紙の本
時代が変われば。
2024/03/01 10:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雨宮司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょっと前までは、「万葉集」の研究と言えば中西進氏だった。今でも研究を続けておられるだろうが、何せ令和の名付け親になってしまったから、ちょっと棚の上に置かれている感じがする(誤解のない様に言っておくが、中西氏の研究は今も立派なものだ)。私の幼少時は、「万葉集」の研究の御大と言えば故・犬養孝だった。本当に心から万葉の歌を楽しんでおられ、子ども心にも微笑ましかった。前置きが長くなったが、今の研究者で最も実力・人気ともにトップクラスにあるのは上野誠氏だろうか。本書は、その上野氏が「万葉集」の初心者に対して記した入門書だ。学術的なことはなるべく表に出さない様にして、初心者が素直に「万葉集」の世界に親しめる様に、1コラムに1首の原則で魅力ある歌、現代にも通じる歌を中心に紹介している。研究者にとっては物足りないかもしれないが、初心者には丁度いい。現代人と万葉人との共通点と違うところをさり気なく記し、「万葉集」の魅力を伝えている。この意義は大きい。その道の研究者がこういう入門書を出すのは、いつの世にも必要なことだし、研究を広く一般にフィードバックさせるには、必ずこうした本が書かれねばならない。そんな性格の本だ。遙か昔の時代を知るにはいい入門書だ。
投稿元:
レビューを見る
万葉集なんて真面目に読んだのは(読まされたのは)高校の授業の頃であったか。
「万葉集に集められた歌は、当時の人の生活様式、文化的背景、ものの考えを知る唯一の歴史資料である」
なるほど。こんな読み方は教わらなかったし、知っていたらもう少し古典の授業が楽しかったかもしれない。
上野さんは、一つ一つの歌の歴史的背景、当時の文化から一首の内に秘められた人々のドラマを紡ぎだす。学問的に正しいかではなく、思うままに想像の翼を広げた解説(エッセイ)は、圧倒的に面白い。時にあやうい男女の関係まで、万葉の世界がいきいきと広がる。
白たへの 君が下紐 我さへに
今日結びてな 逢はむ日のため
恋中の二人にちょっとどっきり。共に夜を過ごした二人、また会うために互いの下着を整えるのは万葉人の習慣とか。
験(しるし)なき 物を思はずは 一杯の
濁れる酒を 飲むべくあるらし
(地方の単身赴任はつらいよ)あれこれなやんでもしょうがない。酒の一杯でものんで憂さ晴らしでもするか!サラリーマンは何時も同じ!
あっ!岩波の「万葉秀歌」は積読状態。
投稿元:
レビューを見る
万葉集への興味は梅原猛の柿本人麻呂論に始まる。石見の国で亡くなったことに興味を持った。邑智郡美郷町にある斎藤茂吉の記念館にも訪れた(偶然だったけれども)。本書と同じ著者の新書も読んだ。「たそがれ」の意味に魅了された。万葉集の4500首をいつかは読みたいと思った。そうしていたら、折口信夫の口訳が岩波から出た。これは良いと、3冊買いこんで枕元に置き、毎晩2ページずつ読みだした。しかし、50ページを超えてもほとんど頭に残るものがない。自然消滅してしまった。偶然古本屋で本書を見つけた。なんともおもしろい。恋の歌がいい。胸が熱くなる。今も昔も、環境は変われど、人の心は変わらない。「忘るやと 物語りして 心遣り 過ぐせど過ぎず なほ恋ひにけり」(忘れることもあろうかと人と世間話などをして、気を紛らわせて物思いを消し去ってしまおうとしたが・・・一層恋心は募るばかりだった。)現代思想の万葉集特集も読みだした。来月には大人塾で万葉集を学ぶ。自分の中では万葉ブームである。(令和とは関係ない。いや特集はもちろん令和から来ているのだろうが。)
投稿元:
レビューを見る
万葉びとはやっぱロマンチック。
「天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に漕ぎ隠る見ゆ」の句が1番好きかも。作者不詳とのことだけど、これを詠んだ人と、月を浮かべた酒坏を交わしながら星見したい。
投稿元:
レビューを見る
上野氏の別の古典入門書を読み、引き続き読んだ一冊。お陰様ですっかり万葉集の虜です。歌が詠まれた時代が生き生きと目に浮かぶようでした。噂話を気にしたり、恋する人と会えるようにおまじないをしたり、宴会で洒落た言い回しで場を盛り上げたり。
その中でわたしが気に入った歌は、太宰府から奈良の都を想い詠まれた「あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり」
太宰府に務める単身赴任の役人たちの胸に、満開の花が煌めく美しい家族がいる懐かしい都の情景が広がる、、、素敵な詩だと感じます。
わたしも引越しする機会が多く、かつて住んでいた街の風景や出来事を思い出して「今頃はきっと、、、」と思いを馳せることがあるので共感してしまいました。
また是非上野氏の著作を読みたいです。