紙の本
昭和を代表する国際政治学者の高坂正堯氏による外交の成熟と崩壊について述べた興味深い書です!
2020/07/15 09:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、昭和期に活躍された国際政治学者であり、社会科学者でもあり、思想家、法学博士でもあった高坂正堯氏の興味深い一冊です。中公クラシックスでは2巻シリーズで刊行されており、同書はその第2巻目です。第1巻に引き続き、同書は「成熟と崩壊」の中の「崩壊」が中心となっています。ウィーン体制期のイギリス外交を追うことで当時の欧州協調について考察した章、1848年の革命を機に変質していった欧州協調を描いた章、政治術の衰退に第一次大戦への主要な原因を見た章という構成になっており、非常に読み応えがあります。第1巻と併せて読んでみてください。
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ウィーン体制以降のヨーロッパの変遷,特にイギリスとドイツを取り巻く環境の変遷と,第一次世界大戦に到るまでのヨーロッパの外交の足跡,そして高坂先生の分析を興味深く読みました。ウィーン体制で確立された18世紀の価値観が,産業革命も含めた周辺環境の変遷に直面し,有効性が漸減し,ついには第一次世界大戦にまで到るという流れは,歴史におけるひとつの変化が他の分野に及ぼす影響のひとつとして,現代においても多くの分野にも関わる考えるヒントになるのではないかと思います。
エピローグの「国際関係の管理能力は,衰退しなかったとしても必要に見合って増大はしなかった。質的にはむしろ低下した。」を読み,公私ともの身近な様々なことを対象にして,いろいろなことを考えました。
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ヨーロッパにおける錦江とイギリスにとって固有かつ死活的な利益との関係である。大陸の国際関係に関することはイギリスの利益をその中に置くことでもあった。イギリスは自らの固有かつ死活的な利益を損なうことなしに大陸の均衡を得ることができるのだろうか。
面白い。
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第三章に引き続き、第四章も非常に面白いです。カースルリーやカニングの本質を見抜く能力・才能に惚れ惚れします。第五章、第六章については、中西輝政氏曰く「構成上の不満は残る」とのことで、中西寛氏も「図式的」「ふくらみを欠く印象」と仰っています。言われてみると確かにそんな感じもしますが、私のような素人からすると逆にそういった面が読みやすさに寄与しているように思いました。特に、第六章の五「弱化した老大国の犠牲において」を読むと、なぜオーストリアが大戦前に爆発したのかがよく分かります。まさに高坂氏の言うとおり「現実の歴史はより曲折に富んだ道を歩んだ」のだと思わずにはいられません。
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第1巻ではウィーン体制を頂点とするヨーロッパ古典外交の「形成」と「成熟」が論じられたが、第2巻ではその「変質」と「崩壊」がテーマである。イギリスがロシアとの対抗関係から大陸への関与を強めるにつれ、局外のバランサーを欠いたヨーロッパ外交はリアルポリティークに傾斜していくが、ビスマルクの「政治術」によってかろうじて保たれていた危うい均衡と自制が、彼の引退によって崩れ去り、雪崩を打って第一次世界大戦へと突入する。本書は歴史の叡智に裏打ちされた高坂国際政治学の真髄と言っていい。本書もそうだが、高坂の数々の名著のもとになった論文は学術誌ではなく総合雑誌に掲載されたものが多い。五百旗頭眞氏がどこかで書いていたが、高坂は多くの研究者を育てたが学会活動には熱心でなかったようだ。それが高坂の魅力でもあるのだが、アカデミズムの世界にはやっかみ半分の批判もないわけではない。例えば大嶽秀夫氏(『 高度成長期の政治学 』)は、主として二次文献に依拠した本書の学術的価値に疑問を呈し「アマチュア読者向けの書物」と断じており、また高坂が学問に必須の体系的思考を忌避していると手厳しい。これに対して中西輝政氏が著作集(『 高坂正堯著作集〈第6巻〉 』)の解説で、「狭く意識された「社会科学」的なアプローチによって、抽象的なモデルを措定した「理論化」をめざすべきだという、本来誤まった課題意識が学界のコンセンサスを形成してきた」と学会のあり方そのものを批判して応酬している。いずれにしても高坂の仕事はアカデミズムとジャーナリズムという偏狭な二分論を越えており、厳密なディシプリンに必ずしも忠実でなかったことは、むしろ高坂のスケールの大きさを示すものと言ったほうがいい。こんな大学人はもうめったに出ないかも知れない。つくづく早逝が惜しまれる。