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著者は医師免許を持ち、愛媛県で行政職として保健所長などを務めた後、退職。今は愛媛大学医学部附属病院で、入院と退院後の生活との間をつなぐ医療福祉支援センターのセンター長に就いている。この本は、保健領域と医療領域を見てきた著者が主張する「生活を分断しない医療」論。読む前は、地方のちょっとだけ有名人・実力者がコネを使って、タワゴト的持論をしゃべる本かと思ったのだが(実際、そういう本ってけっこうあるから)、読んでみるとうなずけるところがいっぱいあった。いい本だった。
検査値を盾に不摂生を責めるメタボ健診は、健康の自己責任を強いるものだとする。それよりも、地域全体の食生活や生活習慣を変える取り組みを進めるべきだと述べる。確かに、今や長寿日本一となった長野県などは、地域を挙げての減塩などの取り組みが功を奏したといわれているよな。
かといって、著者は、行政を責めるばかりではない。この本の柱は副題でもある「医療への依存から医療の活用へ」というところにあるといえる。医療は万能ではない。私たちが心身ともに健やかに生きるための一要素でこそあれ、頼りすぎては自滅する。意思的に医療を活用することこそが大事だというわけだ。お任せ医療も、大学病院信仰も、はたまたモンスターペイシェントも依存が生み出したもの、医療への過剰な期待は捨てることが健やかで幸せに生きる道というのは、なかなかうなずける主張だ。
そして医療に依存しすぎないために必要だというのが、共助の社会。自律的な市民のネットワークが求められるということだろう。地道に、地道に「わがこと」としてやっていくことが大切。そのためのガイドブックといえそうだ。