紙の本
星に親しむ者の生態と時めきがよくわかる随筆集
2019/07/05 15:03
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
評者たる私が双眼鏡で木星と四大衛星を覗き見て、反射望遠鏡で赤銅色に染まる皆既月食を観測したのは、43、4年も前の中学3年生か高校1年生の頃になる。
随筆集の本書を読むと、星に親しむ者の生態が赤裸々に描かれていて、著者が関東大震災や大東亜(太平洋)戦争の時代に夜空を見上げていた事実に驚嘆せざるを得ない。
予備知識のない初心者に望遠鏡で土星を覗かせて、その反応を見たり印象を聞くのを愉しみにしているという文章に出逢った私は、にやりとした。土星の環を初めてレンズの視野に捉えたときの、芯からうち震える時めきが今でも忘れられないからだ。
天文観測の大先輩は明治43(1910)年のハレー彗星大接近を体験されており、昭和61(1986)年のそれが期待外れだったので、私はとても羨ましく感じた。
哲人カントは「我が上なる星空と、我が内なる道徳律」を賛美し、隣国の詩人 尹東柱(ユン・ドンジュ)は「星を歌う心ですべての絶え入るものをいとおしまねば」と詠んだという。
著者の野尻抱影は、昔も今も、そして相当な時間の流れにも変わらぬ姿を留める星々の「ささやき」に耳を澄ませ、星座との再会に心を躍らせ、無窮の宇宙に思いを馳せる贅沢を身をもって知っていたのだ。
「たまには天地が転倒して人間が逆立ちし、今にも星空へ墜落しようとする錯覚ぐらいは時々感じていい。それだけでも、人間を謙虚にする足しにはなるだろう。」
「「星が降るようだ。あしたの朝は霜が強かろう」こう言って忙しく雨戸を繰る声を聞く時ほど、冬の星の凄じいばかりの美しさを思うことはない。」
「星の静かなきらめきには、いわゆる「ささやき」を思うが、それが忙しくなるほど、声が聞えそうな感じもしてくる。」
人は、星空を見上げるから詩人になるのか、詩人だから夜の星を眺めてしまうのか…。
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読み終わるまでに時間がかかってしまいました(^^;;
内容が多岐にわたって注釈だけではフォローが追いつかず、いろいろ調べながら読みました。
星空とその下での自身の体験をこんな風に叙述できるプラネタリアン、目指したいですね。
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素敵な本です。
星空を語る人の穏やかさ。星のように静かにちかちか瞬くような美しい言葉で優しさに包まれます。
しかしそのほとんどが1945年に書かれた文章というのは不思議で仕方がない。あるいはそこに変わらずあったのは星々だけだったのかもしれないけれど。
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本文とは関係ないが、
電気の無い時代。薄暗い朝から働き、暗くなると休む生活をしていたと思われる頃。
真っ暗な夜に眩しいほどの星が輝き、微妙な光り方の違いを感じつつ結びつけ、色々なストーリを作り出していたんだろうと思った。
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【大西浩次先生】
平凡社から、昨年12月より「知のスタンダード」となる「STANDARD BOOKS」シリーズの刊行が始まった。寺田寅彦、岡潔、中谷宇吉郎、朝永振一郎・・・近代日本を支えた指折りの科学者たちの随筆が紹介される。このスタートの中になぜか科学者ではない「野尻抱影」がいる。彼は、戦前戦後の時代の星の文化人として有名であった。この文化人が当時の天文学をどのように捉えていたか、叙情豊かな文章の中で展開される。また、無常な時代の中で、星空の悠久さを、時には尊び、時には腹立たしく思いながらも、星を愛さずにはいられない彼の姿が見受けられる。学問的な内容は古くなっているが、彼の感性は今でも共感できる。なお、この解説はあの宇宙物理学者の「池内了」である。いつもは知的な彼の文章が、非常に叙情的になっているのもまた面白い。この本を初め、これから刊行されるシリーズをぜひ手にとって頂きたい。
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文章が、とても普通。読みやすいというか、普通なのだ。
良い意味でなのだけど、驚くほどに普通。
そして、明治生まれとは、とても思えない。
でも、内容は、全く普通ではない。
文学を元にした教養の広さ、そこから派生する星への考察。
そのギャップが何とも不思議な空気感を醸し出している。
何より、星に対する愛情が満ちあふれている。
本当に、好きなんだなあ。
科学としてではない、星の楽しみを感じる。
なんとなく、夜空を見上げたくなる一冊だ。
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190927*読了
野尻抱影さんの文章を読んでみたいと思い続け、やっと念願叶いました。
ここまで星を愛せるってすごい。空に輝く一つ一つの星を慈しむ気持ちがひしひしと伝わってきました。
野尻さんのおっしゃる通り、何百万光年の星の輝きは、今見ている星の光なのに、その光自体は何百万年も前のものって、当たり前なんだけど感慨深い。そんな昔の光を自分が見ていると思うと、なんとも言えない気持ちになります。
自分たちが生まれて死に、どんな苦しみや喜びを味わっている時も、星は変わらずそこにある。その雄大さに胸打たれます。
季節によって見られる星が違うので、星によって秋が来た、冬が来たと実感したり、半年ぶりにその星を見ることができて、久しぶり、と思ったり。あーロマンチック。
野尻さんの生きていらっしゃった頃よりも、この日本ではさらに星が見にくくなってしまったけれど、今日はのんびり夜空を見上げて、星座を結んでみようかなと思います。
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装丁の美しさに惹かれて手に取った一冊。
冥王星の和訳命名者で、天文随筆家である野尻抱影さんの作品。
1930年から1946年頃にかけて書かれた随筆を集めたもので、明治生まれとは思えないくらい、現代人の私でも、とても読みやすかった。
星に対する知識も豊富で、読み物としても素晴らしかった。野尻抱影さんの星に対する親愛の情が、ひしひしと伝わってきた。
今のイスラエル辺り、古代カルデアの人々が眺めた星空と、明治生まれの野尻抱影さんが眺めた星空。そして今を生きる私たちが眺める星空は、そんなに大差はない。
そして遥か悠久の時を経て、昔からやってきた光が、今の私たちが見ている、星の輝きであることは、周知の事実である。
それを考えると、小さなことでくよくよするなんてな、と思わせてくれる1冊だった。
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1977年(昭和52年)没の天文随筆家による短編50遍あまり。書かれた時代は戦前から戦後にかけて。甲府で先生をやっていた時代の思い出話から、東京郊外で暮らす家の庭から見る星の話など。
星の話なので基本的には夜の話。ただし季節は四季すべて。当時の東京市の夜空がまだ暗かったことが想像できる。
冬のグラウンドでボールを探しながらみた空にオリオン座がでかく出ていたときの冷たい空気を思い出した。
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プルートの和名「冥王星」の名付け親にして古今の星の名前を収集した随筆家野尻抱影のエッセイ。
オリオンやベガを季節ごとに訪れる旧友のように懐かしみ、
戦前の友との思い出や登山で見た星の輝き、ギリシャ からベツレヘム、中国、砂漠を旅するベドウィン、日本の船乗りの間での星にまつわる逸話と自身の回想が叙情的に綴られる。