紙の本
「入門」と「新書」という二枚の化けの皮を被った哲学書
2018/05/15 22:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:病身の孤独な読者 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、はっきり言って決して哲学の「入門書」ではない。どちらかというと、ラッセルの書籍に付されている「哲学入門」と同様の意味での「入門」であるのかもしれない。扱う内容は、「日常生活のなぜ」に答えるようなものばかりである。もちろん哲学である限りそれなりの内容は覚悟しておく方が良い。中にはスワンプマンのように有名な思考実験などが出てくるが、重要なのは論理の流れを追うことである。「哲学をするとはどのようなことか」を戸田山氏自らが実践することで哲学の神髄を述べているという点では、まさに「哲学入門」なのかもしれない。
電子書籍
自由意識とは
2020/07/06 09:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
自由意識や意味などを物質世界でどう位置付けられるのかを書いた本。現在の哲学ってこんなことやってるんだと勉強になった
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「ありそうでなさそうでやっぱりあるもの」を物しかない世界に書き込むこと。これが哲学の役割だという。
意味・表象・自由・道徳・機能・情報など、なかなか面白いテーマのものがばかり。しかもそれらは一貫している。
進化論・生物学的に全ては解決されうるのではないかという危惧を覚えた。
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「意味」「機能」「目的」「道徳」…凡そ物理的世界から切り離され、「いわゆる哲学」の領分とみなされがちなこれらの抽象概念を、人間という特定の観察者の視点を排し、物理的・科学的に記述しようとする試み。各章の構成は「問題提起→次の章で検討→新たな問題出現」、とシンプルな直線構造で読み進めやすいが、何せ各章の内容がそれだけで独立した新書が一冊書けるんじゃないかと思えるほどに濃密で、安易な読み飛ばしを阻んでいる。議論が展開されるフィールドも記号論・情報論・進化論・認知論とまさに多岐にわたり、思わず見当識を失いそうになるが、程よい間隔で総括が挟み込まれ、読み進めるうちに自分のロケーションをすぐに取り戻せるよう配慮されている。読み易いのは筆者の軽妙な語り口の所為だけでは決してない。
基本の道筋としては第2章に典型的にみられるように、それぞれの概念の成立条件を検討(概念分析)するのではなく、「より利用度の高い知識を入手するには既存の概念の枠組みをどう改訂すればよいか(理論的定義)」を主眼として議論が進んでゆく。このところは素人目にご都合主義と思えなくもないが、新たな枠組みの元でその概念が唯物的世界にキレイにはめ込まれた時の美しさと爽快感には抗し難いものを感じた。
そして長い推論の果てに終章で投げつけられる「すべての人生に価値があるわけではない」「人生に意味などなくともよい」などの刺激的な言葉の数々。表面上否定的な色彩をまとうこれらのシニカルな言説も、この本を読み終えた後ならすんなりと、しかも驚くほどポジティブかつ挑発的な響きを伴いながら胸に浸み込んでくるはずだ。
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哲学の基本を押さえたいと思い購入しました。
「哲学入門」というタイトルを目にすると、有名な哲学者の主要な考え方を説明してくれると期待してしまいますが、全然違います。
逆に少しマイナーな人の論が多く紹介されている。
まあ、それはそれでおもしろいのですが、正直説明がちょっとわかりづらいかな。
大学の先生の講義を延々のんびり聞いてるような気分になる本です。
つまり、あんまり情報がまとまってないというか、気分でどんどん話を進めている印象を受けます。
で、さすがにわかりづらいので、指摘を受けた部分に補足説明を加えた、そんなつぎはぎを感じさせます。
扱っているテーマ自体は興味深いのですが、最初から抽象的に攻めすぎというか、もうちょっと興味を引き出す実例の出し方がありそうかなと思います。
入門というだけあって、説明自体はとても丁寧だと思うので、量を気にせずちゃんと読めば、それなりに理解はできます。
ただ正直、根気が必要ではある。
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以前から哲学には興味があり,気が向いたときにそれ関連の本を読んだりしてましたが,もちろん到底理解できるはずもありません。
で,再び入門編に挑戦。今回は,「ありそうでなさそうでやっぱりあるもの」を追求していくという内容。
例えば,「意味」って有体物ではないので,「ありそうでなさそう」でも「やっぱりあるもの」なのですが,これをどう解釈すればそうなるのかってなことが書かれてます。
すごく読みやすく書かれており,理解できそうなところもあれば,さっぱり?のところもあり。
でも,頭の体操にはなりました。
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哲学書というと堅くて、他の哲学者の理論を延々と説明する事が多いイメージがありますが、この本は通して口語で時に冗談めいた例えがあり、すっと理解できることが多かったです。無味乾燥で抽象的な言葉から、意味や自由、責任、道徳などが語られていてカッケーと思いました。
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第3章 情報
ドレツキが結局、認識論のために自然的情報を導入しているのなら、自然的情報はやっぱりdecoderありきの情報だという気がするんだけど。因果の網目の中にある、特定の特徴に「情報」という名前をつける。もちろん、客観的な因果連鎖のなかの、客観的な特徴を「情報」としているのだから、その意味では自然的情報は客観的だが。「情報」という語を使わなくても良いのでは? という気がする。好みの問題なのか?
第6章 自由
過去の経験から学び、未来の行動を修正できる能力が自由だとする。そして、その自由には決定論的な物理システムだからこそ持ちうるとしている。だが、決定論的まで言わなくても、例えば帰納法が成り立つ程度に規則的な世界、くらいでいいのでは? という気がする。まあ、この議論は決定論か量子力学的ランダム性か、という二項対立で語られることが多いので、それなら決定論に軍配がもちろん上がるんだけど。
第7章 道徳
自由と決定論の両立論。narrativeが自己を作る。そして、自己と呼ばれる組織化を経由する行為が、責任ある自由な行為である。
だが、戸田山は両立主義者デネットの立場は「人間的自由は、役に立つフィクション」という考えに極めて近くなっている、と指摘する。そして、非両立論、中でもハード決定論を採ると我々の道徳はどうなるか、という義論を紹介する。非両立論の元では、行為に対する非難や賞賛が不可能になるため、むしろ道徳の純粋さを高めることになる、というスミランスキの議論。自由意思なき世界は必ずしもディストピアにならない。責任をとらせるという概念はないが、市民的自由、すなわち他者による不当なコントロール受けないという意味での自由の概念は残りうるからだ。
むすび
ネーゲルの「人生の無意味さこそ、最も人間的なものの一つ」という考え。
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すごい。労作。著者の意気込みがガシガシ伝わってくる内容。
「哲学入門」と聞いて普通にイメージする哲学史の振り返りではなく、著者自身の問題意識を一歩一歩、深く深く掘り下げたもの。
だいたい10頁に1か所くらいは「なるほど!そういう考えがあるか!」とゆかいな知的興奮に包まれる。
惜しむらくは、文章が多すぎたせいか、加えて、僕の頭の限界のせいか、全体像が完全に把握できたとは言えないこと。部分的にはかなり面白い議論があることは理解できたんだけど。
いつかまた、再読してみたいな。
そのときは全部理解して、星が一つ増えるかもしれない。
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戸田山流哲学入門。唯物論から哲学の役割を求めるとこういうことになるのかなぁ。。。正直,問いに共感できないのでよく分かりませんでした。
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須原屋書店の「浦和高校課題図書」コーナーにあったので購入。このコーナー、いいんだよね。何冊か買ってるけど、本格的でしかも読みやすい。その中では、こいつはなかなかハードだったかな笑。
さてさて、本の中身だけど、第六章の「自由」に焦点を当てたい。みんな自分は、多かれ少なかれ、自由意志にもとづいて行動していると思っているはずだ。スーパーで「今日の晩ご飯はサンマにしようかサバにしようか」迷ったあげく、結局サバを選択した時、ボクには選ぶ「自由」があったというわけ。なるほど、「自由」の存在に、疑いはなさそうだ。
でも、ちょと待ってほしい。人間は所詮、原子の集合体でできているわけで、物理法則に従っているはず(量子力学の話はめんどうなので扱いません、本文を読んでね)。ということは、ボクがサバを選んだのは、ただ物理法則に従っただけ、とも捉えられるわけ。そうしたら、「自由意志」なんてないじゃない。物事は、決定論的に決まって行く。
「世の中に偶然はない あるのは必然だけ」これは、『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』の侑子さんのセリフですが、読んでた当時、子どもながらに違和感がありました(でも、この漫画はすげー好き)。そのくせツバサでは「選択」とか「意志」を大事にするんです。起こることが必然なら選択は必要じゃないんじゃ?全てが必然なら選択するのも必然だし、それじゃあその選択に自由意志が介在する余地があるのか…なんてね。
本書では、決定論と自由は(自由の定義次第では)両立しうる、と論を展開する。①理由によって行為する、②行為に先立って行為を検討することができる、③経験に基づいて自分を再プログラムできる、という自由を「自由」とすれば、決定論的な物理システムにおいても持ちうる。この「自由」は、我々が望ましいと受け入れることのできる自由だろう。と。
ふむふむ。決定論と自由。なかなか難しいもんだいだけれども、昔から気になっていた侑子さんのセリフは、もう少し真面目に考えてみる価値がありそうです。(結局どっちのレビューかわからなくなってしまった。すみませんorz)
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戸田山さんの本,三冊目.二冊目が哲学の味が濃くて苦手だったので,もう読むまいと思っていたら,あの須藤靖さんが読売に好意的な書評を書かれていたので購入.2014年3月初版で私の持っているのは2014年6月の第五刷.すごい売れ方.ブクログでも今日の時点で584人が登録.けれどレビューは私のが25個目.読み通した人少ないのかな.
かくいう私も,新書とは思えない厚さに引き気味.実際に読み始めるまで1年以上本棚に飾ってあったが,いよいよ夏休みの勢いを借りて読むことにした.
著者は自分の信念にしたがって「ありそでなさそでやっぱりあるもの」,例えば「意味」「機能」「情報」などの概念を「モノだけの世界観に描きこむこと」を目標にすえる.モノだけの世界というのは科学の成果を前提とした唯物論の世界のこと.(そこまで意地になって頑張らなくても,というのが私の感想.哲学者ってたいへん).
最近の人工知能の本を読んでいると,機械が知能を持つというのはどういうことかとか,そもそも知識というものを機械の上でどう実現していくかなんていう話になるので,それと非常に近い話で前半は問題意識を共有できてふむふむという感じだったが,「目的」の章は緻密な展開ゆえか,なかなか読むのが辛かった.「目的手段推論はそれ自体が持つ適応的利点のゆえに選択された」なんていう哲学の難解さそのものみたいな文章も,著者の文章の中では言わんとしていることはわかるというレベルにはなるから,その力量はすごいんだが,読んだ端から忘れてしまうのでほとんど読んだ意味がない.
そのあとの自由,道徳はまだ少し関心は持てるが,上のような哲学的文章が多くなってこれまた大変.それでも薬物で道徳性をもたせたり,「自由意志なんて別になくてもいいよ」なんていうのは過激そうに見えて真実を含んでいるのが面白い.最後の「人生の意味」の章は著者がテレて「書きにくい」なんて言ってるが,一番ストレートで主張がわかりやすい.漢字の量もずいぶん違う.
ちょっと疑問というか,違和感を持ったのは,著者の引用は欧米の哲学者たちのものがほとんどなのだけど,自由とか道徳とかいうのは国家,宗教,人種なんかによってずいぶん概念そのもののとらえ方が違うような気がするが,そういうのってこういう議論では無視していいのかな.
そうそう,最後に人名の目次が欲しい.どこで誰が登場したのかわからなくなってしまう.(私の頭の整理が悪いからでしょう).
概して,入門というにはハードで,私の哲学コンプレックスが癒されたとはとてもいえない.
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最近流行りの「認知科学の哲学」入門といえる。新書のわりには分厚いが、内容が盛りだくさんすぎて記述が荒いところもある。同じ著者による『知識の哲学』と併せて読むと互いの足りないところが補完されていい気がする。
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本作は科学的な唯物論を前提としつつ「意味」や「道徳」などこれまで哲学専門とされてきた「存在しなさそうでしてるもの」の問題について哲学的観点から考察する骨太な哲学入門書だ。
当たり前だけど哲学は死ぬほど難しい。実証的ではない故に答えがひとつに定まらないからだ。完璧に理解とか正直ムリゲー。
ただ、「哲学は問い方が大事」という著者の基本姿勢は普段の問題解決においても非常に重要であるように思う。つまり事象を様々な観点から分解し、極限まで具体化して問う。そして出た答えもこれまた極限まで抽象化、一般化する。このような思想家の高度な思考プロセスが疑似体験できるため学びはたくさんある。論理的思考力を鍛えたい方には非常におすすめの本。
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最後まで読み終えて、感無量だ。
まず哲学観が変わった。西欧とか東洋とかそういう伝統を踏まえた議論ではなくて、神が死に、ニーチェも死んだ現代のための哲学だ。「にもかかわらず」「だからこそ」考える営みだ。
次に、力強い解放感を感じた。究極の目的なんてないんだと著者は説得力を持って結論する。破壊力満点だ。なにに今までとらわれてきたのだろう。専門的な問題意識だけではなく、ごくごく普通の人間が囚われている問題意識=悩みの虚構性を見破っている。
最後に、進化論を始めとする科学的妥当性が無視できない時代に、著者の言う概念工学としての哲学的思考スタイルは底知れぬ意義を持つだろう。