紙の本
隠れた図書館大国
2022/02/10 20:13
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノルウェーでは、フィヨルド地域に住む人たち日本を届けるために、ブックボート(船による移動図書館)が運航されているそうだ。その実情を知るために読んだ。
ノルェーでは日本のように人口が密集していないために、図書館が偏在してしまい、すべての人に公平に図書を提供するのが難しい。そのために活躍するのがこのブックボートやブックモービルという。
日本では、図書館などの文化施設を重んじない(ないがしろにする)自治体の首長も散見される中、図書館の役割を見極め、文化の格差を埋めようとするノルウェーの姿勢に感動した。
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デンマーク・フィンランド・スウェーデンの陰に隠れて目立たないけれど、実は図書館大国のノルウェーの話。
ノルウェーにある様々な図書館とその取り組みやあり方が紹介されている。
小さな町で唯一の文化施設である図書館もあれば、歴史ある大きな公立図書館も、地域の人に開かれた大学図書館もある。
フィヨルドをめぐるブックボートもあれば、不景気で縮小された図書館を補うためにスーパーマーケットに設置された図書館コーナーもある。
それらが相互につながって、資料を融通したり知識を分け合ったりしている。
図書館はすべての人にひらかれた、情報を保障する場所であるという基本はきっちり守って、あとは試みがかなり自由だ。
図書館に来ない人は図書館を嫌っているのではなく単に存在を忘れているだけらしいという調査結果が出れば、使わない人にアピールしにいく。
ダンスパーティーなんかも開いちゃうし、経済状況によって機会に差があるのは良くないからコンピューターゲームも提供する。
必要な人が必要な知識を得られるように、その手助けになれるように考えるのは、最先端の北欧でも「図書館ってなあに」というところから始める難民キャンプも同じだ。
「図書館の信念」が息づいているのが嬉しい。
墨字が見えない視覚障害者も、英語やノルウェー語がわからない移民も、文章を読むのが難しいディスレクシアも、みんな図書館の対象になっている。
というかむしろ図書館が援助の場として機能する。
図書館は本が置いてあるだけの場所じゃない。
働く人たちがみんな生き生きしている。
自分の仕事に意味を感じていて、やりたいことがたくさんあって、良くしていこうとしている。
なんかこういうの、いいなあ。
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日本の、というか地元の図書館には随分お世話になっている反面、指定管理者制度による効率化と画一化が、この先なにかよくないことになるのでは、という漠然とした不安をもっていました。こういうタイトルの本を読むと、その不安はきっと大きくなるんだろうなあ、と想像していたのですが、意外とそうでもないかもしれません。
ノルウェーの図書館は、デモクラシーの砦であり、資料を提供するだけではなく文化的な体験を提供する、ということを強く意識しています。ブッククルーズなんていう企画もあったりします。新しいことをどんどん取り入れていますが、決して日本で出来ないことではないと思います。建築的に優れた図書館は、そりゃ確かに羨ましいけれど、そうじゃないところでうまくやっているケースも有ります。図書館関係者が読むと、ジレンマやら目を背けたいこともあったりするのだろうけど、利用者の立場からは、わりと刺激的かつ将来が楽しみになるような本でした。
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先生の本にはいつも励まされ、勇気づけられるなぁ。
今回も多くの気づきのある、とても刺激的な内容でした。
あとがきで、
”私たちの日々の営みは、多くの場合、それほどカラフルな刺激に満ちているわけではない。そんな淡々ときた日々の繰り返しのなかで、ちょっとアクセントをつけるための場所、図書館はそんな日常的なメディアでいいと思う。でも、なかには、図書館の書架で特別の一冊を見つけて、それをきっかけに人生が大きく変わる人がいるかもしれない。夢を見る場所でもあり、夢を実現する場所でもある、それが図書館なのである。”
とあって、自分の考えてることは理想的すぎるのかも。と、図書館の可能性を信じることはあっても、それを万人に求めてはいけないんだなと改めて思った。でも、図書館で働く人間が信じていないとできないことも多くある。
プロフェッショナルを目指して働くスタイルを考えさせられる本でした。答えはまだ出ないけど‥考え続けたいです。
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人々の生活や出版事情もおりこみ、ノルウェーの図書館の今を描く。著者の図書館への期待と愛を感じる。
日本では以前から館長が司書ではないことが、問題になっているが、司書の専門性が重視されているノルウェーでも司書でない人も増えつつあるという。経営能力や折衝能力がトップに必要なことは理解できるけどー。
わたしは学校司書で働いているが、本文で言う「テクニカル サービス」が出来ない学校司書がいる。学校司書はひとり職場なので、そういう司書の後に異動したら困る。テクニカルサービスって知識と根気が必要。でも、周りには目に見えることが、往々評価される。司書も国家資格になればいいのに。
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本の価格が高く、流通の難しい国ノルウェー。
その文化を支えている図書館の見聞録です。
移民と先住民の文化と言語も範疇とし、更にはコンピュータゲームも扱う積極性がありました。
ブックモービルやブックボートでなるべく多くの利用者へ資料を届け、未利用者にも注目されるような魅力のあるイベントも考えられています。
しかし、電子化や人件費削減といった他の国と同様の問題にも直面しているようです。
図書館としての活動が未来にどう響くのか、明るい希望を持ちたいものです。
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映画「ニューヨーク公立図書館」に触発されて読み始めた北欧図書館シリーズ第3弾。今回はあまり語られることがないノルウェーの図書館の紹介です。
大きな課題はノルウェーの人口が500万人ちょっとしかいない事です。出版するにも図書館を維持するにも、人口が少ないことはなにかと不利になりますね。出版においては発行部数が少ないために本が高価なものになります。その点から言うと図書館の役割は重要と言えます。
電子書籍への課題も。電子書籍貸し出しになれば、そもそも図書館は不要かという議論も紹介されていました。ただ、図書館が学ぶ「場」としての意義を見出すなら、物理的に存在しないといけないし、その上で、書籍だけでないコミュニティを通じた情報の取得や学習の機会と言う点ではネット情報とは一線を画すものがあると改めて考えさせられました。
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ノルウェーはこれまであまり注目したことなかったが、図書館が文化の拠点となって能動的に様々な取組みをしていることがこの本をよんでよくわかった。日本の図書館も参考にできるところがたくさんありそうだ。
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著者紹介
Magnussen 矢部直美(マグヌスセン・やべ・なおみ)
大阪府生まれ。 1959年、 1983年、立教大学文学部日本文学科卒業(司書資格取得)。玉川大学通信教育学科(小学校教諭免得)。1987年、 -1991年 立教女学院小学校勤(司書教諭)この間、東子ども図書館「お話の講習会」を受講。ノルウェー政府奨学生としてオスロ大学人文学部1991年-1992年に在学。オスロ大学人文学部Cand.mag.取得(民俗学)。 1998年、2004年、オスロ・ユニバーシティー・カレッジ(司書資格取得)。1998年からオスロ大学人文学社会学図書館勤務。東アジア関係資料担当。
吉田右子(よしだ・ゆうこ)
1963年、東京都生まれ。1992年、 図書館情報大学大学院修士課程修了。1997年、 东京大学大学院教育学研究科博士課程单位取得退学。図書館情報大学助手を経て現在、筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授(公共図書館論)。主な著作に『メディアとしての図書館:アメリカ公共図書館論の展開』(日本図書館協会、2004年)、『デンマークのにぎやかな公共図書館:平等・共有・セルフヘルプを実現する場所』(新評論、2010年)がある。2008年8月から2009年3月までデンマーク王立情報学アカデミー客員研究員。
和気尚美(わけ・なおみ)
1983年、埼玉県生まれ。2011年、筑波大学大学院図書館情報メデイア研究科博士前期課程修2013年現在、筑波大学大学院図書館情報メデイア研究科博士後期課程在籍、デンマーク政府奨学生としてデンマーク王立情報学アカデミーへ留学中。研究分野はエスニック・マイノリテイの公共図書館利用。主な著作に小林ソーデルマン淳子、吉田右子、和気尚美著「読書を支えるスウェーデンの公共図書館:文化・情報へのアクセスを保障する空間』(新評論、著『高齢社会につなぐ図書館の役割:高齢者知的欲求と 2012年)(第5章担当)、溝上智恵子ほか受け入れる試み』(学文社、2012年)(第3章担当)がある。
最近人気が復活しつつある、古くて新しいプログラムが 読書サークルである。みんなで同じ本を読んで語り合う読 書サークルは全世界的な流行を見せているが、ここノルウ ェーでも盛んに行われている。読書サークルでは、ノルウ ェー語の本にかぎらず世界各国の文学や詩が取り上げられ ている。読書サークルの開催形態にはいろいろあって、文学愛好 者だけでなくノルウェー語を勉強しはじめて間もない人を 対象にしたサークルもある。また、自分で読書サークル 主宰してみたいという人には、司書が本の選び方やサーク ルの進め方についてアドバイスをしている。
大人の娯楽小説として人気があるのは、何と言っても推理小説で ある。ノルウェーやスウェーデンの推理小説は、その多くが英語や ドイツ語をはじめとする各国の言語にも翻訳されるほど人気がある とともにレベルも高い。そのなかでも、ジョー・ネスボーは、毎年 のようにベストセラー入りする人気の推理作家で、ノルウェー社会 の暗部を描くことにかけては定評がある。 ところで、ノルウェーでは、イースター休暇に推理小説を読むと いうちょっと変わった習慣がある。休暇が近づくと、「イースター におすすめする推理小説」という記事が各新聞や雑誌に毎年掲載さ れる。��みを街で過ごす人も、山に行ってスキーを楽しむ人も、こ の休暇には推理小説を読むことが伝統となっている。各テレビ局も 競うようにしてノルウェーをはじめとした海外の探偵物や推理物の ドラマなどを連日放映し、その評判がまた新聞記事をにぎわしてい る。
ノルウェーでは、昔から耳で物語を聴くという文化が根づいている。ラジオ劇場も 伝統的に人気があり、最近はラジオ番組をインターネットで楽しむ人が増えているぐらいだ。だ が、製作元のノルウェー放送協会では、予算と人員削減のために新しいコンテンツの製作が困難 になり、再放送が多くなっているのが残念である。 音で文学を楽しむという習慣が浸透しているせいか、本をそのまま録音したオーディオブック も人気がある。読書好きな人は、活字を読むだけでなく聴く読書も好むということだ。通勤や通 学で長い時間を電車や車の運転で過ごす人が、その合間にオーディオブックを聴いていることが 多い。学齢期の子どもが、学校や課外活動の場所に車で移動する最中に親子一緒に楽しんでいる という話も聞く。
日本文学については、一九九0年代ぐらいまでは、川端康成、三島由紀夫、そして く知られている作家のスタンダートだった。これらの作家の作品のいくつかは、メ ルウェー語に翻訳されている。また、俳句も詩の一種として興味をもつ人が多く、一九六〇年代 には俳句の形式を用いたノルウェー語の作品も出版されている。 しかし現在、多くの国がそうであるように、日本文学と言えば村上春樹(一九四九〜)の作品 が飛び抜けて人気が高い。ノルウェーの文学作家のなかにも村上ファンがいるぐらいである。 〇一〇年の夏、オスロで開催された文学フェスティバルに村上氏が招かれた。王宮公園のすぐ横 にある「文学の家」(コラム4参照)で講演が行われたが、インターネット上で売りに出された 二〇〇枚のチケットがたった一二分で完売となったということで大きな話題となった。 オスロにある書店の棚には必ず村上作品が並んでいるし、ファンはオスロにとどまらずノルウ ェー中に広く存在している。二〇一一年の夏、『1Q84』の「ブック1」と「ブック2」が合 冊になったペーパーバックが刊行された。同僚の司書と日本文学の話になると、必ずと言ってよ いほど村上作品の話題になり、「早くブック3が読みたい」とみんな口を揃えて言う。どうやら 村上文学は、今まで日本文学に興味のなかった人までに、日本の作家に目を向けさせるきっかけ になったようだ。