紙の本
あん…それは 命の輝き
2013/02/10 10:50
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もりあやこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
丁寧に 慈しみ育てられた素材を撫でるようにして作られた食べ物を口に含むと
その命が この身に働きかけ
細胞の一つ一つが にこにこと 笑顔になるような感覚を思い出した
作者 ドリアン助川氏は かつて「叫ぶ詩人の会」として 社会とのそぐわなさ
魂のあるべき処を 思いあぐね悩む人々の思いを代弁するように叫んできた
しかし今 彼が 自らを名乗る時「作家・詩人・朗読者・道化師」と
声高に叫ぶ姿はもうない
今回の著作は 構想10年
ハンセン病についての 丁寧な取材に基づくもので 彼自身の人生の集大成
魂の書ではあるけれども
自分だけの力ではなく「出会った人たちの魂が書かせてくれた作品でもある」と 語っている
「ハンセン病について触れた作品」というと
辛く重い事実を ぐいぐいと突きつけられる イメージも多いが
この『あん』は それぞれの姿、辿った人生が どんな形であれ
命を持ったものが生きていくこと そのものを愛おしむ 温かな光に満ちている
決して 甘やかな 夢物語としてだけではなく
遂げられぬまま逝ってしまった命や思いを受け取り
届けようとする 静かに熱い思いは 塩辛さを感じさせぬ 微妙なバランスで
隠し味として 物語を 要所要所で 引き締めている
人と人とが出逢い 心で触れ合い
それが 鍵となって 次に踏み出す道への扉が 開かれてゆく
役立つとか 立たぬとか そんなことは 生きていく上で ほんのおまけにしか過ぎないという 安心感
著者自身の足で歩いた 地面の感触
季節の移ろいを 詩人として 見つめ 掬い上げ 紡いできた視点の 清涼感…
ドリアン助川氏の これまでの人生の集大成には違いない
しかし、かつて若者からカリスマと崇められた頃のような 叫ぶ形をとってはいないが
熱い思いが水底に脈々と流れ続けており
それを ぶつけることなく 優しさで包みながら 人の手へ 確実に届けようとしている
更なる進化の第一歩に過ぎない
著者が 今後また その足で歩き 出逢い 触れ合いながら 踏みしめてゆく 一歩一歩の 足跡に咲いてゆく 花のような作品が 楽しみでならない
紙の本
忘れない
2015/11/21 12:41
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:無我 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一生忘れられない小説となりました。
主要登場人物が皆、優しくてステキ。そして人生の意味を深く考えさせられます。
私はクリスチャンですが、どんな不遇な状況にある方も、難病や障害を背負って生きている方も意味なくこの世に生まれてくる人など一人もいないと信じています。
読み終えてから高校生の姪に貸しましたが彼女も目を真っ赤に腫らしながら私に『感動しすぎてヤバかった』と言ってくれました。老若男女問わず全ての方に薦めます。
電子書籍
安全ではあっても安心ではない
2019/01/25 19:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本を読んで都知事の「安全ではあっても安心ではない」という発言を思い出した。
人々が心の中に抱いている偏見と言うものの怖さを、直接表に出すのではなく、柔らかい筆致で描き出した秀作と思う。
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寝た子を起こすな…という理屈がある。
表現を変えることで、事実を隠蔽しようとする風潮もある。
ボクは思う…事実、真実を知らないこと、知ろうとしないことこそ、
誤った社会を形成することにつながるのだ…と…
これは、ハンセン病を扱った小説。
松本清張が「砂の器」で描き、熊井啓が遠藤周作の
原作を元に「愛する」という映画を撮った…
「らい病」といわれた病が、社会的にどういうものであったか…
今の若者は、ほとんど意識していないだろう…ボクも、
こうした小説や映画を通してわずかに知るだけだ…
このテーマで小説をものにした…著者に、
なにより敬意を表したい…と思った。
差別や偏見…といったものがどういうものであるか、
差別される者が、どういう気持ちで生きるのか…
あらためて、そういったことを考えさせられる一冊だった。
それを考えることは、人が人として生きる上での不易の課題だろう。
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今川焼屋さんではなく、どら焼屋さんというのが良くて、できたてほかほかのどら焼が食べたくなりました。それも徳江さんのあんの。
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商店街にぽつんと小さなどら焼き屋での思いもしない出逢い、心のふれあい、そして偏見… 人が人に惹かれてゆくのは自然なことなんだな。想像もできない過酷な現実を生きる為に自分を奮い立たせてきた吉井さん、きっと一緒にいて千太郎はその見えない生命力に共振したんだと思う。 やる気ってひょんなことから出てくるんだよね。不思議だけど自分の考え方ひとつで。
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とある目的のために、こだわりなどなくただただ毎日どら焼きを作っていた千太郎と、過去に患った病が人生につきまとう「あん」作り名人の吉井徳江の出会い。
この病気のこと、患者の人たちが受けてきた苦しみについて、知らないことが多くてショックを受けた。
作風としては個人的にはもう少しシャープなほうが好みだけど、きちんと心に残る、そんな作品でした。
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和菓子屋さんのお話と思って読み始めました。
間違っていないけど、もっと深いテーマが描かれていました。
それはハンセン病の差別。
どら焼屋さんで働く千太郎のもとに、指の曲がったおばあさんがお客として来た。
また来たおばあさんは餡についてアドバイスをしてくれ、時給200円でもいいから雇ってほしいと言う。
千太郎はおばあさんが働くのは大変だからと断ったが、餡作りを教えてもらうためだけに働いてもらった。その後、どら焼屋のお客は増えたが、同時にある噂も広まっていた。
オーナーである奥さんがその噂を聞きつけ、おばあさんを辞めさせるように言ってきた。
おばあさんはハンセン病だったのだ。
その昔は不治の病で、感染を防ぐために法律で隔離することが義務づけられた病気。
まだ根強く偏見が残っていたのだ。
おばあさんがいなくなったどら焼屋は、餡作りを失敗することも増え、さらに偏見からか客足が遠退くようになっていた…。
ハンセン病を取り巻く現代にまで続いている問題を扱っているけれど、どら焼屋の話を元に進んでいくので、重苦しさはない。
でも、ハンセン病についても考えさせられる内容になっていた。
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どら焼き屋を舞台に、人生に躓き店長を任せられた千太郎とハンセン病の療養所で暮らす老婆・徳江。千太郎は、50年間つくっていたと云う徳江から製あんつくりを伝授され、云わば法律に依って幽閉されていた二人が、希望の人生を紡いでいく物語だ。
終盤、徳江は手紙でこう語る。
「私ね、とても嬉しかったのですよ。裁判に勝って、私たちを閉じ込めた法律が廃止されて、自由に外を歩けるようになった時。だって、それを目指してみんな何十年も頑張ってきたのですから。だけど、その喜びは苦しみと背中合わせでした。」(P.223)
ハンセン病患者に対する国の隔離政策が生んだ法律が、1996年廃止された。けれど、世間はあまり変わっていないと、決して声高に叫んでいないが、過酷な運命に晒され偏見や差別と闘った方々の思いが伝わってくる。
文章は詩的でファンタジックな中に、人生の生きる意味を問うという重たいテーマが琴線に触れる。
ぜひこちらを参照ください
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http://www.poplarbeech.com/sp_pickup/ann/
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本当に生きる事を考えさせられますね。
本の題名から、こんなに深い問題とは知らずに読み始めました。
ただ個人的には、あの方のために店長がどうなったのか書いて頂きたかったような気がします。
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とても読みやすかった。
最初の数行で物語に入り込めて、スッと集中して読めた。
そして読み終わるまで、席を立つ事もコーヒーを飲む事もなかった。
ということは多分、この小説をとても面白く感じてたんだと思う。
「塩」というキーワードが出て来た辺りで、最終的に何銅鑼焼きにするのか読めちゃったのは残念。でも話の重点はそこではないので、物語のマイナス点にはならない。
お店の繁盛記物語ではないのが、却って良い余韻でした。
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惰性で続けているどら焼き屋の店長のところに、ひとりの老婦人が訪れる。彼女が作る極上の餡に魅せられ、店で雇うことにしたが、ある噂が流れ、また店は閑古鳥が鳴くことに。
ハンセン病を扱った問題作ではあるのですが、もう少し展開が欲しかったところ。
中学生の女の子がハンセン病についてどう思っているのかなど切り口はもっとあっただろうなと惜しい作品です。
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読みやすくてわかりやすくて、シンプルだけど深くていい本やった。
最近、読んでいる時はそれなりに面白くても、後でつまんなかったと思うものが多いが、「あん」は、とにかく読後感がいい
彼は、他にもいっぱい書いているようだ。
楽しみはまだまだ続くってことだ、うれしいぞ。
そしておまけ、「あん」は餡のこと。この本に書かれているような方法でを手作りしてみたいんだよね~。
きっと読んだ人は皆そう思うだろうな。
まりさん
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どら焼屋の店主とあばあさんのあたたかい話し。生きるのはつらいけど貴いというちゃんとしたメッセージがきちんと伝わっきたのが、よかった。
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ドリアンさんの本初めて読んだ。よかったー。
昔見た「熊笹の遺言」という映画のあいさんを思い出した。外に出るっていう権利を得るまでもほんとに大変な思いをしてきているのにそれよりも全然一度人々の心の中に巣くってしまった差別を掬っていく方が難しい。
でもひとはふと出会ってそのふとした出会いで変わっていく。そこから考えていく。
本との出会いがひととの出会いの代わりになることがあるっていうのを改めて実感できて希望をもらった。