紙の本
夫婦は異類にはじまり同類へと変化する
2016/01/31 21:55
8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:山好きお坊さん - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルが良い、読みたくさせる猥雑さがある。
超美人ともったいなくも離婚したパッとしない男と結婚して専業主婦で暮らす容姿の普通の女性が夫婦生活の進むにつれ、夫婦二人の顔が変化して似てきたことに驚く。夫の顔の鼻や目や口が時として勝手に崩れるがごとく位置をずらす。妻サンちゃんの注視に気づくと慌てて正位置に戻る。このころから旦那は人間ではないのではと思い始めた。物に憑かれたように携帯ゲームに興じたと思っていると、今度は今までしたこともなかった揚げ物調理に凝る。体調不良を理由に頻繁に会社を早退するようになると、美人な元妻とよりを戻そうとしているのかとサンちゃんは疑心暗鬼になる。耐えられず、旦那に「あんたのすきなものになりなさい」と問い詰めると、なんと旦那は、山芍薬に変じてしまう。サンちゃんは、キタヱと猫のサンショを捨てに行った群馬の山奥に、その山芍薬を植え、時々会いに行く。
怪異譚だが、作者は何を言いたかったのか。世間でいう「夫婦は似てくる」ということをベースに、似てくるには理由がある「楽に生きるにはツレアイの姿に同化すればよい、意見でも過ごし方で目立つ差異には「角がたつ」。夫婦とはいえ所詮他人同士、波風立てないほうが気は楽だ。そう考えた方が一方にドンドンと食べられるがごとく自分を喪失させ、無意識に相方に似せていく。 本書では、似ていくことを気取られ、「似るのではなく、好きなものになれ」と怒鳴られた亭主は一輪の白い花を抱く山芍薬になった。ラストに清涼感が漂う、読後しばらく瞑目して、わが夫婦のあり様を思った。
紙の本
面白く読めました
2016/06/16 20:37
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第154回芥川賞受賞作。(2016年)
気がつけば夫の顔が日常の怠惰で崩れている。いつしか妻である自分もその夫に似ている。
説話のような暗い骨を抱えながら、けっして深刻ではなく、読み終われば温かな感情が残る。
選考委員の一人川上弘美さんが好きな世界だが、その選評ではこう記されている。
小説では「何」を「どのように」書くのかが大きな問題でこの作品の場合、「何」と「どうやって」の協同があった。それが余りにきれいすぎて「のび」がなかった。
もちろん、川上さんの評価は前半部分で満ちているようで、この作品を推したとある。
では、「のび」とは何であったのか。
これはこの作品の作者本谷有希子さんの資質とも関係しているような気がする。
本谷さんはすでに劇作家としての評価も高く、劇の構成上、まとめるということが必然である。「のび」は舞台上にはなく、観ている観客側にあるのではないかと思う。
そのあたり、やはり作家と劇作家の違いが出ているのではないか。
同じように同じ異界のような物語を描いても川上さんの世界観とはかなり相違しているのも本谷さんの個性だろう。どれだけ異様な世界であっても最後には放り出せないものとしてしか本谷さんは書けなかったのだろう。
この作品は芥川賞を受賞したが、一歩線を足したり引いたりすれば直木賞の世界でもおかしくなかったようにも思えた。
だからなのか、読後には物語を読んだという満足感が残った。
最近の芥川賞受賞作でも出色の好編だろう。
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第154回芥川賞受賞作。
はじめに、わたしは本谷作品のファンです。彼女の作品はほぼ読んでます。
これは率直に面白かった。
表題作で、芥川賞受賞作の異類婚姻譚がやはり面白かった。
似てくる夫婦っていますよね。昔は似てなかったのに、パーツパーツは全然違うのに、全体の空気感がとても似ていてそっくりな夫婦。周りにもいます。
子なし、仕事もなし。バツイチの旦那と結婚して四年になる専業主婦はある日自分が夫そっくりになっていることに気づく。そらからの奇妙な話、ところどころのスパイス――例えば映画を撮るのが夢である弟の彼女の「うちではいつもお腹膨れさせるために、キャベツ、食べさせられてるんですよ。おかずすくなくなっちゃうからね、キャベツで私がかさ増ししておくんです。だから私、センタってキャベツの映画撮ればいいのにって思うんですよねぇ」
とか、すごい皮肉で笑ってしまった。キャベツの映画って!
ネタバレになるけども
ラストの、妻そっくりの姿になった夫に、あなたは好きなものになりなさいと言い放ち、なったものが山芍薬なことがまた、ぞわーってなりました。
毎日4年間顔を合わせている家族の顔、わたしはきちんとした容姿を思い浮かべることができるのかしら。そして毎日顔を合わせている家族のなりたいものや欲しいものをわたしはきちんと知っているのかしら。や、知らないな。
そしてその1年後の山芍薬、そして隣に咲いていた紫色の竜胆のそっくりさがまた不気味で。。。
わたしはぶっ飛んでる作品を描く本谷さんのファンですが、これは面白かったな。文学的なんだけど相変わらず発想がぶっ飛んでるもの。
その他の収録されている短編で藁の夫は他のアンソロジーで読了済でした。どれも奇妙な話でわたしは好きです。
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群像の2015.11掲載で読了。
「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」
結婚4年の専業主婦 ―― サンちゃんを主人公に、元は赤の他人である男と女が一つになる「夫婦」という形式の魔力と究極の違和感を毒のあるユーモアと本谷らしい猛毒を込めて描く短編作。まさに人類ではなく異類の婚姻状態の物語だ。
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表題作の異類婚奇譚はとにかく生理的に気持ち悪くて仕方がなかったし、オチもなんだかよくわかんない感じ。
犬たちはどこか映画版のサイレントヒルじみたラストで個人的にはとても好きたけど、結局雰囲気話だからもやっとして終わる。
今作は多分日常の中に溶け込んだ不思議を描いていて、真相は全部読者の想像に任せますって感じのスタンスなので、もやっとしたり、何これって感じるのが多いのだと思う。
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不思議で、ちょっとこわい話。夫婦の関係性で少し共感できる部分もあるけど、最後がすごくて、理解できなかった。
ほかの話も、どれも、本当にわからなかった。残念。
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夫婦の幸せってなんだろう。
→https://ameblo.jp/sunnyday-tomorrow/entry-12130585254.html
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群青11月号にて。
結婚してた時、何気ない仕草や口振りや考え方が、あ、今旦那と同じようだったなとふと感じた時、めちゃめちゃ怖かったのを覚えてる。その感覚を思いっきりブラックにめちゃめちゃニヒルにちょっと山椒を振り掛けた感じ。
私は自分が曖昧なのをしってて、だから他人にすぐ染まる事もわかってて、でもそれを怖いと感じる。いっそあなた色に染まりたいと歓喜出来たらいいのに。
無理だった。
でもきっと染まらない結婚も私は出来ない。
だから無理。
つまり再婚無理。
やだ残念。
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短編集。表題のみ読みました。
結婚4年目、妻は夫と顔がそっくりになっていると感じ驚愕します。
自分の夫だから守ろうとも思えるし相手の気持ちを汲もうと妻は努力はします。しかし“本当のところ”何を考えているか知るのは本人ばかり。長く一緒に暮らす中で、互いに見て見ぬふりをする部分もあります。触れまいとかぶせていたはずの蓋。それが突然外される、あるいは開けざるを得なくなった瞬間の恐怖。
そこはかとなくホラーな雰囲気をまといながら、とある夫婦の在り方を毒気たっぷりにあぶり出した作品です。
しかしこのラストはちょっと理解が難しい。ガッと首根っこを掴まれてポイッと捨てられる。それくらい置いてけぼりを食らった気分です。著者の作品らしいと言えばらしいのだけれど。
興味深いテーマで途中まで面白く読めていた分この最後をどう解釈すれば良いか悩みどころですが、何となく勿体ないなぁという印象。噛み砕くには少し時間がかかりそう。
~memo~
異類婚姻譚: 人間と違った種類の存在と人間とが結婚する説話の総称(wikipediaより)
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夫婦の顔パーツがずれ、お互いに似てくるという話はどこか怖いと思いながら興味深く、テンポよく読み進められたが、神経症的な夫と猫を捨てる夫妻、最後の夫の変身(?)の関係性がわからなかった。「譚」というものを「奇妙な話」と解釈したので結末の奇妙さはなんだか怖い話だったね、と自分を納得させることもできるが、「え?どういうこと?」と疑問符がたくさんついてしまった。
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三冠達成おめでとうございます。
凶暴さがなくなった、と言われたそうですが、
確かに芥川賞候補になっていた過去の作品にあったような「最後に大暴れ」の展開はなく、
終わりがない日常の一部が、静かに切り取られてあった。
むしろ川上弘美とか多和田葉子のような妖しさ、艶めかしさがあって、
あんなにムチャクチャだったあの娘たちもなんとか生きていく方法を見つけたんだな、と、
昔読んだ小説の主人公たちに、勝手にシンパシーを感じたりした。
変わったのは「凶暴さ」だけではなくて、
フラストレーションをただぶつけるだけだった彼女たちが、
「聞き役」に回っていることもそうだろう。
昔の彼女たちの側にはいつも家族や恋人がいて、
生温かい目で見つめるその人たちに、なんだかんだ救われてきた。
今度は彼女たちが、誰かを救う番なのだろう。
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芥川賞だったんだと読み終わって気づく。
よくわからないけど、一気に読める面白さを持っていた。よくわからないけど、この発想はすごいなと思ったし、本谷さん自身に興味を持った。
そういう意味では良い本なんだと思う。
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芥川賞受賞作ということで読んでみた。
最初は、特に進展がわからず面白さを感じなかった。
しかし、後半はどんどん話が進展して行った。
少し怖さを感じた。
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第154回芥川賞受賞作。別に芥川賞受賞作は全部読んでるというわけではない。むしろ、ほとんど読んでいない。調べてみたら、第75回(1976年上半期) - 村上龍「限りなく透明に近いブルー」以来読んでいない事がわかった。若い頃は自分のリズムに合わなくても読み通せたけど、この約40年間は、自分の気に入った文章だけを時には繰り返し読んできたわけだ。(何をかいわん)。本作を読んでみたのは、齢60を超え、まさに「耳順(六十にして耳順(したが)う)」 に至ったんでしょうかねぇ。
本作は、日常生活の中での何気ない違和感、自分のアイデンティティの不安定感を主婦らしい感性で捉え、軽妙な文体で表現した佳作。表題作以外に「<犬たち>」「トモ子のバウムクーヘン」「藁の夫」の3編が収められているが、基本を流れるトーンは同じ傾向の作品。それなりに楽しめます。
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(2016/10/6読了)
本谷さんってこんな感じの話を書く人なのかな?
オカルト?私には理解できなかったなぁ。
特に、バウムクーヘンは、全くわからない。
最後の藁の夫は、読んだ記憶が蘇って(変愛小説・アンソロジー)最後まで読まなかった。
もう、タイトルが気になっても、本谷さんの本を手にとるのはやめよう。
(内容)
子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。「夫婦」という形式への違和を軽妙洒脱に描いた表題作ほか、自由奔放な想像力で日常を異化する、三島賞&大江賞作家の2年半ぶり最新刊!
(目次)
異類婚姻譚
〈犬たち〉
トモ子のバウムクーヘン
藁の夫