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紙の本
専門書だけど一般の人にも読みやすい。
2016/01/08 01:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:朝に道を聞かば夕に死すとも。かなり。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
医療政策って、わかんないんだよなぁって人におススメな本です。政権交代してもそんなに医療政策って変わってなくて、診療報酬とか介護報酬とかも微増・微減の繰り返しです。
だがしっかーし!逆に考えたらですよ。変化がそんなにないから仕入れた知識が陳腐化しにくいんですよ。
総理ご自身は家族や地域共同体を強くしたいと考えています。
この本は時系列で書かれているのですが、消費税引き上げの是非を問う際、本来の社会保障をどうしようか?ってとこじゃなくて世論調査の結果で最も取り組むべき課題の第1位が景気雇用対策(55.3%)だったんです。社会保障は32.8%。
「年寄りよりも今の自分たちの生活をなんとかしてくれ」ってトコかしら?安くするためにジェネリック医薬品の比率を上げることに関しては後発品拡大において強制をしてしまうと後発品に差別的イメージがついてしまうのだそうです。
電子カルテとかの医療ICT化の医療費削減効果を厳密に実証した研究はなく「医療費を抑制すると広く信じられているが、その主張の根拠はまだ決定的ではない」と。
アベノミクスの金融政策はフリードマン、財政出動はケインズ、成長戦略はシュンペーターの考えをコラボさせた政策で、慧眼だったのは予防によって医療費を削減できる・できない分野のバラつきがあって、例えば禁煙は短期間に医療費を減らすけど、余命を延長する結果、生涯(累積)医療費が増えるんだとか。
アメリカの大型新薬の薬価は日本より1.78倍~2.33倍高く、もともと日本のコンセンサスは金持ちも貧乏人も公平に治療することを求めていて、混合診療の支持は1、2割であり、医師会などの医療団体が強固に反対していて、2011年最高裁が混合診療原則禁止は適法と判決を下します。
日本の民間保険会社は保険外併用療養費制度の拡大は望んでるけど、混合診療の全面解禁は否定的で、これをしちゃうと2階建て構造になって民間保険の責任分野が拡大するから保険料が上がってかえって顧客が減ります。財務省も21世紀に入って混合診療解禁を言わなくなったのは、先進医療市場って2012年でも146億にすぎず、国民医療費の0.04%にすぎないし、混合診療全面解禁で「医療費が上がる」ってことに財務省も気づいているからあんまり言わないわけです。
地域包括ケアシステムは、大都市近郊の高齢者ケアインフラが整っていないから戦略のターゲットは“都市”とその近郊なのですが、二木さんは死亡急増時代でも今後の死亡場所の中心は病院だし、介護施設・サ高住とかはそれを補完する形になると予測しています。
東京都区部の自宅死亡増加の4割は「孤独死」の増加であって、東京のみならず他の大都市にも共通する現象で、在宅ケアの普及の寄与は割り引いて考えないといけないと警鐘を鳴らします。国の考えとしては看取りのできるサ高住・有料老人ホームは増えてほしいけど、粗悪なものが急増するとまずいので非営利でケアの質が担保されやすい医療機関を母体にするものを増やしたい考えです。ただ「入所施設」なので国交省と厚労省の間に温度差があり、国交省はけっこう「前のめり」です。
厚労省の考えとして海外の社会保障の紹介・分析はヨーロッパ中心で、アメリカにはごくわずかしか触れていません。二木さんは厚労省はヨーロッパ型社会保障を念頭において社会保障の機能強化を目指しているという「強い意志」を感じているようです。
初版からもうすぐ2年になろうとしていますが、あまり風化を感じない。医療行政はとっつきにくいって一般の人には良書と推薦できます。
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