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アカデミアを断念し,医転して現在は病理医をしている著者が,自分の経験と科学への関心・期待に基づいてバイオ分野での研究不正の背景に切り込んでゆく本。
研究環境にまつわる負の側面ばかりが強調されてしまっているので,これを読んで,科学なんてまるでダメじゃないかと感じてしまうかも知れない。教授の権力濫用,ピペド問題,研究者教育の不徹底,ポストの不足,過度な競争,研究費の分取り合戦,インパクトファクター至上主義,ゲストオーサーシップ…。こういうシステムが,捏造や剽窃の温床になってしまっていて,ディオバン問題やSTAP細胞問題は氷山の一角にすぎないという。
研究不正問題に関しては,春に下のような感想を抱いたのだけど,かなりナイーブだったなと感じている。
"門外漢ですが,自然科学の研究者にはただ誠実であってほしいと願う者です。その姿勢が完全に欠落している人間が,なぜあんなポストを得て,周りも皆騙されてしまったのか,それだけが分かりません。市民の応援とかどうでもいい。業界の自浄努力を願ってます"
難題であることは間違いないが,今度のことをきっかけに,バイオ研究の構造的な問題にメスを入れて少しでも改善していって欲しい。
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2014 8/9読了。ご本人からいただいた本。
あの『博士漂流時代』を書かれた榎木先生の最新刊。
STAP細胞問題で注目が集まるバイオ業界を中心に、研究不正がなぜ起こるのか、その背景にある構造を丁寧に、でも実感をこめて解説していく本。
教授への権力集中、労働集約的でやればやった分だけ成果につながりうる研究スタイル、過当競争とでもよその業界には出ていけないスキルセット、その結果としての「ピペド」状態・・・。
「そうなんだよ、だから研究不正だけにいくら対策投じても仕方ない構造があるんだよ!」とか思ってた(事実、研究公正局のある米国でも不正減の効果には疑問があるそうだ)ところを突いてくれている。
そのことがちゃんと世に広まるのかは・・・政策立案等でも意見聞かれるのは主に・・・とか考えると、うん、まあ、うん・・・。
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【STAP細胞騒動の背景を解き明かす】STAP細胞事件は氷山の一角に過ぎない。バイオ研究の現場で何が起きているのか、元研究者で病理医の著者が背景を解き明かす。
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IPS細胞、STAP細胞と話題に事欠かない生命科学。その裏側で過剰な予算獲得競争や、研究不正なども問題となっています。生命科学研究の現状の一面、それが研究不正を煽ってしまう構造を、かつて同分野の研究者であった著者の経験に基づいて書かれています。
予算獲得・ポスト獲得への過剰な競争が研究不正の動機となり得ること、そして研究不正について「責任ある研究活動と捏造・改ざんとの間は連続的で、その中間的な状況があり明確に線引きできない」ためにデータを分かりやすく加工するだけの作業が次第にエスカレートして遂にデータの捏造を産んでしまう事を著者は指摘しています。
任期が数年という研究職の雇用形態が主流となり、よりポストへの執着を生む現状など、研究不正への誘惑を駆り立ててしまう構造的な問題点も挙げています。
著者が指摘している点を「全くそのとおりだ」と思うか、「でも不正をせずに研究している人もいる以上、甘えではないか」と思うかは読者によって判断が分かれるのではないかと思います。ただSTAP細胞の件が決してレアケースではなく、同じような問題が他にも多々あることは間違いなく、小保方氏だけをスケープゴートにするような論調は慎むべきだと思います。
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ついに死者まで出てしまったオボガタSTAP事件。しかし、コピペとつじつま合わせが当たり前の論文や、共同著者論文とは誰も全体の責任を持たない論文であること、博士号資格がろくなチェックを受けずに与えられていたことなど、日本バイオ研究界の闇を明らかにしてくれたという点では評価されるべきかもしれない。
本書はオボガタ問題以前から、研究者たちの絶対的な上下関係や予算分捕り重視の姿勢を問題視していた著者の集大成。結局、バイオ研究というのは、公的予算をどうやって手にするかにかかっており、ルックスの良いリケジョ、ピンクの研究室など、世間へのわかりやすいアピールが研究そのものよりも大事なのだ。逆に言えば、あまりにアピールが過ぎる研究発表はちょっと疑ってかかるべきだ。
以前、民主党政権のスパコン研究の事業仕分けで「2位じゃダメなんですか」という言葉が批判された。しかし、オボガタ問題は急いで1位を目指したための結果だったような気がする。
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あらすじを読むと、いまはやりの「STAP細胞事件」が特別なことと言うよりは、よくあることであると分かる。
大学や研究機関の閉鎖的な仕組みのなかで、それぞれが最少の労力で利益を得るために起きたのかな、と。
象牙の塔はガラス張りにしないといけないんだろうなぁ。
あー。
あと、銀行が不正を防ぐため2年で異動となるように、研究室に対しても何らかの制約を設けるべきかと。
それから(私も一部あるんだろうけど)、バブル以前の高度成長期にモノを得た人、あるいは得ると思ってしまった人はどうしてもそれにしがみつく。しかしながら、これからの社会的に分け合うというか、思っていたよりも利益が少ないとしても、それでもあきらめて生きていくってのも大事かなぁと。
たぶんバブル以前の人は、そこまで死なない。
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医者の生態について書かれた部分はまったく同感。基礎研究については、膨大な時間と金のムダが必要だと思ってるんだけど、それを許さない感じは昔っからあるかなあ。あとは学問の世界と企業をもっと活発に行き来する風土をつくると、一つの研究分野で失敗しても、才能ある研究者が行き場を失うことはないような気がしている。バイオ研究者だけに限った話じゃないけど。
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ブラック企業化する大学の研究室。程度は違えど、どこの研究室でも起こっているだろうし、起こって当たり前の環境だ。教授たちや学生たち一人一人が気を付けて、どうにかなることではないので、制度から変えなきゃな。
研究界、特に生物学界、にこれから入っていこうという人は現状を知っておくためにも読んでおくべき本である。
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筆者はバイオ系博士課程から、医学部に転向した現在医者である。バイオ系の大学院生、ポスドクを取り巻く就職状況や労働状況を分析した。年収や就職先、就職率など統計的なデータを用いており、客観的な分析を行っているが、ところどころに筆者の呪詛が。。。
完全に距離をおいた分析の書として熟読するより、筆者の呪詛が含め楽しむつもりで読む本。
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研究不正多発の背景には、成果への厳しい要求、激しい競争がある。院生はまともな教育を受けず、労働力として酷使される。科学版非正規雇用労働者ポスドク。ポストは少なく、数学や物理が苦手で他分野の職につけない。
今の時代、仕事として普通に活躍できるところが、たくさんあるように思うのですが。
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捏造シリーズの最後一冊。
捏造だけでなく、社会全体のポスドク問題を捉えていて私自身は非常に納得できる一冊であった。
女性研究者が厳しいというのも納得できた。
研究者の週あたりの勤務時間は80から100時間も15パーセントはいる、うんうんと頷いてしまう。
そして、休みの間も研究について考えていないといけない。休みはあってないようなものだ。
それでも、やらないという選択肢は見つからず、休みなのに実験のために出勤する本日。
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現在理系の中でもドル箱産業になりつつある生命科学への警鐘を鳴らす一冊。
実際に研究職に携わっていただけに非常に説得力があった。
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生命科学研究を取り巻く「構造の歪み」、すなわちお金のために成果が求められ、そのため教授がポスドクや院生を奴隷のように働かせ、誤った自己流で研究を行う研究者が生まれてしまっていることを明らかにしている。現状の問題の指摘だけではなく、「興味先行の研究を取り戻すこと」などの解決策も提示していて、非常に共感できた。