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時代小説で定番ともいえるお家騒動が背景。
さらに、男同士の友情と、彼らが想いを寄せる一人の女性。これもよくあるパターンだけれども、著者は、叙情豊かに美しく一編の詩の如くに、物語を紡ぎだした。
人が人を想う気持ちと、それが相手に伝わらず、それでもそれぞれが誠実に生きようと葛藤する人々。
現代を舞台にしたら、陳腐となってしまいかねない設定も、時代小説では、切なく美しい物語となる。
やっぱり、時代小説って、いいですねえ。
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――ひとを愛おしむとは、自分の想いを胸にしまい、相手の想いを叶えることなのか。
かつて、藩の不正を糺そうとしながら、それゆえ扇野藩を追放された瓜生新兵衛は、妻の最期の願いを胸に18年ぶりに藩へと帰参する。
それは、闇に葬られた過去の罪を今に呼び覚ます行為でもあった。
親子、夫婦、友人、そして主従。人が生きてゆくなかで切っても切れない深い結びつきと、死にゆく人の切なる願い。それぞれに気持ちを伝えること、受け取ることの「ままならなさ」に翻弄される人びとの姿を、一木に白から紅までさまざまに咲き分けながら、最後には一片一片花びらを散らせてゆく散り椿に寄せて描く。
同じ道場で鍛錬し、四天王と並び称された新兵衛と彼のよき友人たち。
彼らの上に流れた18年という歳月は重く、溌溂と輝いていた若者たちを、皆それぞれに生きてきた澱を身にまとい、複雑なものを抱えた中年の男に変えてしまった。
生きることは難しい。
おのれを殺して生きようとする。しかしそれが他の者の生きる道を閉ざしてしまうこともある。
誰かを生かすために、心にもない言葉を吐かねばならないこともある。
大切なものを守るために投げ出した命が、ほかの誰かの人生を大きく変えてしまうこともある。
扇野に生きる人びとの、不器用なことといったらない。傷つき、傷つけられながら、それでも誠実に生き尽くそうとしている。その姿がとても愛おしい。
「生きてくださいませ、あなた――」「生きろよ、新兵衛」
自分の死を前にして、なぜそんな風に願えるのだろう。その答えもまた、彼らは残してゆくのだ。
「散る椿は残る椿があると思えばこそ見事に散っていけるのだ」、と。
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毒のない安心させる文章、伏線が張られていてストーリーの骨格も整っていて、人物もそれなりに色づけされている。いい話‥‥と言えなくもないだろうけど‥‥私的には何か物足らない。
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少しこじつけのように感じられるところもあったけれど、面白かったと思う。
出世のため、お家再興のために努力して生きていた藤吾が、次第に、石高よりも大切なことがある、と気持ちを変化させていく姿が清々しかった。
新兵衛は一途に篠を思い続けるが、篠は采女から新兵衛へ気持ちを移すところとか、男の人の書いた作品だな、とは思う。
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新兵衛、格好良すぎ!~徳川家康の故障を務めた先祖を持ち今は和紙生産で有名な扇野藩の殖産方である坂下藤吾は父が公金横領の疑いを掛けられ自害した家を盛り返そうと必死で、目標は側用人の榊原采女だ。死んだ父や許嫁・美鈴の父である篠原三右衛門の剣友であり、藤吾の母の姉・篠の夫であり今は浪人している瓜生新兵衛の剣友でもある。村廻りの帰りの峠道で、采女の養父・榊原平蔵の悪事を暴こうと藩を追放されたが、一時采女との縁談もあった妻・篠の遺言で、坂下の屋敷にあった椿を見に行き、采女を助けろ言われたからだった。和紙の金は田中屋という紙問屋を通して、藩主の庶兄奥平刑部から旗本へ養子に出た息子を通じ、老中などに賄賂として渡っている。奥平はあわよくば息子に藩主の座を引き寄せたいが、藩主は来年三月の世嗣国入りを機に、国家老・石田玄蕃を排し親政を始めたいらしい。藤吾は水路造りを計画し、郡方も乗り気なのだが、家老派は妨害してくるかと思うと、郡方への異動と蜻蛉組入りが命じられ、郡奉行・山路内膳を監視するように石田玄蕃に命じられる。山路は榊原同様、主君・世子派だ。困った立場に置かれ、村廻りの最中に狙撃され、頼りとする若手名主が殺害される。篠原は藤吾が蜻蛉組の編入されたのを知って、破談を申し渡しに来た。榊原平蔵を斬ったのは、坂下重乃助か、篠原三右衛門か、養子の采女か。藩主と世子が国入りした。病気がちな藩主は床に伏せ、世子は精力的に動く。殺された名主の家をお忍びで訪問すると聞いて、郡奉行は藤吾と新兵衛を討手が潜みそうな場所に急行させたが、狙撃された世子の影武者は蜻蛉組の組頭・篠原三右衛門で、弾が命中して絶命した。その頃、世子は城下での田中屋との談判に臨み、目的は果たしたものの、一服した茶に毒が仕込まれていた。藩主・世子側は謹慎が命じられ、蜻蛉組の解散が家老・石田から命じられる。家老は篠原の遺族の族滅を命じ、それを知った藤吾は美鈴を救うために走る。新兵衛は采女と椿の下で立ち合いに臨むが…~岡田准一が演じているのは新兵衛?采女?藤吾は誰がやるの?ってのは映画の話
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瓜生新兵衛は、かつて藩の不正を正そうとして追放された扇野藩へ18年ぶりに帰ってきた。藩の実権を握る家老の石田玄蕃の不正を暴き、次期藩主とともに藩の実権を取り戻そうとする。平山道場で四天王と呼ばれた新兵衛、榊原采女、坂下源之進、藤原三右衛門が物語と深く関わっており、次期藩主がお国入りしてから一挙にクライマックスへと進む。
友情の物語であり、夫婦愛の物語でもある。最後に伝えられた愛の言葉に答えられない新兵衛であった。
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人の想い、過去の真相、権力争い、剣技など、読み応えのある時代物だった。
采女の最後は本人の想いとしてはそうなのだろうが、上意を先に明らかにしてほしかったと惜しんでしまった。
18-138
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藩内部の権力争いに巻き込まれ死にゆく人達。
逝く人達の思い。
残された人達の思い。
どちらの思いも心を打つ。
散り椿のように見事に散っていく友たち。
その散り様を見守ることしかできない新兵衛を思うと胸が痛む。
本の最初から、最後の最後まで、余すところなく情景が浮かぶ。
すばらしい作品でした。
読めて良かった!
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葉室作品は蜩の記に次いで二冊目
映画化の話題に乗って
一本芯の通った壮年の男性と、その人に関わる事で成長する若者
どうにもならない世の中だけれど、己の信じるものを求め、ひたむきに生きる事の素晴らしさと切なさ
語彙が少ない自分がもどかしい
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采女からの手紙を持ち続けた篠の心・・からの返信の和歌。 これでは新兵衛の思い込みの方がより自然な流れ。
篠は、敢えてどちらにも取れる歌を残したのだろうか?・・なんて邪推も?
新兵衛との祝言に至るまでの篠の心の内は、
読者にはわかるが新兵衛や采女には知る由もない訳で、采女の閃きは少々強引な気も・・
などと御託をいいながら、当然のようにまたも涙腺決壊な訳ですが
女性は凄い・・
妻・篠の今際の願いを胸に18年の時を経て故郷・扇野藩へ戻った浪人・瓜生新兵衛。
かつて、上司・榊原平蔵(采女の養父)の不正を知り暴こうとした新兵衛は、返って咎めを受け藩を追われたのだった。
扇野藩に戻った新兵衛は篠の妹・里美とその息子・藤吾の元に身を寄せるが、里美の夫でありかつての友・坂下源之進もまた横領の疑いをかけられ数年前に切腹していた。
折しも、扇野藩は病弱な藩主の隠居を機に親政を目論む嫡男・政家と、長年にわたり藩政を動かして来た家老・石田玄蕃との勢力争いが佳境を迎えていたが、政家側の懐刀・榊原采女もまた新兵衛・源之進と並び四天王と称された親友であった。
一方、藤吾は両派の間で微妙な立場となり、藩の暗部・蜻蛉組へと配属されるが、もう一人の四天王・篠原三右衛門の娘・美鈴との婚約が突然破断になる。
愛妻・篠と采女、そして新兵衛の過去。
裏で藩を操る政家の実兄・奥平刑部を絡め、藩の実権を巡って交わされる策謀の応酬。
采女の父・榊原平蔵暗殺の真実とは、
そして、篠の願いの真意とは・・
◯平山道場四天王
⚪︎瓜生新兵衛
⚪︎榊原采女・・新兵衛が糾弾し、後に暗殺された平蔵の養子。御世子側のトップ。篠への想いを断ち切れない。
⚪︎篠原三右衛門・・美鈴の父。馬廻り役だが・・
⚪︎坂下源之進・・里美の夫、藤吾の父。不正を疑われ自ら切腹。
◯篠・・新兵衛の愛妻。かつて采女と婚約したが・・。新兵衛に願いを託し亡くなる。
◯鷹ヶ峰殿・・政家の兄・奥平刑部の通り名。
◯蜻蛉組・・藩の諜報組織。藩の重役達の監視、時に暗殺も。
◯小杉十五郎・・平山道場の師範代。蜻蛉組の副頭。
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日本人らしい美徳に
後半 涙する場面もありました
散る椿は、残る椿があると思えばこそ
見事に散っていけるもの
という 犠牲を払いながらも
相手を生かそうとする 愛の証ですね
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過去の事件の追求、藩内の権力争い等、背景は複雑ですが、そこに絡む人々の思いが繊細に描写されている秀作。
愛、友情、成長・・。人が人を想う心の美しさがひしひしと伝わってきて胸を打ちます。
映画では、新兵衛を岡田准一さん。采女を西島秀俊さんが演じたのですね。新兵衛はもうちょいワイルドなイメージ(岡田さんは格好良すぎかも・・。)でしたが、西島さんの采女はぴったりだと思いました。
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とても綺麗な小説。
最後に妻が夫を大事にしていた。夫の幼馴染の元婚約者への想いは無かった事実は、夫にも伝わったのだろうか。
妻を大事に、第一に生きる姿に心が揺さぶられます。
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すぐ読み終えられました。面白いです。椿は花ごとぽとりといっぺんに落ちるイメージですが、タイトルの散り椿は花びらが一枚ずつ散るそうです。残る椿があると思えるからこそ見事に散っていけるという話です。藩での権力争いですが、四天王のみんな、生き様と心が素晴らしい。愛する人のために生きたいと思いました。自分の苦しむことが癒される術がこの本にはありそうです。
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書店でたまたま購入したもの。
時代小説を読むのは何年ぶりだろうか、というぐらい読んでいなかった。そのためなのか、読了後は素直な感動を覚えた。
時代小説は、決して避けているわけではないが、定期的に必ず読むというわけでもない。自分の中で、時代小説といえば、ある程度「型」が決まっており、形式面でそれほど新鮮さを感じることがないと思い込んでいる節があるからかもしれない。例えば、想いを寄せ合う男女がいても、家長同士が憎み合っているため結ばれないとか、武士として、個人としての誠実さを通そうとすれば、藩や君主の意に背くこととなる葛藤など。こうしたいわば時代小説の約束事的なものは、ワンパターンと言ってしまえばそれまでかもしれないが、つまり読者と作者の間の共通理解のようなものであって、読者の物語世界への理解を早めたりする役割こそあれ、なんだいつも同じ展開ではないか、とは感じないのが不思議である。
本書も、これまで読んできた時代小説に共通する諸要素を余すことなく含んでいる、藩内の覇権争い、青春の恋と挫折、「秘剣」的なもの、など。しかし、本書では登場人物たちの関係性が、それぞれ単純でなく、伏線も含めて丁寧に描かれている印象があった。主人公の亡妻の最後の願いの内容とその真意は、意外であったし、主人公に生きる意味を与えるといっても、そのような依頼をするだろうかとは思ったが、つまり単純な善意・悪意の区別だけではなく、(解説にもあったが)それぞれの人物がその人なりに誠実であろうとした結果、不意に不幸な結末や誤解を生んでしまうことは、現実の生活でも起こりうる。そうした人の心の機微を丁寧に表現しようとしている小説だったと感じた。もう一人の主人公、藤吾の成長の過程も読んでいて清々しく、久しぶりに時代小説を存分に楽しめた。