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「緑の洞窟」「焼却炉」「私のサドル」「リターン・マッチ」「マジック・フルート」「夜の木の下で」の6編。
これまでの湯本さんの作品、例えば「夏の庭」のように少年・少女を主人公に置くのではなく、多くは既に大人になった主人公が自分の子供から青春時代に感じた怒りや理不尽さ、未来への諦念などを思い起こす形で描かれています。
そこに登場するのは純粋で繊細で儚い者たちです(対照として異常な母親が出てくるのも特徴かもしれません)。
ですから筆致はやや暗く重い。そしてどこか哀しみが含まれてます。
それにしても引き込まれていく文章です。静寂。小川洋子さんの硬質な静謐感とは少し違い、どこか柔らかさのある静寂感の中で語られる物語です。
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過ぎ去った時間は取り戻せない。悔やんでみてもどうにもならない。時の流れは、なんて残酷なのでしょう。
6つの短編は、それぞれ趣の異なる内容なのですが、静かな語り口に心の奥底がそっと揺さぶられるような気がしました。哀しいでもなく、せつないでもなく、やるせないでもなく、それやこれやをすべてひっくるめて平らかにしたような、なんともいえない余韻の漂うお話でした。
べそかきアルルカンの詩的日常
http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
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六つの物語をおさめた短編集。
nejidon さんのレビューで知った、湯本香樹実さん、初読です。
ありがとうございました。
反発と夢と不安と愛情の芽のようなもの、大人になってもまだ名付けられない想いを、かたちの定まらないままに大切にすくいとったような。
静かな痛みと寂しさと、爽やかな救いがありました。
家族の中で庇護されて生きていることに何の疑問も持たず、ただ愛情に包まれていると感じて成長してゆけたら、なんて幸せなんだろう。
庇護されていることが安心感に繋がらず、『養われている』ことを息苦しく感じさせる、自分の無力を何かにつけて思い知らされる関係だったなら…
そういうことを感じとってしまう者にとっては、ごくごく薄められた毒を飲まざるをえない場所で生きているようなものなのか…
どの物語も良かったけれど、「焼却炉」「マジック・フルート」「リターン・マッチ」が、うまく説明することもできないけれど、私にとても近いものを感じました。
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かつて通り過ぎてきた時間、今やもう思い返すしかできない過去、そういったものに対する愛着、後悔、懐かしさをやわらかく掘り起こすような読感。”私”だけの特別の思い出、”私”を形成するささやかながら永久にしこりとなる痛みを感じさせる。「マジック・フルート」が非常に良かった。