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おお、布施ちゃんが仕事をしている……!(笑)
『ヘッドライン』 今野敏 (集英社文庫)
なにせ鳩村デスクも、非番の日に局にいる布施に「おまえ、何してるんだ?」とか言っちゃってるんですから。
「何って、仕事ですよ。局でそれ以外に何するんですか?」とか言い返されてるし(笑)
そう、事の始まりは、布施が休みの日にわざわざ局に出てきて、過去の殺人事件の映像を調べていたことだったのだ。
ところで、警視庁捜査一課の黒田刑事は、今回、特命捜査第二係というところに所属しており、過去の未解決事件の継続捜査をしている。
一年前に起きた美容学校生バラバラ殺人事件を調べていた黒田は、まさにその同じ事件を布施が調べていることを知って驚く。
なぜ一年も前の事件を今ごろになって布施が調べ出したのか。
黒田は布施を問い詰めるが、「昨夜急に思い出した」とか「調べる必要があるような気がする」と言うだけで、一向に理由が分からない。
しかしヤツは何かを掴んでいる。
黒田は、進展しない捜査状況を打開するため、布施をマークする。
刑事が記者に張り付くなど前代未聞だが……
「記者の取材には限界があります」
「何が言いたい?」
「記者が訊けないことも、刑事なら訊けるかもしれないということです」
「あんた、俺の警察手帳を利用して取材しようというのか?」
「手詰まりなんでしょう?」
交渉成立。
かくして刑事と記者という異色のバディが誕生したのだった。
楽しくなってきたぞ。
六本木でドラッグを買った若い女性たちが、行方不明になっているという噂。
バラバラ殺人の被害者の友人が最近になって様子がおかしくなり、心療内科に通い始め、新興宗教に入信したこと。
この、布施と黒田が最初に一つずつ持ち寄ったパズルのピースの本体は、ふたを開ければ実はとんでもなく大規模で難解な代物だった!
この話は、警察のパートとテレビ局のパートとが交互に進んでいき、それぞれ黒田の視点、鳩村の視点で語られている。
この二人が、なんやかんやと布施に振り回されているように見えるのが面白い。
遊んでいるように見えて実は綿密な取材をしているのかもしれないとか、何も考えていないようで実はすべて計算されているんじゃないかとか、いいかげんなヤツなのになぜか気になるとか、黒田や鳩村から見た布施像はやはり謎めいていて、ドキドキしてしまう。
前回は遊び人の部分がかなり強調されていたが、(もちろん私はそれも好きだが)今回は布施がすごくちゃんと仕事をしていて、これはこれで何だかえらくかっこいいのである。
そういえば、前作『スクープ』はバブルの匂いがプンプンだったが、今作はちゃんと今の話になっていたね。
ミッドタウンができていたり、そうそう、社員証も首から下げる式になっていたし。
さて物語の後半は、膨大な数のピースがスピードを増してカチカチとはまっていく。
黒田と布施から���まった、捜査と呼べないほどのほんの小さな引っかかりが次第に形になり、色々な人間が関わり、その熱量が大きなうねりとなって、事件が解決へと動き出すさまは壮観だ。
特に警察側のチームワークがすごかった。
刑事部は殺人、公安は教団、生安は薬物。それぞれがやるべきことをきちっとやる。
組織のかっこよさって、こういうところなんだよなあ。
物語の最後、教団の幹部と教祖が逮捕される。
しかし、この教祖は、やり方は間違っていたけれど、真に人々の魂の救済を願っていた人物だった。というふうに描かれている。
『スクープ』を読んだときにも思ったことだが、この“犯罪を裁く”ことが着地点ではないふわっとした感じは、警察が主役の小説にはないところかもしれない。
そして布施の、事件の本質を見つめる眼差しが実はとても優しかったことに、事件が解決した後、気付く。
明るい気持ちで読み終われる理由はこれだ。
一年前のこの事件の報道を振り返り、「あまりに事件の猟奇性を強調しすぎた」と、布施は言った。
それは言ってみれば、すべてのメディアが抱える問題点だ。
しかし、その反省に立ったうえで、「だが、俺たちは、できるだけ真実に近づきたいと、日々願って仕事をしている」と言った鳩村の言葉に胸を打たれる。
そうであってほしいと思う。
「はいは一回」と注意されて「はいはい」と言っちゃう布施ちゃんと、頭を抱えてもやもやする鳩村さんのコンビは、やっぱりこのシリーズの癒しだなぁと穏やかな気持ちで読み終えた。
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報道記者の布施と警視庁の黒田が過去の殺人事件のためにタッグを組む。
再捜査に頭打ちしていた黒田に何気ない布施の言葉が引っかかり、事件解決へ。
報道デスクの鳩村、刑事の黒田が布施と関わり、少しずつ変化していく様子が面白かった。
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報道番組「ニュース・イレブン」の遊軍記者、布施京一のシリーズ第二弾。今回、布施が興味を持って追いかけ始めたのは、まずは一年前に起きた女性の猟奇殺人事件。そして、六本木で若者の間ではやっているドラッグ売買と、ドラッグに近づいた若い女性の失踪事件。失踪した女性たちは、家出していたり地方からあてもなく上京していたりするものばかりで、実際には「事件」として世間の注目を浴びておらず、犯罪として警察に捜査されてもおらず、もちろん、布施の所属するテレビ局でも扱われていない。
そうした、いわゆる「都会の暗部」に興味を持ち、仕事のネタ、つまり成果になるのかどうかに頓着せず、独自に追い続けていく布施の人情味と人間性が、第二作である今作で大きく花開いた感じ。このシリーズ第一作の『スクープ』とは一味違う、まろみのある人物としての布施京一がこの作品で確立された印象。
布施を取り巻く登場人物たちの中にも、第一作からは少しずつキャラクターが変わってきた人たちがいる。まず、警視庁捜査一課の黒田刑事。第一作では人を突き放すようなやや粗暴な雰囲気があったが、本作では刑事としてのありかたや後輩の扱いに悩む、人情味のある人物になっている。そして、その黒田のもとで働く若い谷口刑事も、軟弱さや覇気の無さが薄まり、自分なりに刑事としてやるべきことをこなす真面目さが出てきている。一方で、第一作に輪をかけて鬱陶しいお邪魔キャラになっているのが、新聞記者の持田。こういう、自分の分をわきまえないような、人をイライラさせるタイプの人物も現実には存在するわけで、作品において必須の三下の役を担っているという点では、持田の存在もやはり必要。第一作では単に布施の言動を煙たがっているだけのように見えた、ニュース・イレブンの鳩村デスクも、彼なりに報道マンとしての矜持があり、彼なりの哲学の下で布施のやり方に納得できずにいる、という、愛らしいキャラクターを見せている。
物語は中盤以降、新興カルト宗教が交わってきてさらに混沌としていく。終盤の急展開にはちょっと性急な印象もあるが、実際の犯罪の検挙や逮捕の瞬間というのは、これぐらい急であっけないものなのかもしれない。
布施は報道記者として「映像を撮り、ニュース番組で流す」ことに目的があり、黒田刑事は警察として「犯罪の現場を押さえ、容疑者を逮捕する」ことに目的がある。よって、必然的にこのシリーズでは、「逮捕や検挙の瞬間を布施が映像で押さえることと、警察が犯罪の現場を押さえる」ところまでが焦点であり、その後の犯罪捜査や裁判については特に触れられない。後日談であり、ある意味、余談でもあるため仕方ないところかもしれないが、一般的な「警察モノ」の作品に慣れてしまうと物足りないのも事実であり、そのあたりがもう少し描かれると、さらに読みごたえが出るのではないか、とも思う。
とはいえ、この作品が不足しているという意味ではなく、本作の結末と幕引きの後味は決して悪くない。