投稿元:
レビューを見る
人類がなにか途方もない変化を経験した後の世界。そこには牧歌的な日々の営みがある一方で、静かな絶望のような空気が支配している。
不思議な雰囲気に浸ってとりあえず満足、みたいな作品かな? ...と思ったのは中盤まで。壮大なプロットの全容が明かされ、ついに冒頭に回帰するクライマックスは一気読みでした。そこからもう一回読みたくなる。
タイトルが意味するのは...? 物語の微妙な空白を、推測で埋める読後の楽しみも。これぞ徹夜本。
投稿元:
レビューを見る
女性の発想するSFはおもしろいねえ。
連作短編とでも言うのかな。
インテリジェント・デザイン?な話かなと思ったけど、タイトルになった表題作あたりで種明かし的なエピソードが続いてからは一気につまらなくなる。
どこかできいたような話の寄せ集め。全体を貫く大きなテーマもなかったのか、あっても曖昧で伝わらない。あるいは世界観が小さい、陳腐。
期待したけど、残念。
投稿元:
レビューを見る
・私はこれからも生まれ続けるけれど、私はもうじき死ぬ。たくさんの見知らぬ私たちに向かって、私はもう一度、さようなら、と声に出さずに言い、服についた淡雪をていねいに払った。
・あれだよ、きっと、そいつは、誰かに聞いてほしいんじゃないかな。自分の思っていることを。聞いてほしいけど聞いてもらえない時に、人は見知らぬものに呼びかけるんだと、おれは思うよ。その呼びかけを、おれはとらえる。光を浴びながら、夜露に濡れながら、吹く風を感じながら。
・ノアから心が離れれば離れるほど、あたしはノアを愛するようになっていった。ノアは、あたしの鏡像だった。あたしにそっくりで、あたしとは正反対のもの。かわいそう、とノアのことを思った時から、ノアへのあたしの愛は育っていったのかもしれない。ノアを愛する心もちは、母たちがあたしを「愛する」心もちと、とても似ていた。
投稿元:
レビューを見る
ある章では人を憎むという意味がわかった、明らかになった、と思ったが、実はそれは永遠にわからないことなのであった…全編を通して昔のお話なのか未来のお話なのかとっても不思議な気持ちになる物語です。
投稿元:
レビューを見る
近未来小説というのだろうか。滅亡の危機に瀕した人類の壮大な実験・・・・なのか。
一言で言うなら不穏、ざわつきを禁じえない。
投稿元:
レビューを見る
とってもとっても面白かったです。
本を閉じることができなくて、ずんずんと読み進めてしまいました。
初めて川上弘美さんの本を読んだ時の衝撃を思い出しました。その時からだいぶ年を取ってその分たくさんの本を読んできましたが、その時以上の衝撃を同じ作家さんから受けるとは思いませんでした。文句無しの星5つ。人に薦めたくなる本です。
内容も構成も斬新で本当によくできていて、特に半分位から(読み手も作品の世界に馴染んで来たあたりから)怒涛のように展開していきます。
未来の地球を舞台に「人間」というものを描いていてとても興味深い作品でした。
これまでの川上弘美さんの感じとは割と異なっていて、もしかしたら川上弘美さんの別の感じが好きな人には微妙なのかも知れませんが、私は好きです。
投稿元:
レビューを見る
以下、新潮社「本」著者寄稿
====
未来の私たち 川上弘美 大きな鳥にさらわれないよう
こんな小説を書こうとは、思ってもみなかったのだ。始まりは、一昨年のお正月だった。かつて 『 変愛小説集 』 というアンソロジーを、翻訳家の岸本佐知子さんが編んだ。奇妙な愛、奇妙な恋を描いた海外作家の短篇の名アンソロジーである。その日本作家版を、岸本さんが指名した小説家たちが書き下ろしてみる、とい 1 っ企画のために、お正月までに「変愛」な短篇を書いたのである。変な愛。けっこう、得手かも。と思いながら、珍しくすらすら書いた。いつもならうんうんうなって苦しむ結末も、天から誰かが指示してくれたように、すとんと終わることができた。舞台は、何千年も未来。さまざまな動物由来の「基幹細胞」からつくりだされた人間たちが遺遥する世界である。おりしも、短篇の載った 『 群像 』 が発売された」月の末に、「STAP 細胞開発」の論文がネイチャー誌に載り、「そこからヒントを得たのか?」などと言われたことがあったのも、なつかしい(ちなみに、小説を書いたのは「 STAP 細胞」のニュースの前であり、「 STAP 細胞」とは無関係。「基幹細胞」というのは、「幹細胞」に一文字加えてみた架空の細胞名であります)。
無事に 『 変愛小説集日本作家編 』 の企画は終わり、この「形見」という短篇の世界から私は去ってゆくはずだった。ところが、なぜだろう、どうしても私は「形見」の続きを書きたくてしかたがなくなってしまったのだ。べつに、誰に頼まれたわけでもないし、たとえばその中のキャラクターが気に入ってしまってもっと活躍させたくなった、ということでもない。唐突に話は飛ぶのだけれど、東日本大震災で原発のメルトダウンが起こった時、さまざまなことを、日本中のみんなが考えた。新聞記事、本、ネット、知人の口から、直接に間接に、多くの見解や意見を見聞きした。そして私も考えた。いっしんに、考えた。ともかくどうにも妙だと思ったのは、使用済み核燃料を完全に無害にする方法は現在のところ確立されておらず、それならばどうするかといえば、地中深くに埋めたり街から離れたところに埋めたり海の底に埋めたり、といった、あまりにも迂閥としか思えない処理法が主であるらしい、ということだった。人類は、いつか滅びる種なのに。私たちの子孫が生きている間も、そしてやがてホモサピエンス種が滅びるだろう時も、どこかに埋められただろう使用済み核燃料は、たぶんまだ完全には無害になっていない。自分たちが死んだ後のことは、野となれ山となれ、というふうにしか考えていない人が多いのだとしか、思えなかった。おまけに、こんなことを言っている私だって、のうのうと原発に頼った暮らしをし続けてきた、「野となれ山となれ」の一人だったのだ。死を思え、という言葉があるが、個人の死だけではなく、種の死も思わなければだめなのではないだろうか?五年、十年、百年、という短いスパンではなく、さらに長い目で自分のいるこの世界のことを考えてゆくことが必要なんじゃないだろうか?その時初めて、思ったのである。「形見」は、偶然なのか、それとも無意識の引き寄せた必然だったのか、種の死を思うというテーマにつな��る世界を描いた短篇だった。震災以来思っていたことに、ゆるやかにつながってゆく世界。だからきっと、私は「形見」を書き終わってからも、そこから離れることができなかったのだ。やがて私たち人類が滅びるだろうその時、私たちはいったいどうなっているのだろう。どんな未来を生きているのだろう。そして、どんな死を迎えるのだろう。あるいは、まだ少し生きながらえてゆくことができるのだろうか、と。
連載している最中は、毎回ずいぶん遠い場所まで行っては帰ってくる心地だった。そして書き終わった今思うのは、私たち人類は、なんて幸運なんだろう、ということだ。地球に生まれ、増え、繁栄し、愛しあい、憎みあう、私たち。ただ生まれただ死んでゆく生物がほとんどであることを思えば、憎みあうことができることすら、幸運なのだ。その幸運を、人類は、これからどうあつかってゆくのだろ 1 つ。
「変な愛」から始まった小説は、こうして新刊長篇 『 大きな鳥にさらわれないよう 』 として結実し、思いもかけない遥かなところまで私を連れていってくれた。書き終わってからも、まだ小説が体の中に残っているという体験を、初めてしたような気がする。おそらくそれは、未来の私たちが、まだ私を離してくれないからだ。もっと私たちの生を、死を、思って、もっと、もっと。未来の私たちは、常に私にささやくのである。(かわかみ・ひろみ小説家)
投稿元:
レビューを見る
はじめの短編3つを読んで、話がよくわからず返却期限も近いし読むのをやめようかと思ったけど、4つ目あたりから世界観に慣れてきて、どんどん面白くなってきた。むしろ、好きな話だった。クローン、人工知能、神様、絶滅、哀しみ、愛、希望。
投稿元:
レビューを見る
川上さんの本を初めて読みましたが、不思議な世界観ですね。
初読ではよくわからず、二度目で繋がりが見え、多分読むたびに新しい発見、テーマが見えてくるような気がします。
投稿元:
レビューを見る
静かで美しい滅びの世界。
森博嗣のウォーカロンシリーズと併読すると、いっそうの感慨深さを生む。
聖書を裏側から覗きみているようなドキドキ感もあり、非常に楽しめた。
投稿元:
レビューを見る
わたしはわたしと異質なものを受け入れられるのか。
異質なものを受け入れ、平和に暮らすことは幸福なことなのか。
愛と憎しみは、人間を滅亡させるものか、生み出すものか。
いくつかの問いと答えが長い年月をかけて、たくさんの人々を廻り続ける物語。
行きつ戻りつしながらも、先が気になってどんどん読み進めてしまう。楽しかった!
投稿元:
レビューを見る
ファンタジー?SF?過去?未来?
ほわほわと不思議な世界へ連れていってくれました。クローン・人工知能…難しいお話も含まれていたけど、読みやすかった。最後まで読んでやっと、なるほどな、ってなれました。でも、少しもやもやが残ってしまって考えちゃいました。
全て理解出来たか?と聞かれたら、100%とは答えられない私がいます。
投稿元:
レビューを見る
滅びつつある人類の世界にポンと放り込まれて、なんだろうなんだろうと混乱しつつも、それでもその世界を受け入れ始めたところで、母のことや、得意な人間のことや、大きな母のことや、見守りのことなどの種明かしが始まる。
手塚治虫の火の鳥ワールドを久しぶりに思い出せたのは良かった。
でも、なんだろう重要ではないのだけど、人の名前、リエンとかニーシャとかノアとかマリアとか誰が誰だか分からなくなって、前のページの方を探すのだが、そういう人物がいることもあれば、そもそも存在していないこともあり、えっつこの子誰だっけと迷子状態にちょくちょくなるのは気が散ってよろしくなかったな。
投稿元:
レビューを見る
どういう形になっていくのかまだ未知数の人工知能を、こんな風に描き出しているのはさすがという感じ。寄生という表現で人工知能が身体性を帯びることを実現させているところに唸らされた。
一方で、あまりに時間軸が長すぎるためか、捉えどころのなさが際だってしまっているように思われる。
進化論を習った時に誰もが持ったであろう素朴な疑問、人間もこののち進化するのか、の答えを織り込んで、この壮大な叙事詩は歌われている。
投稿元:
レビューを見る
人間の欲望、感情といったものが、儀礼式というか機械的にたんたんと表現されているが、却って不思議なファンタジー感をあおる。読み手の心理を勝手に揺動させるところに独自性がある。