紙の本
記録としての写真の力
2021/12/12 13:16
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
いまやウサギの島として有名になった広島県の大久野島。しかしこの島はかつて、秘密裏に毒ガスが製造され、軍事機密として「地図から消された島」でもあった。そんな島の歴史を、いまは知る人も少ない。
森村誠一氏の「悪魔の飽食」などで日本の毒ガス製造については一定に知られるようにはなった。1990年代に積極的に、日本の戦争加害責任について目が向けられていたころには関連本が多く出されたものの、いままた注目されなくなり、風化している戦争の記憶の一つであろう。
というのも、毒ガス工場で製造に従事した関係者、その家族らの多くは亡くなっている。
本書は、今はもう聞くことができない関係者の姿や生々しい証言を捉えた貴重な資料と言える。長年取材を重ねた著者ならではの一冊だろう。
毒ガス兵器が、どれだけ非人道的なものなのか、それを知らずに携わらされた人たちが、どれだけ悲惨なその後を生きたのか、そしていまどうなっているのか。著者が何度も使う「棄民」という言葉が、胸に突き刺さる。
増補新版と言うことで、風化の現状も含め、写真で伝えている。
「毒ガス棄民」の歴史をもう一度、認識していただきたい、という著者の叫びが伝わってくる。
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大久野島での毒ガス製造の証言として立派な本だと思う。(ただし本書の政治思想は偏重があることに、客観的に読まなくてはいけない。)
毒ガス製造に携わった全員に救済認定があったわけではなく、学徒動員を含む多く人々が認定されず後遺症で苦しんでいた事実に胸を痛める。一般疾病との区別識別に難航したことも想像しうる。
戦争という過ちは人間が人間を傷つける。人間が集団となり国家を標榜すれば、誤ったことを人間に押し付け得る。一方、国家の保護のもと安全な暮らしができる現在がある。誤解を恐れずに言うなら国家は人間にとって脅威とも保障するものともなり得る。
令和という時代を迎えて1冊目がこの本であることはとても重い。祝福ムードであるけれども、過去には戦争がありお国のためと犠牲になった人たちやその子孫の懸命な働きの上、今本を読むことのできる時代があることを肝に銘じようと思う。
原爆の広島が注目されがちだが、かつて地図から消された大久野島の存在も世代を超えても忘れずにいてほしい。
2019/05/03 16:55
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本書は、原発や公害などを題材にしたドキュメンタリー写真を撮影している写真家、樋口健二氏のモノクロ写真と被害者のインタビュー、広島大学教授や病院の院長による寄稿などで構成されています。
この毒ガス工場に関する重要書類は敗戦と共に焼却されたため、正式な従業員等の名簿は存在していません。
そのため、毒ガス後遺症の研究を進めるにも苦慮したようです。
一部の元従業員から情報を募り、人づてにかき集め、調査が進められたとのことです。
また、元陸軍でこの工場で指揮にあたっていたかたは当時を振り返り自責の念を抱きつつ、「被害者自身も今少し被害者意識に目覚めて欲しいのです。戦時中に政府が地図からこの大久野島を抹殺した力は、いままたその事実すら末梢しようとしているのです。」と語っています。
戦時中は誰もが「国のため」に悲惨な体験を強いられ、重要な事柄は秘密にされ真実は明かされず、そしてその証拠となるべき書類などは全て廃棄されてしまいました。
倫理や人権をないがしろにする国家は責任など取ろうはずもないし、弱者を力でねじ伏せることを何とも思わない。
しかし一方で、
「あんなにも造作なくだまされるほど批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになつてしまつていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである。」
と、故伊丹万作氏が「戦争責任者の問題」で書いた頃と今の我々は変わってきたでしょうか。
同じような悲劇を繰り返さないためには、私たちはどうしたらいいのでしょう。
今、まさに個人がそれを真剣に考える時がやってきているのではないか。
そんなことを強く感じさせられた一冊でした。
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現在ではウサギの島として広く知られているが、かつては毒ガス製造のための地図に載らない島だったというのも反戦教育界隈では有名だった広島県・大久野島。毒ガス製造従事者が肺病を患い一生をベッドの上で過ごし死ぬまで一日中痰切りだけして過ごす、あまりにも残酷な写真が多数収められている。絶対に見て欲しい。