紙の本
極めてユニークなコーラン解説書
2017/02/28 02:13
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、イスラーム研究第一人者井筒俊彦による一般向けの極めてユニークなコーラン(クルアーン)解説書である。1982年に10回にわたって行った市民セミナーの講義をもとに成書化したという。市民セミナーということは、対象は一般人向けということである。何がユニークかというと、この本全体で、「開扉」とされるコーランの第1章のみを綿密に読み解くことに集中している点にある。いやいや、1章をちゃんと解説されたら、入門としては十分だろう、と思いきや、この第1章の全文とは以下の7行の言葉にすぎないのである。
慈悲ふかく慈愛あまねきアッラーの御名において
一 讃えあれ、アッラー、万世の主、
二 慈悲ふかく慈愛あまねき御神、
三 審きの日の主宰者。
四 汝こそ我らはあがめまつる、汝にこそ救いを求めまつる。
五 願わくば我らを導いて正しき道を辿らしめ給え、
六 汝の御怒りを蒙る人々や、踏みまよう人々の道ではなく、
七 汝の嘉し給う人々の道を歩ましめ給え。
何とここに、コーラン全編のエッセンスが凝縮しているというのだ。これは井筒個人の解釈ではなく、ムハンマドの言行録として伝えられるもの「ハディース」にも、「世界中の啓示の書(旧約聖書、新約聖書といったキリスト教関係文書を含んでいる)に含まれるエッセンスは「コーラン」に含まれており、「コーラン」自体のエッセンスは「開扉」の章に残りなく含まれている」と書かれている、ということである。だから、イスラーム教徒は、一日五回の礼拝に際し、この「開扉」言葉を唱えるのである。これはちょっと、大乗仏教の「空」の広大な思想を300字足らずの「般若心経」に凝縮して、ありがたいお経として多くの人が読誦するのに似ているな、と思った。
勿論、字面上のみの解釈書として400ページ近くを割いているわけではない。例えば、「審きの日」という言葉がイスラーム教徒に惹起している終末世界観というものが、如何にイマジネーション豊かなものであるか、というような話は、イスラーム文化に疎い普通の日本人が文字だけ眺めてもさっぱりわからない。そのために必要な知識を十分に語って聞かせることで、聴き手に理解を深めさせようと、井筒は情熱を傾ける。十分なイスラーム文化理解の上でこういうテキストを読み込まないと、本当の「コーラン理解」には至らないのだ。その文化に溶け込んでいない人間にとっては「入門」こそが最も困難なステージなのである。この入門部分をいい加減にやっつけてしまうことほど空しいものはない。イスラーム研究第一人者である井筒の手引きでコーラン入門を本書によって果たす読者は幸せである。
ただし、本書を読んだからといって、「コーラン」のすべてを理解した、と胸を張るわけにもいかないだろう。個人的には、本書を読んだお蔭で、はじめて、「コーラン」全編を通読しようかという気になった。なお、本書を読むにあたって同著者の「イスラーム文化」を予め先に読んでおくことを読者にはお勧めしたい。
紙の本
イスラム教研究の第一人者による「コーラン」の解説です!
2019/01/23 14:47
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、イスラム教の研究においては我が国の第一人者である井筒俊彦氏による「コーラン」の内容について解説した作品です。コーランの根本概念であるし終末論、予言者、啓示などを分かり易く解説しており、コーランの奥深さが理解できます。また、コーランの文章を多角的な視点から考察されている点も見過ごすことができません。非常に興味深い一冊です。
投稿元:
レビューを見る
「読め」ばわかりますが、「コーランを読む」という題名から発想されるような・・・・、市民文化講座「源氏物語を読む」をイメージして読み始めると期待は裏切られる。
しかし、裏切られる感覚は知的には快感である。
なるぼと・・・・「読む」とはそういうことだったのか・・・という自戒。文化講座でなかったという喜びもある。
ただ、あくまでも岩波のセミナーですから、語り口調でとてもわかりやすい。
なるほど、エクリチュールを紐解くというのは、並大抵のことではないのです。
投稿元:
レビューを見る
井筒俊彦「意識と本質」の輪読会を始めて、やっと二年で読了。でも、この本とはまだまだ離れることができない。
何回繰り返し読んだかわからない。
が、例えばブルックナーの交響曲のように、終わったらまた初めから愉しみたい。
今は、何が書かれているかということよりも、どうして井筒先生はこれを書いたのか、ということに興味を持っている。
投稿元:
レビューを見る
世界宗教としては一番新しいものであるがゆえに、その時その頃の一神教としては最適化していたがゆえに、思った以上にその在り方が難しく見える。あらためて難しい宗教だなと思った。一神教としてはとても合理的な宗教なのだけど。
投稿元:
レビューを見る
<目次>
第一講 『コーラン』を「読む」方法
1 『コーラン』の形成
2 「読む」こと
第二講 神の顕現
3 『コーラン』の解釈学
4 「開扉」の章
5 神の顔
第三講 神の讃美
6 存在、すなわち讃美
7 神の生ける徴
第四講 神の創造と審き
8 イスラームの人間観
9 『コーラン』の存在感覚
10 信仰の概念
11 イスラームの終末観
第五講 『コーラン』のレトリック的構成
12 レアリスティックな表現レベル
13 イマジナルな表現レベル
14 ナラティヴな表現レベル
第六講 終末の形象と表現(その一)
15 レトリックの言語学
16 『コーラン』の発展と表現意識
17 終末の描写
第七講 終末の形象と表現(その二)
18 レトリックの重層性
19 終末の概念とイマージュ
第八講 実存的宗教から歴史的宗教へ
20 神の奴隷
21 アブラハムの宗教
第九講 「存在の夜」の感触
22 存在の夜
23 預言者と予言現象
第十講 啓示と予言
24 啓示の構造
25 神の導きの二面性
26 質問にこたえて
後記
解説「読む」という秘儀―内的テクストの表現(若松英輔)
投稿元:
レビューを見る
いくつかの宗教について学んだが、ついぞ、イスラム教について学ぶ機会がなかった。9・11以後、日本に住む私にとっても、折に触れひっかかるテーマではあったが、やはり、距離を感じていたのだろう。
ようやく手に取った一冊であったが、ここから学び始めることができ、とてもよかったと思う。
おすすめ
東京ジャーミィ 見学会
TEDTalks LesleyHazleton "On reading the Koran"
投稿元:
レビューを見る
クルアーン「開扉」の7行をてがかりに、イスラームの根本理念を解説する、濃密な講義録。読んだとき、圧倒された記憶があったので、いま、本棚から取り出して、ページを繰って赤線を引いている箇所なんかを拾い読みしてみました。すっかり忘れてました。なさけないですねえ。ただその一方で、関心の芽がぴょこんと顔を出しました。いずれまた、この本は再読したいと思います。(2015年2月28日読了)
投稿元:
レビューを見る
井筒先生の本の中でも、おそらくかなり読みやすい。いつかの講演内容を書面化したもの。
コーラン初心者の人に向けて、イスラム教とはどのような背景で生まれたのかという視点を与えてくれる。
投稿元:
レビューを見る
たった数行に含まれる、表面的に訳せる意味からは到底見えないあらゆる背景を延々と具体的な例示やニュアンスとともに読み解いていく内容で、詩文やそれに類する、特に古い文に書かれてる内容なんて、意味解ったって解りきらんな、をすごい痛感。
そして、それだけ延々と文そのものだけからは見えないものを「読む」講話の書き下ろしだったにもかかわらず、後記で書かれてる「読む」に関する話がまさに皮肉を効かせてるかのようにも読めて、笑ってしまった。
井筒さん面白い人だなあ。
投稿元:
レビューを見る
kindle。
82年に開かれた市民講座の記録がもとになっている。当時の現代思想の流れも絡んで、コーランの一節が重層的に読まれる。
イスラムによってアラブの部族社会になかった「個人」という考えが誕生するのは、キリスト教がヨーロッパで個人を生み出した経緯と似ている。
投稿元:
レビューを見る
167.3
「イスラームの聖典『コーラン』は、その成立の複雑な歴史的・社会的経緯、独特の世界観、言語上の問題などを理解した上でないと、十分な理解は到底難しい。イスラーム哲学研究の第一人者が、『コーラン』をテキストにそって、多角的な観点を用いながら解読する。イスラームの根本概念である「終末論」「預言・預言者」「啓示」等を通して、『コーラン』の深い精神性が明確にされる。本書は、優れたコーラン入門としてはもとより、井筒哲学の基礎的構造を論じた最良の「井筒俊彦入門」の書でもある。」
目次
『コーラン』を「読む」方法
神の顕現
神の讃美
神の創造と審き
『コーラン』のレトリック的構成
終末の形象と表現
実存的宗教から歴史的宗教へ
「存在の夜」の感触
啓示と預言
著者等紹介
井筒俊彦[イズツトシヒコ]
1914‐1993年。イスラーム学者、東洋思想研究者。言語哲学者。慶應義塾大学名誉教授。日本で最初の『コーラン』の原典訳を刊行し、ギリシャ哲学、ギリシャ神秘主義と言語哲学の研究に取り組んだ。後期には仏教思想・老荘思想・朱子学などを視野に収め、東西の哲学・宗教を横断した独自の「井筒哲学」を構築した