紙の本
ミステリの名手は最後まで衰えず
2014/03/12 08:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぎわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
同じ女性を同じ晩に同じ場所で複数の人物が殺す『私という名の変奏曲』、異様な復讐を描いた表題作を筆頭にトリッキーな(いっそトリッキーすぎると言ってもいい)短編揃いの『夜よ鼠たちのために』。大学時代にサークルで先輩たちに薦められてこれら連城三紀彦作品を読み、感嘆させられました。
個人的に最も鮮烈な印象を受けたのは『瓦斯灯』所収の短編「花衣の客」。恋愛の心理とミステリ的な意外性が完璧に融合した大傑作だと思います。
他には、誘拐ミステリ『人間動物園』も、往復書簡形式で逆転また逆転な『明日という過去に』も、とある家庭が舞台のショートショート連作という趣で分量的には平日昼下がりの帯ドラマにちょうどよさそうだけどもし実現したら変な意味で評判になりそうな『さざなみの家』も、とても好きです。
そんな作者が昨年逝去。六十五歳なんて早すぎると嘆いたものの、本になっていない作品はまだあったのですね。ネットで検索したところ、長編すら何作も残っているようで、未読の既刊ともどもいずれ読みたいものだと思います。
三年前に突飛な理屈で別れた妻の影を見る「指飾り」。
地方駅で不審な挙動を見せる女と、彼女が指名手配書を見ていたその日の晩に時効となる殺人犯、そして彼女らに関わることになった刑事を描く「無人駅」。
互いの夫の交換殺人が奇妙な結末に至る「蘭が枯れるまで」。
悪夢が意外な形で収束する「冬薔薇」。
妙な噂が立ちがちな上司と通り魔事件が絡む「風の誤算」。
少女の経験するいじめと、彼女の母が幼い時に遭遇した父親の死亡事件が不思議な交錯を見せる「白雨」。
同僚駅員との不倫旅行がおかしな切符盗難をもたらす「さい涯てまで」。
八人の子がいる一家に、家族が全員いるのに誘拐電話がかかってくる「小さな異邦人」。
短編ながらどんでん返しを秘めた作品が実に多く、期待通りにとても楽しめました。
タイムリミットもありサスペンスフルな「無人駅」と、どこからこんな取り合わせとあの真相を思いついたのかと言いたくなる「白雨」が忘れがたいですが、一番好きなのは作者最後の短編という表題作です。「夜よ鼠たちのために」などで見られた、既成概念の拡大や転倒がこの作品でも用いられていて、被害者の見当たらない誘拐事件を鮮やかに成立させています。連城作品のイメージをいい意味で裏切る(過去にも時々こうした作品はありましたが)結末であったのも、うれしい誤算でした。
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どの話もひとひねり効いていて、でも厭みもなくて、さすが上手い。
これ以上もう読めないのは非常に残念です。
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小さなさざ波に巻き込まれ、それがいつしか大きな渦に呑みこまれて行く男女のねじれた愛憎劇が中心。艶のある文章と内面をえぐる心理描写のツイスト技で、読者を連城ワールドへ引きずり込む手腕はさすがの一言。短編だと大掛かりな仕掛けは期待できないけれど、その分旨み凝縮でキレがいい。
表題作の誘拐ミステリには驚かされた。「子供を誘拐した」というありふれた文句の活かし方が素晴らしい。結果的には強引な印象を受けても、プロセスの運び方と、そこに撒かれた伏線のレベルが高いから、完成度で納得させられる。
「花葬シリーズ」を思わせる『白雨』も秀逸。日本語に対する感覚が鈍っていきそうなので、定期的に読んでおきたい作家です。ご冥福をお祈りします。
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八人の子供がいる家庭への脅迫電話。「子供の命は預かった」。だが家には子供全員が揃っており……。
単行本未収録の作品を集めた短篇集。連城三紀彦ならではの、繊細な筆致と騙しの技巧との両立が素晴らしい。お気に入りは表題作と「蘭が枯れるまで」かな。
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ミステリ短編集。しっとりとした雰囲気の作品から、ややコミカルな読み口の作品までバラエティ豊かです。
お気に入りは「冬薔薇」。まさしく迷宮に迷い込んだかのようなぐるぐる感がたまりません。その中で揺れ動く主人公の危うさもすごく好みだし、ラストの哀しさも印象的でした。
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昨年亡くなった連城三紀彦さんの最後の短篇集。特に好きな作家さんというわけではなかったけれど、読めば必ず満足させてくれるところが、まさにプロであったと思う。これは表題作が一番印象的だ。鮮やかにだまされる快感がある。もう読めないのだな。とても残念だ。合掌。
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しっとりと情緒のある描写と、妖艶な美しさのあるミステリー色を帯びた独特の世界に魅了され、デビュー作からずっと読み続けていた。が、残念なことに、本作が遺作となってしまった。
トリッキーな作品が多いが、文学としても十分味わい深く、大人が楽しめる作家だった。
本作は短編集だが、どれもが読んでいる途中で足元を掬われ、くらりとめまいがする感じ。ラストの表題作だけがコメディ調でカラーが異なる。表紙の絵も違和感があり、できれば連城氏のカラーである情念の世界で締めくくってほしかった…。
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「小さな異邦人」連城三紀彦◆子供8人と母親の9人家族。そこへ、子供を誘拐したと電話が入った。しかし子供は8人揃っていて…?不可解な誘拐事件を描く、最後の短編である表題作ほか7編。連城さんの文章は儚げでつややかで、とても雰囲気があります。なんとなく、雨に濡れる花のイメージです。
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どこかの書評で「名文!」と書いてあり、なんとなく興味を持って読んでみたが、ごめんなさい、やっぱりタイプじゃない。なんとなく時代錯誤感もあるし、文章も凝ってると思うのだけれども心に響かないというかわざとらしいというか。がんばって読んでいたがキツくなり、2編ほど抜かしてしまった。最後の、表題作が一番よかった。読んだことを忘れないように書いておく。
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連城三紀彦先生短篇集初めて読みました。、自分がまだまだなのか、あまり理解できなかった。「小さな異邦人」は面白かったです。
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8人の子供と母親からなる家族へかかってきた1本の脅迫電話。「子供の命は預かった、3千万円を用意しろ」だが、家には子供全員が揃っていた!?生涯最後の短篇小説にして、なお誘拐ミステリーの新境地を開く表題作など全8篇。
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表題作のほか、「指飾り」 「無人駅」 「蘭が枯れるまで」 「冬薔薇」 「風の誤算」 「白雨」 「さい涯てまで」
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男女の愛の行方の哀しくも切ない物語たちであるが、なによりの印象は女性の強さである。どの物語でも、犯人であったり主役で会ったりする女性の芯の強さが際立っている。それは愛ゆえなのかもしれない。その辺りを丁寧に繊細に描きつつ、ぞくぞくする企みをそっと隠して、最後の最後に明かして見せる巧さは見事である。重たい曇り空が似合う雰囲気の一冊である。
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2013年10月に惜しまれつつ亡くなった著者最後の短編集。抒情性豊かな物語と、予想もつかない結末の両方が楽しめます。
強盗殺人犯の情報を知る怪しい女と刑事のスリリングな駆け引きが楽しめる【無人駅】、交換殺人という使い古されたガジェットをアレンジし意外な結末に結びつけた【蘭が枯れるまで】、夢か現実か分からない状況で同じようなことが繰り返される【冬薔薇】などが印象的でしたが、ベストは表題作の【小さな異邦人】。誰も誘拐されていないのに脅迫電話が入るという謎の不可解さが魅力的ですし、「子供を誘拐した」という定番の一言が、意外過ぎる真相に結びつくプロットはお見事というしかありません。誘拐ミステリーのオールタイムベスト級だと思います。
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幻想的ながら本格ミステリで他に類を見ない作家であり、早い死が惜しい。この短編集も「蘭が枯れるまで」「冬薔薇」などに持ち味が発揮されている。7.0
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無理のある設定や内容が多い短編集。おもしろさでは表題作が頭一つ抜けていて、もしこれが最後になかったらちょっとがっかり。ただ表題作自体もネタがネタなこととこれはないだろってものが多すぎてしっかり読むひとには受け入れられないかも。さらっと読んで「おもしろかったー」って感じてからだんだん「そういえばあれおかしくないか?そもそもなんであんな?」となってきた。白雨はまさにそれ。想像するとドラマチックだが違和感は拭えない。気に入ったのは『さい涯てまで』。ほぼ全編に言えることだが恋愛とミステリが混じっていてもごちゃっとしたうるささと無駄な明るさがないところがいい。
固くてさらっとは読みづらいので短編で有難かったが、長編の方が合いそうな文体だった。
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【恋愛小説の名手にしてミステリーの鬼才から最後の贈り物】八人の子供がいる家庭へ脅迫電話。「子供の命は預かった」。だが家には子供全員が揃っていた。誘拐されたのは誰? 表題作など八篇。