投稿元:
レビューを見る
著者の本は初めて。古代史は好きなのだが、決定的な証拠がないのをいいことに、出鱈目を云う素人が多い。著者もそういう人じゃないかと思い敬遠していた。
手に取ってみると、読み易い。自身が奈良を訪ねていくときの経路や立ち寄る店の話などあり、平易な語り口が好ましい。本の最初に柿の葉寿司の話があり、つい最近谷崎潤一郎「陰翳礼賛」で柿の葉寿司の話を読んだばかりで、オッと驚く。
天智と天武は兄弟ではないという学説が世に出てから、僕は天智が正統、天武は簒奪者と思っていた。葛城山を本拠にし、武内宿禰を始祖とする葛城氏、平郡氏、賀茂氏、蘇我氏+天武vs藤原氏+天智という対抗軸を考えるとまた違った歴史が現れる。中臣鎌足の正体が、百済の王子、豊璋としている。漫画で連載されている「天智と天武」もこの観点で書かれている。論拠が弱いと思うが、良く知られた説なのだろうか。
井沢元彦「逆説の日本史」によれば、持統天皇のおくり名は天武の系統の中に天智の血を絶やすまいとしたということになるが、それは藤原氏側から見た史観。葛城系から見たら許しがたい歴史。そして藤原氏の系統にありながら藤原氏のやり方に逆らったのが、聖武天皇、光明子、孝謙天皇という論考。こんな説は初めてで、面白い。当麻寺の中将姫伝説と光明子との相関は、なかなかの説得力。
結局、桓武天皇で系統は天智系に戻ってしまう。藤原氏歴代の陰謀で歴史は捻じ曲げられたということか。
最後は三輪山に纏わる論考。僕は箸墓は卑弥呼の墓ではないと思っている。筆者は箸墓よりも纏向遺跡に注目。纏向に東海、出雲、吉備の諸国の連合体が成立したとの論考。そして三輪山の頂上に祀られる日向御子が神武ではないかとの説。恐ろしい霊力を持つ神の御子、神武を三輪山にまつったのではとされる。そう考えると、神武と同一視される崇神は祟られた天皇と思われているが、祟る神だったのではと、想像力を逞しくした。
大胆な説もあるが、総じて納得。面白かった。この本を頼りに飛鳥をブラブラしてみようかと思う。
それから、続きの出雲編も読まねば。