紙の本
「同時代ゲーム」をもう一度書き直したような作品
2023/05/12 23:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
「同時代ゲーム」をもう一度書き直したような作品です。しかも、文体がより難解になっています。たぶん、大江健三郎の作品の中で一番難解なのではないかと思います。はっきり言って読むのがしんどかったです。
投稿元:
レビューを見る
『同時代ゲーム』を元に『語り直された』と言うべき長篇。
手法としては矢張りマジックリアリズムに属しているが、『同時代ゲーム』にあったSF的なものは薄れ、南米文学の影響がよりはっきり感じられる。
ただ、SF的なものが薄れたと同時に、『同時代ゲーム』にあったエネルギー、勢いのようなものも薄れてしまったのが残念。
ほぼ同じ主題を扱っているので、どちらが好きかは読者の好みだろうが、個人的にはあのよく解らないエネルギーが迸っていた『同時代ゲーム』を推したい。
投稿元:
レビューを見る
M/T・生涯の地図の記号
「壊す人」
オシコメ、「復古運動」
「自由時代」の終わり
五十日戦争
「森のフシギ」の音楽
著者:大江健三郎(1935-、愛媛県内子町、小説家)
解説:小野正嗣(1970-、佐伯市、小説家)
投稿元:
レビューを見る
『同時代ゲーム』ではSF的な処理が施された箇所にも現実的な裏づけを与えるようにして書き直されたといえる作品。再生・未来へのつながりということが新しい要素としてけっこう露骨にあらわれている。解説の女性的という指摘はなるほどと感じた。
投稿元:
レビューを見る
中盤までは「同時代ゲーム」とほぼ同一。迫力があって刺激的。終盤は、「同時代ゲーム」が一貫して神話的であるのに対し、本書は神話から家族に収斂されていく。自分につながる先人達に想いを馳せたくなる壮大さがある。
投稿元:
レビューを見る
大江健三郎を愛読してるのだけど、四国の森の中の村の神話と歴史に関する話は正直苦手に思っていた。それは20年前、大江健三郎の初読が「同時代ゲーム」で、これを読むのに大変難儀した(足掛け2年はかかった。内容はほとんど理解出来なかったと思うが、読了後はやたら感動した記憶。)からだと思う。それに比べると「M/T」は非常にすっきりして読み易い。同時代ゲームも20年かかってようやく、再読してみようという気になってきた。
とはいえ、この小説の最も感動的な部分は神話と歴史の部分よりも第5章にあると思う。(それはあまりに見事な小野正嗣さんの解説にある通り)
大江の作品どれもだけど、社会、人類、歴史、過去の作品が自分事に接続された時にこそはっとなり、心に深く刻まれる。
あと、個人的に気になるのはこの小説が書かれるまでの困難について。「小説のたくらみ、知の楽しみ」では「女族長とトリックスター」が幻の小説となったことが書かれ、それが短編、中編に再構成され「いかに木を殺すか」になったとある。では、この小説は?
投稿元:
レビューを見る
神秘の森とその谷間の神話と魂の回帰。
神話から歴史、そして現在に繋がる繰り返す挿話。すべてが不思議な森の力によって一つに繋がっている。小さな宇宙がそこにあるようだ。
文章が面白いだけでなく、自分という小さな器から心が解放されるような気持ちになれる物語です。
投稿元:
レビューを見る
『同時代ゲーム』で挫折した人にも安心(?)して読んで貰える。内容はほぼ同じだが、かなり易化しており読みやすい。
著者の故郷の逸話や土着信仰から、ここまでスケールを広げた物語に出来る事に、純粋に驚愕する。
作者の拘る大江流神話の完成系。
投稿元:
レビューを見る
この本は、「ある森の中の村のフシギな物語」です。
とても不思議な神話、昔話のような世界観に入っていけて良かったです。
ぜひぜひ読んでみて下さい。
投稿元:
レビューを見る
大江作品群の基準点のような立ち位置に佇む、大切な作品です。この作品で語られた四国の谷間の村の逸話を、以降の作品で形を変え、幾度も語られていきます。そういう意味で、大江のセルフオマージュの基準点です。
中盤までは、谷間の村の史実と大江の個人的な体験が、(大江の晦渋な他の中期の作品とは異なり)柔らかな文体で語られています。巻末の小野正嗣の解説での、「受容的・女性器的な文体」という表現がピッタリ当たっています。
終盤、史実の語りに少々マンネリしてきたところへ、ここにきて大江作品らしい生々しさのある事件が起こります。そして主人公の母から神秘的な「森のフシギ」が語られるのです…。
歴史の途方もない循環性に対して、しかし個々人の人生の価値をも保証してくれる、美しい語り。
さらに後期の作品『取り替え子』や『晩年様式集』にも通ずる、まだ生まれてこない次の世代に想いを馳せる語り。
ノーベル賞の受賞理由作品である所以がよく分かりました。
比較的易しい文体であるため、それこそ将来の僕の、まだ生まれてこない子供に読んでもらいたいと、前向きな想いを馳せています。
投稿元:
レビューを見る
同時代ゲームは未読。どんな風に解釈すべきなのか、読みながら考えてしまうと進めなさそうに見えたので、まずは神話のような物語として読み進んだ。
読みながらようやく理解が進み始めたのは第2章。著者は「何種類もの話され方を一つの物語に重ねて聞く、それをのびのびと自由に聞き取るという習慣こそ、祖母に教育された最も良いことであったかもしれない」と書く。ああ、なるほど、と、ここから俄然面白くなった。第二次大戦をはさんで極端な価値転換を実体験として持つ著者が、時の流れの中で何が起きたのかについて考える時に、この自由な思考回路に救われ、公に書かれた歴史だけでなく、個々人の語る実体験をもとにした厚みのある歴史を自分の軸にして語る力を得たのかもしれないと思う。だからこそ、最終章で現在のご子息やお母さまとの話につながっていったのが自然な流れで読めた。
静かで壮大な、神話のような物語。森の、自然の中で、その力に守られて生きた時代、生と死の境界線があいまいで、目に見えないものを理解し、想像し、信じる能力を持っていた時代。そういう世界をつぶしていく愚かさと、その愚かさの理不尽な強さ。そのうち「同時代ゲーム」に再挑戦しようかと。