紙の本
ドイツ独り勝ちの欧州事情を経済学の視点から振り返るのにちょうどいい
2019/03/03 22:41
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投稿者:もちお - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルに本の内容が正確に表現されていて、ギリシャの財政崩壊からユーロ圏の終わりの始まりのような事象が相次ぎ、ロシアもアメリカも自国の利益最優先でグローバリズムが逆流しているってことを口頭表現で説明している本。ユーロがうまくいかないのは当たり前だし、ドラギマジックにも限界があるし、ドイツの国民性がまったく金融に向かないと問題が簡単に解決できないのはわかりきったことであるが、本書では最後の最後、日本に求められる役割が大きくなるのでは、それに備えてこの問題にもっとコミットしてはで締める。ギリシア危機とユーロ圏の危機を今一度おさらいするのにちょうどいい本。
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最終章の「日本がいま真剣に考えるべきこと」は秀逸。それまでの記述はここへ導くための伏線と思えるほど。単なる地域分析に留まらず、巨視的に見据えるのは、さすがに著者の力量と言える。
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つい最近まで、グローバル化(グローバリズム)するとは、良いことの象徴で、グローバル化に乗り遅れると大変なことになるという雰囲気でした。この本は一年以上前の2015年中盤に書かれた本ですが、現在、欧州を中心に、今までのグローバル化を疑問視する動きが出てきていると解説しています。
ギリシア崩壊、英国のEU離脱、そして、米国の次期大統領が、「アメリカファースト」を唱えてきた、トランプ氏になるというのがその具体例だと思います。EUは益々拡大していき、EC時代のような同規模の国の連合から、市場の大きさだけを求めた当初とは違う連合になってきていて、それが移民等の問題を引き起こしている感もあります。これからの世界経済の動きに、目が離せませんね。
以下は気になったポイントです。
・徴兵による近代的な国民軍の制度はフランス革命期から始まった。傭兵よりもはるかに低コストで大量の兵隊が動員可能になる。徴兵の時代に傭兵の時代の発想で戦争をしたので、ドイツ・ロシア・オーストリアの3つの帝国が消えてなくなった(p27、30)
・金融経済危機のような非常時に、外国の投資家やIMFとの交渉に臨まなければならない、そうなったとき交渉相手に勝る学歴、経済学のプロとしての言語が話せて知識をもつことが必要なので、イタリアや中南米の中央銀行には高学歴の人が多い(p52)
・アイルランドは銀行資産がGDPの9倍もある、資産の10%が不良債権になっただけで、全GDPと等しくなる、政府が助けるのは疑わしい(p61)
・欧州では、インフレ率の低い国(ドイツ)で借りて、いちばんインフレ率の高い(ギリシア、ポルトガル、イタリア)国に投資すると、利ザヤが稼げる(p65、69)
・共通通貨を用いた場合、経済状況や経済体質が異なる国に対して、共通の金融政策を適用しなければならないが、これができないので、ユーロ危機が起きた重要な理由の一つになった(p71)
・欧州は生産国と消費国に分かれていた、ドイツのような生産国は、スペインのような消費国に積極的に借りてもらおうとしていた(p75)
・ユーロ規定には、どういう場合に、ユーロを離脱できるか、離脱させられるか、何も書いていない(p83)
・ギリシアはデフォルト(発行した国債の元利を払わない)する権利は独立国として当然あるが、するとユーロ以外の通貨を使わなければならなくなる。国債を売って資金調達ができなくなるので、国中に現金がなくなる(p85)
・ギリシアへのIMF支援は史上空前、通常の支援額は各国の出資額の6倍の上限があるが、ギリシアは32倍(韓国は20倍)で、通常の3-5年ではなく、異例の6年(p92)
・ドイツがユーロ圏の経済危機によってほかの国よりも打撃を受けなかった理由として、中国への輸出が強いことにある(p115)
・ドイツのマーケットによる評価が良いのは、輸出パフォーマンスがユーロ安で追い風、問題国に流れていた資本がドイツに逆流して金利が低下、といった要因がある(p119)
・そもそもリーダシップが必要な時期というのは��ルール通りの行動ではうまくいかない時期をいう。ルールに任せて上手くいくなら、リーダの必要は無い(p152)
・IMFにおいてアメリカだけは、唯一、単独でIMFの意思決定にノーが言える仕組みになっている。ルール改正、専務理事の選定、融資先の決定、あらゆる意思決定は、議決権の85%の賛成が必要(p188)
2017年1月3日作成
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前著「ユーロ破綻 そしてドイツだけが残った」(日経プレミアシリーズ)の続編のような感じですが、前著より分かり易く整理されてきた感じがします。
欧州統合には「統合が善」だという判断が基本にあって、地理的にどこまでが欧州統合の範囲か、またどこまで統合するのかというような検討課題があるが、明確な答えを持たないまま、闇雲に統合を進めていったと、著者は指摘する。
その結果、一番金利の低い国(ドイツ)で資金を借りて、一番インフレ率の高い国(ギリシャ・ポルトガル・スペイン・イタリア)に投資すれば、利ザヤが稼げるため、ペリフェリー(周辺国)に資本が流入していった。しかもユーロという共通通貨を使っているため、為替リスクが発生しない。
そしてギリシャ発のユーロ危機が起きる。その時にEUにおける加盟国間の財政支援を禁止する「非救済条項」が、さらに問題を大きくした。
その結果なにが起きたかと言うと、返済の可能性がないギリシャへIMFの融資が行われた。要するに独仏の銀行は持っていたギリシャ国債を売り逃げし、IMFが肩代わりした。
更に、ユーロ圏ではないが、欧州が行け行けドンドンで進出したウクライナでもIMFの融資がなされた。しかもロシアと戦っている国からの返済は絶対にあり得ない。
この理由は、IMFが戦後すぐの指導体制を引きずっており、現在の出資額とは関係ない形、つまり現在の経済力に応じた形になっていない。それで欧州各国からの圧力で、IMFのフランス人のリーダー(クリスティーヌ・ラガルド)が、ギリシャに投資した独仏の銀行を救済したり、欧州の東側ボーダーをロシアの軍事的脅威から守ったりしている。その金は戻らないにも関わらず。
なるほど! これで昨年3月(2015年)にドイツのメルケル首相が、7年ぶりに日本(IMFへの出資額は2位)に来た理由が分かった。
そして、最後に中国が何故AIIBを設立したかに話しが及ぶ。つまり中国はIMFや世界銀行、アジア開発銀行において、その経済力に見合った発言力がないことの不満があり、中国の実力に見合った発言力の確保が、AIIBの設立理由だろうと著者は言う。
全般に非常に面白かったが、ユーロの成立とギリシャのユーロ加盟については、私は著者と見解を異にする。
ユーロの設立は、そもそも第2次大戦後、米ソの谷間で欧州が埋没するのを避けるために設立されたと思う。
そしてギリシャ加盟については、著者は戦略のなさから加盟させたと言っているが、経済学の立場からはそうだと言えるが、私はギリシャのユーロ加盟は極めて政治的判断で決定したと思う。
元々ギリシャがオスマン・トルコから独立戦争を経て1822年に独立するに当たって、当時の英露仏独等の欧州各国が、援助して独立させた訳だし、ギリシャには観光と農業以外に何もないのは、最初から分かり切ったことである。それをわざわざ加盟させているのは、経済的な観点ではなく、政治的な観点からなのは、はっきりしている。
そういう意味では、ドイツは加盟国間の財政支援を禁止する「非救済条項」に隠れて、支援しないということの方が問題だと思う。しかもユーロのお蔭でドイツは国際競争力を得ているのは事実である。