アメリカ人作家ポーター氏の傑作を、同作品を溺愛した村岡花子氏の名訳で読ませてくれる一冊です!
2020/06/20 10:15
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、アメリカ人作家のG.ポーター氏の作品です。河出文庫からは上下2巻で刊行されており、同書はその下巻です。同書では、上巻に引き続き、母親に愛されずに育った少女エルノラは、リンパロストの森で珍しい昆虫を収集し、それを売ることで何とか学費を稼ぎ、優秀な成績で高等学校を卒業し、美しい女性に成長していきます。そして、夫を失ってから、娘への愛情にようやく気づいた母親に見守られながら、大学を目指します。ある日、療養のためにリンバロストの森を訪れた名家の青年フィリップと出あい、エルノラはその青年に心惹かれます。しかし、彼にはすでに許嫁がいた。一体、この恋は、エルノラはどうなっていくのでしょうか?同書は、この作品を誰よりも愛したと言われる村岡花子氏による名訳です。
魅力的なエディス
2017/07/25 22:42
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
下巻に別タイトルを付けるとすれば「エルノラの恋」。許婚のいる青年フィリップとの恋模様が展開する。
下巻で最も魅力的な登場人物は、フィリップの婚約者エディスだ。美しく高慢で、激情的で、故に大切なものを失ってしまう。人生で初めての挫折を経験する彼女の凄まじい葛藤は見応えがある。終盤では、むしろ彼女がヒロインの座を占めている。
エディスに比べたら、フィリップは冷淡で移り気な男にしか見えない。自分の対面だけにこだわり、婚約発表の舞踏会で置き去りにされた許婚の心を思い遣りもしない。エディスがあんな挙にでたのも深く傷ついたからだということに思い至らないのだ。周囲がエディスをこぞって非難するのも理不尽に思えた。
自分の弱点を苦しみながら克服していくエディスと、彼女を欠点も含めて深く愛する青年ハート・ヘンダソンにこそ祝福を送りたい。
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母娘の確執、物語の展開についていけない部分も、自然への造詣の深さ、当時の生活描写の細やかさは素晴らしく、特筆すべきはエルノラのお弁当!
描写が優れているだけで物語はどうでもいいというか、納得できなくてもまあいいやって思ってしまえるからすごい。
下巻におけるエディスには同情を禁じ得ない。
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優秀な成績で高等学校を卒業し、美しく成長したエルノラは、ある日、リンバロストの森で出会った青年と恋に落ちる。だが、彼にはすでに許嫁がいた……。村岡花子の名訳復刊。解説=梨木香歩。
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(上下巻まとめて記す)
角川のマイディア文庫で学生時代に買ったものが手元にあるが、今回の河出書房文庫版はあとがきが梨木香歩さんだというので思わず入手。カバーイラストも梨木さんの作品でお馴染みの早川司寿乃さんのさわやかな装画。
20年前に読んで自然の恵みを活かして人生を切り開いていく主人公に感銘を受けておもしろかったという記憶だけはあったが、細かい筋は忘れていた。今回読みなおして、努力家で前向きで賢くやさしく美しい主人公の少女と対を成すような、ワケありで変わり者の母親の存在がひじょうに大きいと発見した。この母と娘の緊張感ある関係は身に覚えがあるというか普遍的な気がする。また主人公の成長を陰日向に見守ってきた善良な隣人夫婦と母親の価値観の対比も興味深いと思った。
前半の山場はそんな母と娘の和解で、後半の山場は許嫁のある好青年との関係をいかに丸くおさめるかだが、主人公が当時の倫理観と母親の心の傷に最大限気を遣って、賢さと慎み深さと誠意と犠牲的精神とで立ちまわり恋敵の再生と幸せさえ約束して大団円に終わるのを読みつつ、道ならぬ恋で苦しんだ村岡花子はこの物語をどんな気持ちで訳したのだろうと思いやらずにいられない。
脇役として登場する「そばかす」とエンジェルの物語のほうがちっとも思い出せず、光文社古典新訳文庫のほうに入ったという『そばかすの少年』(あるいは角川マイディア文庫の村岡訳が発掘できればそちら)を読みたくていてもたってもいられない気分。
キーアイテムのひとつとしてバイオリン(音楽)がでてくるというのはすっかり忘れていたが、「自然が先生」という文脈の中での使われかたはすてきだった。
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アンでもパレアナもそうだけど、ヒロインが美しく育ったら次はロマンス。
相手も非の打ちどころのないぼっちゃんです。
ただし、超わがままで美少女な婚約者がついてますけど。
結末はハッピーエンドというのは分かってるので、消化試合を見ているような感じ。
完全無欠なヒロインって微妙に面白くないときもあるのねということがよくわった小説でした。
欠点だらけのアンが熱狂的なファンがついたのわかります。
綺麗で賢くて心が美しく悪漢まで味方にしてしまう無邪気さ、欠けてるものは何もない。
当然、略奪になってしまうのですがそれだってヒロインが責められるところなんて全くないと来ている。上巻のオチを思い出すたび、かなりもやもやしました。
翻訳家の村岡花子さんはこの小説をとても愛していたそうですが、子供の頃あの展開読んでいて、『あれ』やっちゃったんだ……と顔がひきつりました。
たぶん、本人は乙女に気分が同化しているんでしょうけど……。
すくなくとも若人の恋愛について説教する資格はないです村岡さん、とあとがきでさらにもやもやしてしまった。
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懐かしい本、下巻。
上巻が“母と娘”物。
下巻は“恋愛物”
海外文学の恋愛物は、どうも私の肌には合わない。
ヒロインよりも、ライバルのエディスに同情してしまった。
生まれてこの方、自然に親しみ、生物学の知識を深め、なおかつ、母との人間関係に置いて苦しみの中で人間性を磨いてきたヒロイン。
20年あまりの年月をかけて磨かれてきた人間性は、ここに到って揺らぐことはない。
しかし、美貌にも生まれにも財産にも恵まれ、長年をかけて築いてきた女王様気質を覆すに至ったエディスの変化の方に、むしろ注目してしまった。
梨木香歩氏の解説も、とても良い。
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大学に行けなくなってしまったエルノラは博物学の教師となる。
あるとき授業のための標本採集にいつもの森に出かけるとフィリップという青年に出会い、恋に落ちる。
ここからは2人がゴールインする道のりが描かれる。
なんか訳した村岡花子の半生がきっと反映されているからだと思う。特に前半とか。
だから好きだったのかな。と勝手に思う。
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六月は夜蛾の誕生の季節。リンバロストの森で出会ったエルノラと青年フィリップにも恋の予感が…。
下巻では沼地に息づく植物や様々な鳥たちが生き生きと描かれている。採集される珍しい蛾には、ルーナ、リーガル(詩人の王)、 プロメシア、そしてあの黄色い帝王蛾。蛾は生まれてたった数日で死んでゆく。森の湿った空気を感じながら、生きものの"いのち"を思った。
コムストック夫人は、博物学の講師を受けたエルノラを手伝うようになる。
リンバロストの自然が娘への愛情を取り戻させたのだろうか。冷酷な母から賢明な母へと変わっていく過程に目が離せなくなった。
エルノラに惹かれていくフィリップには許嫁のエディスがいて…と、少女小説にはお決まりの恋のライバルが出てくる。
自分を見失うことなく判断ができて、エルノラは大人だなぁと思う。女性の逞しさ、生きていく力を感じられる物語だったが、なんと言ってもリンバロストの森が素晴らしい。著者の初めての小説『そばかすの少年』も是非読んでみたい。
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母からの愛情をほとんど受けられないで育ったエルノラは、町の高校に入学するが、進学に反対していた母は学費のことも教科書のことも教えてくれず、さえない通学服で初日から大恥をかいて帰ってくる。
最初からもう可哀想で、継母かと思ったし、訳したのが村岡花子だけにもしかして孤児?と疑ってしまった。
しかし、エルノラはこんな事でめげない。この後もたびたび苦難に襲われるが、見事に打ち勝つ。そして隣人であるウェスレイとマーガレット夫妻をはじめ、周りの人にエルノラを助けずにはいられない気にさせる。エルノラは意地悪な母に育てられたのに真っ直ぐで明るく生命力にあふれている。負けん気が強く誇り高い。それが母との共通点なだけに親子喧嘩は怖いくらい熾烈。赤毛のアンを彷彿とさせる。
だが、父が沼で溺死した原因を知った母は突然エルノラへの態度を改める。エルノラに協力する。本当は娘が可愛くて仕方なかったのだ。裁縫でも料理でもなんでも出来る人だった。そこへ登場するのが、病み上がりでもかっこいいフィリップ。エルノラとの共通点は蛾の収集。フィリップには婚約者がいることを知り、友人として接するエルノラ。やがて、別れの時がくる。お互いの思いに気づかないまま。
「そばかすの少年」に出てくる名前がいくつも出てくるので、出来たらそちらを先に読むと、より楽しめます。
鳥のおばさんが、自分の境遇と似ているエルノラに、この先、何者になるかは自分次第だから努力を惜しまないで、と伝えるところが良かった。その後のエルノラの生き方にも影響を与える言葉だった。読んでよかった。何回も読みたい本。