奇想天外に見えるが地道な研究 。
2015/06/01 21:07
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
マグロの完全養殖はすでに商品化して既に有名。なのになぜ?と思われるかもしれない。しかし本書の方法も使えば、もっといろいろの魚(もしかしたら魚以外にも)に活かせる話も多そうだ。例えば「絶滅しかかっている魚類を、別の魚を使って増やす」こと。実際に飼育や遺伝などでデータが豊富なヤマメやニジマス(どちらもサケ科)を使い、マグロに手を付ける前に実験は開始されて成功した。
「そんなこと可能なの?」と思いそうなタイトルだが、読めば「ここまでできたのか」と感心する。考えてみればiPS細胞も人間への実用化の道を進んでいるし、魚でもいろいろな技術は進歩していて当然なのだ。
遺伝子の検査やノーベル賞をとったクラゲの光る遺伝子を使う方法など、バイオテクノロジーの最新の知識もたくさん使われている。その一方「数ミリの稚魚に注射する」などの繊細な手作業もそこには必要だということも書かれている。いや、なによりも実験材料の魚をどうやってきちんと飼育するかなどの地道なノウハウが実はとても大事だということだ。
びっくりするような発見も書いてあった。例えば「マグロのオスだけいれば卵も精子もつくれる」というのである。オスから取ってきた「精子を作る細胞」は雌に移殖されると「卵」をつくる。魚類だけの特徴かもしれないが「オスさえいれば子孫が増える」。単為生殖など「メスさえいれば子孫が増える」というのは教科書にも載っている話だが、こういったとても基礎的な発見も沢山出てくるのが「すごい研究」なのだと思う。
研究というものはこうやって地道に進める中、時にブレークスルーで加速したりして進んでいくものなのだろう。しっかりした理論と、無謀でも試してみる勇気。とにかく続けるどん欲さ。そんな「研究の実態」が生臭く(しかし新鮮な魚の)伝わってきた。
ここまで「生命の操作」をしてよいのか?と感じる部分もないとは言えない。だって、「他の種の生き物を借りて生まれてくる」のが魚でなかったら。そしてそれは既にSFではないのだから。良い面もあれば怖い面もあるだろう。専門家に任せるのでなく、少しでも現状を理解して考えていないといけない問題でもあると思う。
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アマゾンに注文しました。
(2014年11月3日)
届きました。
(2014年11月5日)
読み始めました。
(2014年11月11日)
いや、すごいですね、この本。
(2014年11月13日)
ぜひ書店で手に取ってみてください。
(2014年12月04日)
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サバにマグロを産ませるという壮大な試みが成功に近づいている。
サバとマグロはそれぞれサバ科で近縁種。
既にヤマメにニジマスを産ませることには成功している。
卵、精子の形成過程は、「始原生殖細胞」→「卵原・精原細胞」→「卵・精母細胞」→卵もしくは精子 ができる。ニジマスの「始原生殖細胞」をヤマメに移植することでニジマスを産ませることに成功した。このときヤマメには処置をしてヤマメの卵や精子は出来ない処理を施す。
しかし、マグロの場合は「始原生殖細胞」を取ることが困難な魚であった。広大な海で行きており、マグロはその数が特にすくないという特性を持っていた。
そのため、「精原細胞」を使うことを試みた。成功!オスに「精原細胞」を移植するとその精子をつくった。次に、なんとメスに「精原細胞」を移植した...卵ができたのである。
現在の段階では、まだサバがマグロの精子や卵を産むまでに至っていないがもう頂上はすぐそこというところに来ている。
著者の誠実で粘り強い研究姿勢や研究室の人たちへの温かい配慮などがにじみ出ている文章でその面も好感の持てる内容でした。
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移動中の機内で読了。
全く畑違いの分野の本ですが、書評ブログなどで話題になっておりましたので、幅を広げるために読んででみることにしました。
「サバがマグロを産む」
にわかには信じがたいフレーズですが、著者らの努力によって実現に向けて着実に進んでいるようです。
研究ネタの話になると決まって出てくる日米の研究環境の違い(差)についても、88ページあたりから記述があります。
付箋は10枚付きました。
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ちょっとキワモノのようにも思えるタイトルだが、興味深い1冊である。
クロマグロをはじめとするマグロは、乱獲による絶滅が心配され、近い将来、食べられなく可能性も囁かれている。
近畿大学の「近大マグロ」岡山理科大学の「理大マグロ」など、養殖の試みもなされ、成果も上がってきている。
本書の著者らのアプローチは、もうひとひねりあって、ユニークだ。
養殖を継続して行うには、種苗(養殖用の稚魚や幼魚)が必要だ。完全養殖のためには、親マグロも管理下におかなければならない。だが、マグロは体が大きく、また成熟するまでの時間も長い。クロマグロの場合、食用サイズは30kgだが、親マグロとして成熟したものの大きさは100kg、平均すると5年掛かる。親マグロを育て上げ、維持するには、大きな労力と費用が必要となる。
ならば、もっと小型で成熟も早い別の魚、例えばサバをマグロの代理親とすることはできないのか・・・? サバは1年ほどで成熟し、重さも300gくらい。水槽での管理も容易になり、そうなれば水温の調節などを通じて、計画的に種苗を得ることだって可能になる。
こう聞くと利点は多いようだが、さて問題は実現可能かどうかである。
「サバにマグロを産ませる」というのは、サバのおなかからマグロの稚魚がぽこぽこ出てくるということではない。魚は体外受精を行う生きものであるから、「サバがマグロの精子や卵を作れるようにする」ということである。
この目的に向けて、著者らが試みている戦略は、サバの仔魚に、卵や精子の元になる細胞を移植し、性成熟した後、サバがマグロの卵や精子を作り続けられるようにするというものである。
卵と精子の元になる細胞は元を辿っていくと始原生殖細胞という1種類の細胞に行き着く。哺乳類の場合は、受精時に、性染色体によって性が決定され、通常、生涯の間に生物学的な性が変わることがない。しかし、魚の性はそれほどかっちりとは決まっておらず、種によっては外的要因によって性転換するものもいる。魚の始原生殖細胞は仔魚に存在する段階では、卵を作るのか、精子を作るのかが決まっておらず、精巣・卵巣が発達するにつれて、その運命が決まる。
著者が学生の時、魚の生殖細胞で特異的に発現する遺伝子が発見され、著者はこれを手がかりに、仔魚から始原生殖細胞を探して取り出すことができないか、と考えた。
始原生殖細胞を取り出し、別種の魚に移植すれば、代理親の性にしたがって、精子も卵もどちらも得られるはずである。
著者はこれに成功する。生きた魚の中から始原生殖細胞を取り出すに当たっては、2008年ノーベル化学賞を受賞した下村博士の緑色蛍光タンパク質(GFP)が活躍した。
最終的な目的はマグロを増やすことなのだが、海洋魚の卵は小さく、始原生殖細胞を持つ仔魚も非常に小さいため、扱いが困難である。そこで、著者らはまず、卵が大きいサケ・マス類で実験を始めた。ニジマス(rainbow trout)をヤマメ(masu salmon)に産ませることが可能か、という実験である。
その試みの中で、いくつかおもしろいことがわかってくる。
当初は始原生殖細胞���精巣や卵巣に直接注入しなければならないと考えられていたのだが、実は、腹腔内に入れてやりさえすれば、生殖細胞は仮足を出して「勝手に」卵巣や精巣に移動していく。卵巣や精巣から、何らかの誘引物質が出ているようなのである。
また、仔魚からあまり多くは採取できない始原生殖細胞の代わりに、豊富に得られる精原細胞を移植実験の練習に用いていたところ、何と、これを雌に移植すると、卵に変化できることもわかってきた。基礎生物学的にもすごい発見である(PNAS vol. 103 no. 8, 2725-2729)。後に、卵原細胞が精子なりうることも確認されている。
一方、実用化のためには、仮親となる魚が自分の子供を作ったり、雑種が生まれたりすることのないようにしなくてはならない。このためには、仮親を不妊化する必要がある。養殖漁業では、食用にならない卵巣や精巣の発達を抑えるために、不妊個体を作る「三倍体化」という手法が知られている。この三倍体化した魚に、生殖細胞を移植したら、無事に生殖細胞由来の仔魚が産まれるのだろうか? 最終的にはこの実験も成功し、こちらはScience誌に掲載され、大きな反響を呼んだ( Science Vol. 317 no. 5844 p. 1517 )。
全体として「無茶」とも評されるような実験を通じ、応用を目的としながらも、基礎的にも興味深い知見が多く得られた事例と言えるだろう。自由な発想と熱意を持った多くの学生が著者の研究室に集まっていたのも大きかったようだ。
著者らはこの技術を、マグロだけでなく、絶滅の危機に瀕した魚の保全にも使えないかと考えている。凍結が困難な卵ではなく、生殖細胞を凍結することで、絶滅危惧種の保護バンクを作ろうという試みである。精巣を凍結し、ここから卵や精子を得ることが可能であることは確認されている(PNAS vol. 110 no. 5, 1640–1645)。
さて、壮大なこのプロジェクトがこの研究室でどのように育っていくのか、今後も期待されるところである。
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サバにマグロを産ませる・・・そういう発想をもてるというところが面白く また実現が近いとなるとさすが!と思う
生物学も奥が深い
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基本的に僕は「生物」という科目が苦手だったので知らないことだらけだったが、一番驚いたのは、細胞が移動するということ。トンデモ話以外でも、世の中、不思議なことだらけ。
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どんなバカでもわかるような非常にわかりやすい文章が印象的。魚が好きなのが伝わってくる。
きっと授業も面白いのだろうと思った。
あと、すごい人は死ぬほど努力しているのだなとも思った。
サクッと読めたので、疲れているときにおすすめ。
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【由来】
・図書館の岩波アラート
【期待したもの】
・マグロならばちっちょんにも面白いかと。
【要約】
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【ノート】
・
【目次】
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絶滅が危惧されるマグロをサバに産ませて増やそうという研究です。
マグロは近大の完全養殖が有名ですが、同じ方向を目指したものです。でも、完全養殖は受け入れられますが、サバにマグロを産まそうと言う研究はちょっと、、、
本自体は読みやすく面白いです。でも私にはこういう研究は生命の尊厳を弄んでいるようでちょっと引いてしまいました。
まぁこういう研究から副次的に色々なことが分かって人類の知見が広がっていくという考え方もありますが、でも、やはり、何だかなぁ、と思ってしまいます。
この本が書かれたのは 2014 年で、すでに 6 年経っていますが、現在この研究はどうなっているんでしょうね。。。
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僕はそこそこ革新的なつもりでいるけれど、生命倫理になると、どうも保守的になってしまう。なんでだろうね。
サバからマグロが産まれる!? !?がついているように、産まれる、と言い切ってはいないけど、もうじき出来るだろう、という話。
マグロに比べてサバの養殖施設はコンパクトで済む。そのサバの腹からマグロが生まれてきたらウハウハ。そういう話。もちろん金儲けの話として書かれているわけではなくて、希少生物を救う、という大義がある。のだけど、なにか釈然としない。
精母細胞から卵をつくるとか、そんなことがすでに出来てしまっている。ヤマメにニジマスを産ませることも出来ている。サバとマグロもおなじサバ科。しかし、マグロの始原生殖細胞を手に入れるのは、これまた難しい…。
サイエンスとしてもテクノロジーとしても、そしてサクセスストーリーとても面白い話。
なのだけど、マグロの減少が僕らが食っちまったから、という後ろめたさを差し引いても、これでいいのかな、という気持ち悪さが残る。ES細胞もちょっと気持ち悪いのだけど。
そして、サバから生まれたマグロ、というレッテルに日本人の胃袋は耐えられるのか。
それと、これも極めて局部的な、個人的な、そしてこの研究の価値を左右しない嗜好だけど、マグロよりサバが好きなんだ、僕。