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自閉症スペクトラムでサヴァン症候群、共感覚をもつ著者は、作家で言語学者。2004年に円周率の暗唱でヨーロッパ記録を樹立したらしいが、タイトルにあるような数学とは、あまり関係が無さそうだし、本書も数学を扱う本ではない。数学的な発想を取り扱う本とあるが、やや誤解を誘う。日々の雑感を綴るエッセイである。ただ、数字の特性が感性に染み込んでいて、所謂、エッセイとは趣きが異なる。その点が面白い。
循環小数とは、ある数をある特定の素数で割ると、小数点以下の数列が果てしなく繰り返されていく数字のパターン。例えば1を7で割ると0.14285714285714285714…となり、142857と言う最小循環数のパターンが永遠に循環していく。次に、この142857 に7より小さな数をかけるとどうなるか。同じ6つの数字の並び方が変わる。2をかけると285714、3をかけると428571のように。
これを6行6連体、セスティーナとして詩に取り入れる。韻を踏むと言うような修辞的技巧とはまた違う。数字のパターンに当てはまる単語を用いて循環するリズムを演出する。日本における俳句も575の素数がリズム感を作っている。何故、その数字なのかはわかっていない。数学と芸術が共有する美的感覚の分野なのだろう。これは、昆虫の世界にもこうした数学の美的感覚が見られる事から、非常に興味深いと感じた点だ。
物理のように気難しく現象を抑えずとも、数字の組み合わせだけで神秘に近づける気がする。猛暑の夏、ぼんやりと数字と世界の仕組みを想像し、うっとりしクラっとする。