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瀬戸内にある白綱島。島に囚われた人、出て行った人、暮らす人……、様々な人の、島に対する思いを描いた連作短編。
やっぱり湊さんの、人間心理のひだの描き方の巧さはすごいです!
「みかんの花」で描かれる、島を出て行った姉の成功を妬む妹の心情の描き方もさすがなのですが、島民と島を出て行った人の、”島”に対する思いの温度差の描き方がまた巧いです。
白綱島は市町村の合併で、島の市の名前が「白綱市~町」から「O市白綱~町」に変わることになり、島を出て行った人は「故郷が失われる」と嘆くのですが、島民は「名前は残るし、合併といっても予算がつくわけでもない」と冷めた様子。そこの温度差を描くあたり、湊さんの人間観察眼が表れているなあ、と思います。
島というのは言ってみれば共同体なわけで、そこにはいいところも悪いところもあります。「夢の国」の古い家思想に凝り固まった祖母、「蜘蛛の糸」の主人公が成功者になったとたん、デリカシーもなく近づいてくる島民たち、
そうした人が近いゆえの息苦しさも描かれます。
その一方で「海の星」、「石の十字架」といった人間関係が近いゆえに生まれた謎と人間関係も描かれます。
人間の暗い面の描き方もさすが湊さんという感じですが、「海の星」「石の十字架」「光の航路」、そういった人の優しさや切ない真相が描かれる短編も佳作揃いです。「蜘蛛の糸」も息苦しさもあるものも、真相が明かされるとまた見方が変わります。
やっぱり湊さんといえば『告白』で描かれた”イヤミス”のイメージが強いですし、まだまだその切れ味の鋭さは健在ですが、
徐々に人間の優しい面、切ない面を描いた作品でも印象的な作品が増えてきていて、ますます湊さんの今後の作品が楽しみになってきています。
第65回日本推理作家協会賞短編部門「海の星」
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白綱島を去ったひと、残ったひと、去ろうとするひと。それぞれの人生を描く。
故郷が良いものだと言うのは、ひとによって受け方が違うと思う。みかんの花に登場する姉は島に愛想を尽かして出たと言う。しかし、実際にはひとには言えない理由があり。と言う話。ひとの感情は一言でははかり尽くせないと思う。
美しい思い出も悲しい思い出も全て包み込んでくれる、それが望郷なのかなと思いました。
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白綱島という瀬戸内の海に浮かぶ島が舞台の六つの短編。
【望郷】というタイトルは登場人物達の思いか作者の想いか・・・
【みかんの花】で言っていた出ていった人達の勝手な思いと、残ってる人達の温度差って『あるなぁ』と思います。
【夢の国】の主人公のお母さん『いるなぁ』って思えます。
【光の航路】の深田碧の母親は本当にいそうで近くにいたら『やだなぁ』って感じます。
全編通してイジメの事が多く取り上げられていましたが、湊かなえさんの小説を読んでると、自分の子供が将来、理不尽にイジメられたらと何度も思ってしまいます。
イジメが無くなれば良いとは思いますが、世界から戦争が無くなる以上に難しい事だと思います。
【光の航路】と【石の十字架】を読んで、主人公達のように、せめて自分がマトモな親であり人で在りたいと思いました。
【みかんの花】と【海の星】は湊かなえさんが腕をさらに上げた!と思わされるミステリーです!
【雲の糸】と【石の十字架】はミステリーである事より心を揺さぶられるお話です。不覚にも涙が出ました。
文藝春秋から出す時の湊かなえさんは◎
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これがミステリーに分類されるのかは微妙。湊作品王道のイヤミスではないけれど、人の心の中にあるもやもやっとした言葉にしないような思いを文章化するのが本当にうまい人だと思う。同世代で田舎出身なのですごく共感できるところがあった。短編が最後繋がるかな?と期待したけれど、無理矢理繋げると嘘くさくなるからこれでよかったのかな。
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閉じられたムラ社会の複雑な人間模様。ミステリーの様な心地よい裏切り。何でしょう、このドロドロ感。テンポよく読めました。
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人は希望を託され
海に乗り出す。
誰もが祝福を受け、
ゆっくりと人生発つ。
それぞれの海を進み、
やがて大海原へと漕ぎ出す。
いつか港に戻るまで
ひたすら櫂を漕ぎ続ける。
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弱い人々がさんざん苦しめられ、追い込まれてるいく様を書かせたら、この作家はかなり上手いと思う。
読んでいて少し辛くなる場合もある。
ミステリーというよりは、「えっ、」という驚きのある小説という感じがした。
「みかんの花」「海の星」「雲の糸」が良い。
他の作品は自分としてはイマイチだった。
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2016 2/1 読了
1つの島を舞台にした、短編集。
1つ1つが短いのでとても読みやすい。
そして、良い意味でも悪い意味でも島への『望郷』の想いが伝わる。
読み終わって、あ~なるほど!と思う所も有り、面白かった!
何度も読みたい!と思うタイプのストーリーでは無いが、スラスラ読めるので楽しい。
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故郷とは、必ずしも自分にとって心地よい、良い場所ではない。
白綱島を舞台に、島を出ていった人、残った人、戻ってきた人、新しく移住してきた人、様々な人が島に対して思いを背負って生きていることが描かれている短編小説。
どの短編も構成、心情描写等レベルが高く、最後の数ページでの謎が明かされる所は、えっ…という感じで驚かされた。小説として高い次元にあるものだと感じた。
その中でも一番深く考えされられたのは、『雲の糸』という短編だ。母が父の暴力に耐えかね殺してしまい、主人公は島で高校卒業までずっといじめを受ける。その後東京に出て、歌手として大成功し、島の人達から掌を返すように島へ戻ってきてイベント参加を求められる。母と姉を島に残している主人公は、彼女達を人質に取られているように感じ、あるいは母の夫殺しの経歴をばらされる雰囲気もあり、渋々行くことになる。島へ戻ってきて、主人公が感じるもの。夫殺しの母の本当の思い。自分の心の中に刻まれた話だった。
湊みゆきさんの作品はミステリー要素が強いのかな?と思ってあまり手をつけなかっただが、(推理小説あんまり好きじゃない)この『望郷』を読んで、他の作品も読んでみようと興味がでてきた。
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瀬戸内海にある白綱島を舞台に、島に残った人、島を出て行った人、島にやってきた人などそれぞれの思いが交錯する、ミステリー要素のある短編集。
あらためて、湊かなえさんは人間の心の奥に積もっている澱のようなものを描くのが本当に上手いと思う。上手すぎて、例えば島の閉塞感であったり、卑屈ともいえる鬱屈した感情がじわじわとせまってくるので、後味はあまりよくない。すばらしい筆致だと思うし、湊さんの読後感の良い他の作品よりもお話としての完成度も高いと思うので、これこそが「イヤミス」本領発揮なのかと。
自分が閉鎖的な土地で暮らしたことがないので、どのくらいのリアリティがあるのかはわからないけれど、もしも本当にこんなに閉鎖的な場所があるとするならば、暮らしていくのはかなりしんどいだろうな。でも、「海の星」「石の十字架」などは、人のつながりや静かな情を感じられて、ほっと気持ちが和む。
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島で生まれ育った人々が語る6篇のエピソード。限られた生活圏における閉塞的な人間関係は深い親密さと共に、時として強い嫌悪感をもたらす。そんな状況にあって心の闇から起こるそれぞれの事件は暗く重たいものだが、著者には珍しくどこか希望の光をのぞかせる結末が救われる。
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凄かった。
短編ひとつひとつが重たい。なのにどんどんページを捲らせる。暗めで気が滅入るのに読んでしまうし、最後に少し光(救い)をくれるので嫌な印象が残らない。
どの主人公も瀬戸内海にある白綱島の関係者で、島に寄せる思いは愛着であったり、憎しみであったり。
そこで織りなす人間関係がその場所の記憶となっている。
読んで受けた印象は正直、湊さんはご出身でもあるモデルの島があまり好きではないのかな、と複雑な気持ち。
物語自体は驚く展開もあり、伏線もあり、心理描写も巧みでとても面白かったです。
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湊かなえならではのイヤな文章もあるけど、これは読後感はそこまで悪くなかった。
でもいつもの読後感の悪さを求めると、全然満足できない。
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白綱島という架空の島を舞台にした、連作短編集。
島のモデルは著者の故郷の島だとか。
湊かなえらしい、人間の心理の奥底を穿り出す、ミステリータッチの6作品。著者の作品は、しばしばイヤミスの類型に括られがちだが、それぞれにに救いがあり、けっして後味は悪くない。
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短編集はあまり好きではなかったが、一つ一つの話が濃く(そして重く)、次々とページが進んだ。
白綱島を舞台に、島を出て行った人、残っている人、戻ってきた人、新たに来た人、と様々な人の視点からいくつもの物語が紡がれている。