紙の本
人生の節目って確かにある
2021/05/23 21:50
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投稿者:ゼルコバ - この投稿者のレビュー一覧を見る
退職して仕事をやめたとき、一羽飛び立つ雁に例えた句があった。
組織から離れ、一人になってみると組織のありがたさがわかる。逆にスッキリした気分になることも体感できる。
あ、この思いは自分に通じるって思うことが、たくさんあった。じっくり読める本ですね。
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先行著作の『近代秀歌』『現代秀歌』も『恋』『旅』『病・死』等の章に分けて書かれていたので、「この本も同じようなものかな」と思って読み始めただが、内容は大きく違っていた。
前著より現代短歌が多く取り上げられている。そして、『介護』『ペットロス』『定年』『求職』など、取り上げられる短歌も身近になっている。本当に忙しい中、著者はどれほど短歌を読んでいるのか、驚いてしまう。
単に秀歌を取り上げて鑑賞するだけでなく、解説を通して現代社会の問題も語られている。
著者本人は「本書はあくまでアンソロジーの域を出るものではない」と述べているが、とんでもない。
これは単なるアンソロジーをこえて、社会への警鐘も含む肉厚の歌論だと感じた。
しかし、文章はとっても分りやすく、短歌を読んでみたいという人にもうってつけの好著だと思う
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ある事象へのまなざしや感じ方をわずか三十一文字に凝縮した美しさを満喫しました。吉川宏志作「花水木の道があれより長くても短くても愛を告げられなかった」大島史洋作「産み終えて仁王のごとき妻の顔うちのめされて吾はありたり」黒木三千代作「老いほけなば色情狂になりてやらむもはや素直に生きてやらむ」河野君江作「物を忘れ添いくる心のさみしさは私がだんだん遠くなること」が特に魅かれました。
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同じ文章での自己表現でも、作家と違って、完全なフィクションってないわけで。だからときどきビビッとくる歌に出会えるんだよね。
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恋多き青春時代、退職、身近な死など、テーマ別に編まれた近・現代の短歌の解説集で、著者の自作も多数交え、個人的な体験を通して著した随筆でもある。
歌の解説を読むと、ああなるほどと感心することも多いが、一読した時に感じる歌の持つ勢いのようなものは削がれる気がする。音楽の良さを言葉で解説するのに似ているかもしれない。
栗木京子、馬場あき子、宮柊二などが印象に残るが、 一首あげるとすれば最後に上げられた斎藤茂吉の歌、「いつしかも日がしづみゆきうつせみのわれもおのづからきはまるらしも」。
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短歌とは心の日記だ。考えたこと、感じたことを、再び思い出せるようにするタイムカプセルだと思う。恋、青春、卒業、結婚、仕事、子育て、親の死、老いなど、人生の節目で詠まれた歌を紹介し、短歌の魅力を語る。ああ、私も短歌を詠もう。
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連載時のタイトルは「時の断面――あの日、あの時、あの一首」。その時にしか詠めない短歌を集めている。
セキセキとセロリ嚙みいてあどけなき汝(なれ)を愛する理由はいらず 佐佐木幸綱
人はみな馴れぬ齢を生きているユリカモメ飛ぶまるき曇天 永田紅
退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らずさよなら京都 栗木京子
きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えんとする 寺山修司
悪龍(あくりょう)となりて苦しみ猪(ゐ)となりて啼かずば人の生み難きかな 与謝野晶子
通勤の心かろがろ傷つかぬ合成皮革の鞄に詰めて 松村由利子
黒猫のジェムは死にたりダンボールの函の四隅に隙間残して 永田淳
亀はみなむこう向きなり老いたるもいいものだぜとうつらうつら 永田和宏
老いほけなば色情になりてやらむ もはや素直に生きてやらむ 黒木三千代
手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が 河野裕子
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人生のいろいろな局面で読まれた短歌を選んで、詠み手の思いを想像し、自分の体験に照らす。刺さる歌、沁みる歌、ひっかかる歌がある。そういうことをガイドしてくれる本だった。
人はみな馴れぬ齢を生きているユリカモメ飛ぶまるき曇天(永田紅)
退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らずさよなら京都(栗木京子)
過ぎゆきてふたたびかえらざるものを なのはなばたけ なのはなの はな(村木道彦)
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「革命者気味にはしやぎてとほる群衆の断続を見てかへるわが靴のおと(斎藤茂吉)」
人生の節目に読んでほしい短歌、の中に「デモの隊列―ジグザクのさなかに」という項がある。
茂吉の嫌な性格を感じさせる―いったいこの歌人は何なのだ―というような著者の気持ち。それもすごいが、人生の節目にデモ、である。この本はもともとは「NHK短歌」のテレビテキストだというから、こういうあたりも放送されていたのだとすれば、NHKもなかなかやるではないか…。著者の年代にとってデモはたしかに節目だったかもしれない。けれど、そういう時代の話だけではない。石破茂の「絶叫戦術はテロ行為と本質的に変わらない」という見せ消ち発言にも触れているからだ。
とはいえ、デモは本書のごく一部。出産、労働、恋、卒業、老い、死、など、いわゆる普通の節目が並ぶ(それだけにデモが異質なのだが)。
まだ迎えたことのない節目もある。迎えることさえ叶わない節目も、ある。
自分が時間をどう積み重ねて、そのとき何か発露出来るのか。そういうことを思わせるのには、短歌はやはり圧倒的である。そこまでの時間に錘(おもり)をつけるのが短歌だ。心の中に錘があるかな…。そういう悩みからも、ちょっとずつ錘が出来ていくような気もする。
みなが時間を生きているのだ、というぐらいの理解は出来る。僕も、もうちょっとぐらい重いものを持って歩こうかな、なんて。
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「結婚や肉親の死、退職、伴侶との別れなど、人生の節目はいかに詠われてきたのか。明治から現代までの珠玉の名歌を、当代随一の歌人が自らの体験をふんだんに織り交ぜて綴ったエッセイとともに紹介する。」