっていると思います。本書はいわゆる「人間ゴータマ・シッダルタ」に焦点をあてていますが、上巻ではルンビニーでの生誕(年代)、クシャトリヤ階級に属するシャカ族の王子として、どのような環境で育ったか、また出家の経緯、そしてマガダ国の首都ラージャガハ(王舎城)でのビンビサーラ王との出会い、その後アーラーラ仙人とウッダカ仙人のもとで短期間修行をし、その後は絶食などの苦行を続けますが、その後ブッダガヤーの菩提樹のもとで悟りを開くというようなストーリーが記載されています。
人間ゴータマ・ブッダに迫るために、本書ではなるべく古い仏典(スッタニパータなど)を参照します。なぜなら時代が新しくなればなるほど、脚色が増え、超人的な記述が増えるからです。著者は様々な文献をつなぎあわせつつも、ストーリーとして時系列に読めるようまとめており、今から2400年前近い昔の話についての本だと思うと、その文章構築力に感嘆します。また仏典の記述を再構築するだけでなく、中村先生ご自身のインド訪問時の記述も散りばめられていて、古代の仏典にも載っている川が現代はどうなっているのか、などの描写は大変興味深く読みました。繰り返しますが非常に平易に書かれているので、学者でなくとも読み進めることはできますが、一点、本書に登場する地名がどこなのかわかると面白さが増してくるので、私はスマートフォンの地図アプリを片手に本書を読み進めました。