投稿元:
レビューを見る
大平正芳は、あーうーしか言わない、パッとしない政治家だと思っていたが、意外に褒める人が多い。この本を読んでみて、成程と思った。大蔵省の官僚出身であるものの、若い頃に貧乏した経験もあり、思考に柔軟性もあり、見識も優れている。政治家らしくない政治家であり、田中角栄と親しかったにもかかわらず、クリーンである。
背景に戦前から戦後にかけての日本の政治史があり、日本が本当に民主主義の国になることを理想としていた政治家である。
選挙中に倒れた最期は印象に残っている。
ちょうど「田中角栄」という本を読んだ後で、同時代の政治家に興味があってとった一冊であったが、内容が濃く、充実していて、得した気分だ。
作者の辻井喬は、セゾングループを率いていた堤清二だが、今回初めて読む。感心した。作家としても十分大成したと思う。
投稿元:
レビューを見る
面白かった。
異なる意見を調整する際に、同心円でなく、ふたつの中心を持つ楕円形の収斂を目指す、という表現に共感。
四十日闘争など政局の叙述には物足りない所もあるが、人物としての大平正芳に一層好感を持った。
投稿元:
レビューを見る
大平総理が東南アジアを歴訪したとき、相手国の代表が総理の人格に感銘を受けたとのコメントを新聞で読んだことがある。「ア~ウ~宰相」「鈍牛」とか、テレビや新聞は明瞭でない物言いばかりを馬鹿にするような記事が多かった。その小さなニュースに国内のマスコミは首相の人となりをちゃんと伝えていないのかな、と思った記憶がある。
宰相、大平正芳の評伝。口下手であまり政治家らしくない印象。若い頃、キリスト教に洗礼したなど、つくづく生真面目な人だったよう。
やはり官僚だった池田勇人から見込まれて政治家になる。宏池会のことなどよく知らなかった戦後政治の勉強になった。
国家のことを懸命に考える官僚出身者が政治家になるのは良いことなんだろう。省益ばかり考えている輩じゃ困るけれど。官僚出身者を目のカタキにする民主党とかみんなの党って頭悪いよね。最終的に闘争相手となった福田赳夫との違いも得心した。派閥の親分というには、かなり遠い人だね。
左寄りの学者や政府に批判的立場の記者とも交流したり、長期的な展望を得ようと学者の協議会を立ち上げたり、バランス感覚のある人というか、自分を離れた目で見ていたのかなと思う。
アメリカとの密約まで踏み込んだ内容になっている。この件はルーピー鳩山の退陣の理由になったと内田樹先生に本にあったな。
筆者は辻井喬こと、西武セゾングループの総裁だった堤清二。父親、堤康次郎の評伝を読んだことがあるが、何故か、本書は文章がこなれてないと思う。大平宰相の評伝を書いた理由も何故なのかと少し疑問が残った。
投稿元:
レビューを見る
あまり取り上げられることのない第68・69代内閣総理大臣:大平正芳の伝記。とかく、地味で「ア~ウ~宰相」「鈍牛」といった印象ばかりがマスコミによって誇張されていたが、本書には大平正芳の生い立ち、心情、人となり、一貫した政治理念などが著されている。苦学の末、大蔵省官僚、のちに池田勇人氏に請われて政界入り。岸信介、佐藤栄作、田中角栄、福田赳夫など、同時代の歴代首相の素顔についても触れられている。一方で、安保・沖縄返還にまつわる密約事件なども、この頃の出来事。この経緯については、山崎豊子氏が『運命の人』として上梓している。
投稿元:
レビューを見る
【高潔な志を持ちながら政争に翻弄された政治家の生涯】近年再評価の機運が高まる大平正芳元総理。深い哲学を持ちながら権力闘争の波に翻弄された哲人政治家の生涯を描いた、傑作長篇小説。
投稿元:
レビューを見る
四国の貧しい農家の生まれから財務官僚、政治家になった昭和のながれを辿ることができました。
実家で読んでいたら父が「大平さんは、やっぱり骨のある人だったのか?関西は大学への考え方が東北と違って進んでる(父は宮城の農家生まれ)。次男三男で大学に行かすんだもんなあ。」とぱらぱら眺めていました。
永田町にいて、世間の空気が分からなくなる時の定点観測と名付けた方法が面白かった。
“この選挙で自由民主党は過半数を大きく上回る議席を獲得したが、岸内閣は警察官職務執行法の改正案上程といい、日米安全保障条約改正案の進め方といい、敗戦以前の警察国家の感覚で政治を動かしているという印象を社会に与えるような運営が度重なった。
この傾向は安全保障条約改定問題の院内での取扱いの拙劣さによって院外の反政府活動を刺戟した。それは国会内の議席数だけで物事を決する訳にはいかない時代になっていることを正芳たちにも教えた。
新聞などが「新憲法感覚の大衆への浸透」と呼んだような社会の変質は、正芳にとっても経験したことがなかった。まして、院外の大衆運動は共産主義者が煽動しているのだと即断する岸首相の時代認識と大衆社会の正義感との間の溝は、日一日と広がっていくようで正芳は不安だった。
そこで正芳は、彼がひどかに定点観測と名付けている方法を取ることにした。彼は通信社の記者の田島英吉と、駒込時代、同じ屋根の下に住んでいた山村丈次郎に「会いたい」と連絡をとった。”
他にもいくつかハッとする箴言を時折見つけられます。
昭和史を味わう事のできる本でした。
・「本当は新しい憲法を決めた時、憲法に依拠する集団としての政治勢力を編成すべきだったんだ。保守も革新もそれを怠った。
民主的な独立国の政治の問題なんだ。新しい政治集団が、自主的にせよ、半ば強制的にせよ作られたいくつかの制度や機構の推進力を発揮する力を持たない限り、それは官僚主義の砦になり、民主主義は形骸化する。ワイマール体制の危機についてウェーバーが言っているとおりだ。」(上田辰之助教授)
・三木武吉は民主党と自由党という二つの保守政党が、「小さな鍔迫り合いや、揚げ足取りを繰返している時ではない」と前置きして、話は憲法改正から再軍備にまで拡がったが、一息つくと、「しかしこれはわしの考えだ。政党の集合離散というのは、必ずしも考え方や政策によって決まるものではない。おそらく、池田君はわしとは違う意見だろう。それはそれでいいんだ。社会党の奴等はイデオロギーで統一しようとするから、いつも闘争と分裂を繰り返す。彼らには日本の政治は、たぶんいつまで経っても分からんだろう。わしらは大義名分と心意気で一緒になるんだ」
・その日も吉田茂は要所要所で、短い感想のような意見を述べた。会合が終わった時も、「鳩山は人がいい、岸は頭がいい。善良な人間も他人を傷つけるが、頭のいい者の害の方が要注意だな」と謎のようなことを言った。
・会談の冒頭、韓国代表の金鐘泌中央情報部長が、「わが国は、共産主義の脅威から日本を守る楯になっていることをお��れなく」と言った時、正芳は珍しく喰ってかかった。
「韓国の防衛力は韓国のためのものでしょう。日本の楯などとおっしゃるあなたの発言は韓国民の誇りを傷つけるものではありませんか」
投稿元:
レビューを見る
辻井喬さんは西武グループ総帥である堤清二さんのペンネーム。
大平さんは三木武夫の後に総理大臣になった人で、任期中の参院選途中で亡くなった。
幼い頃からの生い立ちや総理大臣になる前からなった後の苦悩などがよく理解できた。
中国でとても評価されているとは、今の状況を思えば、奇跡に近い。
辻井喬さんの著作は初めて読んだが、とてもしっかりとした文章を書かれていると感じた。レベルは高い。
投稿元:
レビューを見る
堤清二こと辻井喬による伝記風の「小説」である。ノンフィクション作家による「ノンフィクション」ではない。辻井としては、大平の果たした役割についての評価を事実・真実のシーケンスの提示で読者に委ねるという手法ではなく、終戦後に保守・自由主義で日本を再建するという歴史の文脈の中で、たまたま政治家となった「善人」はどのような個人的心情や苦悩の中で生涯をすごしたのか、という点を描出したかったのだろう。社会や政治について書く筆ではなく、人の生き方という「文学」の筆致だということだ。山崎豊子「運命の人」のモデルである毎日・西山記者がモデルとおぼしきキャラクターが「田島」という名で出てきたりしている。
大平は田中角栄とは近しかったが、そのイメージは対象的に、教養豊かで知性的であった。ただし岸や福田のようなエリート臭がないところが特異であった。吉田、池田の系譜を継ぎ、保守良識派と見られていた。現今の政治家のような、論理、迫力、イノベート意欲というところとはかなり異なるが、政治家には色々な人が必要だ。
文人政治家で心臓病で無念の在職死に斃れた人として、大平には昔から興味があり、フィクションはフィクションとして楽しく読めた。ただ、特に序盤で、大平がくだくだと自省低廻する場面が長いのには、やや辟易する。本職の作家に比べるとやはり辻井の筆は、良くも悪くも素人くさい。
投稿元:
レビューを見る
大平総理の一生
政治家にはいろんな種類の人がいるといいと思った。
貧農の出、田舎出身、クリスチャン、一橋から大蔵省と当時の政治家にない特徴や経験を持っていたからこそ哲人と言われるようになったのではと思った