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蝦夷の大河ドラマの最終巻、ボリュームに満足する
2012/10/29 00:09
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
長い間続いたこのシリーズもついに最終巻となった。当初の主人公は嶋足であり、苅田麻呂であった。孝謙女帝の時代から描かれているので、750年頃からのストーリーで、橘奈良麻呂の変、藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱を経て、弓削道鏡の天下取りと歴史上の事件が続々と登場してきた。
本編はその総仕上げとして、いよいよ陸奥における歴史上の大事件を描いている。それは歴史上、伊治鮮麻呂の乱と呼ばれているものだ。これをクライマックスに持ってくるために、ここまで奈良後期の物語を語ってきたわけだ。奈良後期の騒乱にこの物語のように蝦夷が絡んできたとは思えないが、史実としては陸奥の黄金産出が根拠であろうか。聖武帝の御代に大仏建立があったが、その際に陸奥で黄金産出という吉兆があった。この黄金を資金源として貴族らにばらまき、これをうまく利用して小説としてことは実に面白かった。
蝦夷対朝廷の騒乱は、このあとのアテルイと田村麻呂、その後の前九年、後三年の役と続く。さらに大河ドラマの原作『炎立つ』で奥州平泉藤原家まで続くのだが、これらについてはすでに作者が小説として世に著している。この古代の歴史についてはまだであった。
奥州藤原家や前九年、後三年の役に比べれば、この伊治鮮麻呂の乱はほとんど誰も知らない戦いであろう。鮮麻呂が朝廷に立ち向かった後、どうしたかはよく分かっていない。それだけに作者の腕の振るいどころであろうが、あくまで史実に沿った運びが作者の目指すところであったかもしれない。本書でもアテルイは登場する。そこで作者の一連の小説はつながっている。
作者はまだ蝦夷に関する著作への意欲に燃えているようであるが、次はどこを描くのであろうか。今回は伊治鮮麻呂の相手は陸奥守であった。この後も都から陸奥守の後任が派遣されてくるが、どれもまともではなかったようだ。
いずれいしても、作者の次の蝦夷モノとは何を意味しているのかを待っているのも楽しみである。是非、期待したいものだ。
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風の陣 裂風篇
2012/10/01 14:04
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投稿者:よっしー - この投稿者のレビュー一覧を見る
待望の風の陣の文庫本です。既出版済みの『火怨』に繋がる直前の時代。従来のシリーズは、物部天鈴と道嶋嶋足が主人公であったが、本作は、鮮麻呂。天鈴は要所では活躍するが嶋足は殆ど無し。本の後半までは、風の表題をつけた短いストーリーが小気味良く続く。そして、「風の陣」という表題から一気に様相を一変し合戦様相に。氏の字詰めの合戦シーンが映像に浮かぶ。ただ、『火怨』の冒頭では、嶋足を忌避する文言もあるので、繋げるとすれば、異例の昇進を遂げた故に蝦夷と縁を切る、あるいは、裏切る挙に出て、その恨みから鮮麻呂の決死の覚悟に結びついた。だから、炎の怨恨で火怨と。過去4作とも嶋足が主人公であるがゆえ、本書でもキーマンとして登場して欲しかった。
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蝦夷から見た奈良朝廷
2022/11/21 20:58
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投稿者:たぬきうどん - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史は勝者によって記述されるのが常であるため、蝦夷という存在に特段の知識なく生きてきた。
しかし、本作品により奈良朝廷の仕打ちの苛烈さ、蝦夷の苦しみを知り、眠れない夜を過ごした。
鮮麻呂の強い信念を持った生き方に、今も私の心に風が吹いている。
しかし残念な点もあった。
1〜4巻までの主人公である嶋足が一度も登場しなかった。鮮麻呂があれほど苦しんだ蝦夷の現状を、嶋足はどう考え、どんな行動をしたのだろうか。
また、1〜4巻までは奈良時代の政変を舞台に話が展開されていた。
しかし、本巻では都の出来事は全く描かれていない。
奈良時代最後の政変である井上内親王と他戸親王の事件が全く描かれなかったのは残念。この話は4巻の終盤でも匂わせられていたので、描かれなかったのは消化不良。
1〜4巻と5巻は全く違う作品と思った方が良いだろう。
ともあれ、作者様は大長編お疲れ様でした。
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2012/9/20 Amazonより届く。
2014/6/6〜6/13
いよいよ最終巻。鮮麻呂に主役が移り、とうとう蝦夷が決起する。我々が日本史で習う歴史は朝廷側のものであって、虐げられた側の視点はすっかり抜け落ちている。高橋さんは、逆側からの視点で見た歴史を鮮やかに描きだす。本当のところはどうだったのだろうか。物事はやはり両面から見ないといけないことを再確認させてくれる。このシリーズの次の世代の物語にあたる「炎立つ」をもう一度読み直したくなった。
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「風の陣」完結編。物語内では前作から8年が経過。舞台は陸奥へ移り、伊治鮮麻呂を中心に話が進む。
これまでの都における嶋足や天鈴の苦労むなしく、搾取と差別にひたすら耐える蝦夷。
大望を抱きつつ朝廷に従い続ける鮮麻呂。
お涙ちょうだいを適度に挟みつつ終盤の反乱へ向けて一気に読ませる。
「火怨」では阿弖流為サイドから描かれていた鮮麻呂の乱が、鮮麻呂サイドから語られる。本書を読み終えてから「火怨」の冒頭を読み返してみたら台詞や場面がかなり重なっていたのが面白い。
文庫版の1巻が出たのが2001年。10年かけて完結したという感慨も深い。
けどただただ残念なのは、嶋足を中心とした話で終わって欲しかった。
「火怨」では忌み嫌われていた道嶋嶋足。
4巻まで主人公だった彼はどうなったの?
なので星は3つ。
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高橋克彦先生の歴史大河ロマン、『火怨』『炎立つ』につらなる蝦夷四部作の一作、『風の陣』がPHP文芸文庫で完結しました。以下は、高橋先生が本書について語られたものです(PHP研究所のWebサイトより」転載)。
* * *
25年ほど前、あるテレビ番組で、伊治呰麻呂(これはるのあざまろ)の存在を知った。呰麻呂が、陸奥を支配する朝廷の役人のトップである按察使を殺した蝦夷であることを知り、衝撃を受けた。
ほとんどの日本人は呰麻呂が朝廷に叛旗を翻した逆賊だと思っているだろう。しかし東北出身の私は、その見方に憤りを感じ、呰麻呂に、火を熾す風のようなイメージを抱いた。東北の歴史が呰麻呂からスタートしているような気がして小説にしたいと思った。
「呰麻呂」ではイメージが悪いので、「鮮麻呂」という字をあてた。物語の前半をリードする人物を、官人として都で出世した蝦夷・丸子嶋足にしたのは、鮮麻呂をあえて脇に置いて都を書くことで、逆に鮮麻呂がいる陸奥を浮かび上がらせようとしたのである。
執筆開始は1993年なので、脱稿するまで17年間、嶋足や鮮麻呂と向き合っていたことになる。「完」と記したときは感無量で、涙が出た。終わったという安堵感と同時に、鮮麻呂の台詞をもう書けない寂しさを味わった。
「風の陣」シリーズは、私が取り組んだ蝦夷四部作のうちの第一作。この後に阿弖流為が主人公の『火怨』が続く。鮮麻呂同様、古代東北に旋風を巻き起こした男の話である。
このシリーズには、時間をかけた分だけ思い入れが強い。嶋足と鮮麻呂は、私の小説家人生の大半を共に歩いてきた、かけがえのない友のような気がするのである。
* * *
蝦夷たちの熱き闘いを壮大なスケールで描く渾身の作品。ぜひ、ご一読ください。
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風の陣の完結篇は、これまでの嶋足から鮮麻呂の陸奥での戦いが中心となる。蝦夷の部族としての心意気と葛藤は最後まで心を揺さぶる。鮮麻呂に惹かれて配下となった登場人物一人一人がその時代の歴史を表しているのだろう。長い物語だったが、感動の完結。
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2012-111
ついに完結編。
鮮麿呂の乱を書いた作品。
できれば最後まで嶋足を主役にしてほしかったなぁ。
てか、嶋足どうなった?
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シリーズラスト。先に読んだ火怨に、どうつながって行くのかを思いながら、わくわくしながら読み進みました。
最終章では、火怨では胆沢側の視点で描かれていたシーンが、鮮麻呂側の視点で描かれているのも良かったです。
あとの時代の物語(火怨)を先に読み、そのきっかけとなった前の時代(風の陣)を後から読むというスタイルは、スターウォーズシリーズのエピソード展開のようでもあり、わかりやすだけではなく、作者のより深い想いが感じられた気がします。
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1~4巻までの嶋足編は要らないと思う。
奈良時代の政変は全て蝦夷が絡んでいたというような設定は無理があるし、同じような話の繰り返しで飽きる。
陰謀の意図も辻褄があってない。蝦夷的には権力者を挿げ替えるより内乱に持ち込んだほうがメリットあったはず。
鮮麻呂を最初から主人公にして2巻でよかったのでは。三山はどこ行った?
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良かった。けど、嶋足どこいった?
結局タイトルの風って鮮麻呂の事だったのね。
そしてラストの〆を丸々鮮麻呂が持って行っちゃってそれまでの嶋足の話しが薄れて消えたのは私だけか。
終わり方は火怨に繋がってもう一度火怨から読みたくなるけど…。
どうせなならラスト嶋足出して欲しかった。
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ついに完結!
「火怨」冒頭の鮮麻呂の乱を鮮麻呂側から見られたのに感動。しかし4巻まで苦しんでた嶋足が全く出てこなかったのが残念。ラスト鮮麻呂と別れた猛比古が都で嶋足に会う場面とかが欲しかった。
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「風の陣」シリーズ、5作目。完結編。
この巻だけ、主人公は鮮麻呂。それまで主人公がずっと嶋足だっただけに、嶋足に対して悪態さえつく鮮麻呂に前半は正直、感情移入し辛かった。しかしながら、いざ鮮麻呂が決起を決断したところからはグイグイと物語に入り込み、最後は結局泣いてしまった。「火怨」のストーリーともオーバーラップし、次代に繋ぐ重要な場面を読むことが出来て、感嘆たる思いに駆られた。この後の東北三部作に出てくるアテルイたちといい、蝦夷の男たちの、勝負に勝って死ぬ姿は皆、物凄く格好イイ。
惜しむらくは、最後だけでいいから嶋足が登場して欲しかったこと。嶋足側から見た鮮麻呂の決起を描いて欲しかった。確か「火怨」でもちゃんと描かれていなかったように思う。それが本書で読めると思っていただけに残念だった。
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1立志篇 2大望篇 3天命篇 4風雲篇 5裂心篇
上記5巻からなる火怨の前篇となる時代の物語。
火怨の主人公であるアテルイの生まれる前から、青年期をを迎える749年から30年くらいの間の話である。
主人公は1~4までは道嶋嶋足で5で伊治鮮麻呂に移る。
嶋足と物部天鈴は京にて、蝦夷への不遇を避けるために
ありとあらゆる手段を用いて暗躍する。
1では橘奈良麻呂と藤原仲麿の権力争いに絡み、嶋足を出世させ発言力のある地位へ押し上げていく。
2では権力を握った仲麻呂をその座から落とすために活躍し、3で坊主の弓削道鏡を権力の座へつかす。
4でその道鏡を失墜させ、坂上田村麻呂の父、坂上苅田麻呂を国府多賀城の主とさせる為活躍。
5では一変、嶋足、天鈴の仲間である鮮麻呂を中心に、京ではなく蝦夷の暮らす東北が舞台となり、朝廷に蝦夷が挑んでいく先駆けとなる物語になる。
嶋足、天鈴が京で、朝廷と蝦夷の争いを防ごうと頑張るのだが、結局はそれは時間稼ぎでしかなく、どうしようもない流れに呑みこまれていく。
鮮麻呂はアテルイ達、次世代に全てを託し自分は風になる決断を下し去っていく。
出来れば、火怨を読む前にこちらを先に読みたかった気がする。
順序はどうであれ、完璧に面白く、中弛みもなく感動と、小説の面白さを堪能できた。
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シリーズ最終巻。
これまでの4巻が道嶋嶋足を主人公としていたのに対し、本巻の主人公は伊治鮮麻呂だった。
これにはちょっと驚いた。
舞台も京ではなく東北のみ。
鮮麻呂が陸奥守を殺めて蝦夷に新たな時代をもたらすところで終わっている。
結局最後まで嶋足は主人公らしいところなく終わってしまって、いやこれでは、これまでの巻はなんだったのかなあと思ってしまった。
これはなんというかちょっとダメだと思う。
だって、まず読んでて愉しくないもの。
蝦夷が虐げられている苦しさは、それが狙いだとしても、それなら最後に大きな解放がないといけないだろう。
確かに陸奥守を打ち倒すというハイライトはある。
でも、それは手放しの歓喜とはなっていない。
これではなあ。
それに、今までの主人公だった嶋足のその後を描かずに終わってしまったのも、もの足らない。
なぜ、嶋足がその後蝦夷の間で悪く言われるのかの経緯を明らかにせずに終わるとは、なんかこの物語を書いた意味が薄くなってしまった気がする。
そう言う意味では作者もこの物語の持って行き方を決めきれなかったのかもしれない。
そこが不満だ。
最後まで読んで満足できないのは、やっぱり残念に思う。