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通説を覆す新解釈。秀吉は甥を殺すつもりではなかった。421年目の謎解きに挑む。(2016年刊)
・はしがき
・序曲ー崩壊するシナリオ
・Ⅰ 豊臣政権の評価と「秀次事件」
・Ⅱ 事件の概要と疑問点・矛盾点
・Ⅲ 秀次の前半生
・Ⅳ 丸一ヶ月に及んだ「修羅場」
・Ⅴ 「イメージ」の源流を探るー「秀次事件」像の分水嶺
・Ⅵ 秀吉は切腹を命じたのかー「甫庵太閤記」と秀吉朱印状写の矛盾点
・Ⅶ 秀次切腹の衝撃ー後付けされた罪状
・終曲ー二つの「冤罪」ー
・あとがきにかえてー「秀次事件」騒動、その後ー
大変面白い本。史料を駆使し、通説の見直しをはかる過程は、良質なミステリーを読むようで楽しく、説得力を感じる。丁寧な論考で、牽強付会に感じないのも良い。残念なのは、福島正則について論じているところが弱いこと。正則が秀次切腹に大きな役割を果たしたとするが、三成が正則を警戒したと言う点も含め、推測が過ぎる気がする。本書は豊臣政権を考える上で、必読の1冊と言える。
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メモ
秀次の切腹は、実子誕生で耄碌した秀吉の主体的指示という通説に対して、本書では史料を駆使して禁固刑という命令の前後に秀次が抗議で切腹したとされている。また、高野山入山も「追放」ではなく、「出奔」とも。
秀次の切腹が想定外だった政権が、方針転換で秀次の妻子三十余人を殺戮したこと、上使を務めた福島正則と石田三成の関係、高野山と京都との距離や情報の伝達速度、秀次が切腹した高野山青厳寺は大政所の菩提寺だったこと等にも触れられている。
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「豊臣秀次事件」の新説。秀次切腹前後の状況を徹底的な史料批判で見直し、秀吉による高野山居住命令はあっても切腹命令は存在せず、謀叛嫌疑に対する潔白を訴えるための自発的な切腹であったとする。後世の創作はむろん、同時代史料であっても間接的な情報を捨てた考証には一見説得力はあるが(あまりに微細な矛盾を重視し過ぎて歴史学というよりまるで推理小説だが)、「切腹命令の不存在」という実証と「秀次の切腹は秀吉にとって想定外」という推論の間には飛躍があり、潔白を訴えるという切腹目的の現実性も疑問である。秀次の「禁固」程度で豊臣秀頼への後継一元化が可能であったか?という問題を明らかにしない限り、単に切腹命令の有無だけでは秀吉側の未必の故意を含む「殺意」を否定したことにはならないと思われる。