紙の本
企業の生き残り戦略
2017/02/10 11:16
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投稿者:touch - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は学生の時(40年ほど前)、カメラに凝っていた。
フィルムの時代だ。
その頃、コダックと富士フィルムが全盛で、個人的にはコダックのポジフィルムである「コダクローム64」を愛用していた。
その後、デジタル化の波がやってきて、富士フィルムはナノテク関連で再成長したが、写真にこだわったコダックは衰退していった。
本書は、そのコダックが(本文には、コダックとは明記されていないが)、どのように衰退していったのか、社員の目を通して描かれている。
あの頃、コダックは、あんなことになっていたんだ。世の中の波を読み違えると、大企業と言えどもこうなってしまうんだという示唆に富んだ作品。
物語は面白いが、ちょっと長いのが難。
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話の展開からすぐにK社であることが分かり、結果も分かっていたせいか、常に暗い展開が予想されたため、ページを捲る手も自然と重いものになってしまいました。
現実をこれでもか!というほど突きつけられ、気分が重くなりましたが、そういう意味ではリアリティはあったのだと気づきます。
主人公が途中で転職しては事の顛末が描けないからいつまでもソアラ社にい続けたのは仕方のない話ですが、ここまで将来の展望を見通せるのならば、自分ならば最初にデジタルから撤退した時期に退職しているだろうなと思いました。ただ実際問題として、まさかこの巨大な船が沈むはずがないという楽観は誰の心にもあるのだと思います。
歴史が教えるように、レコードはCDに、ビデオテープはDVDにあっさり取って代わりました。なぜ銀塩カメラだけは大丈夫だと考えたくなってしまったのでしょうか。茹でガエルの例えではないですが、巨大な風呂釜に浸かっていると、ジワジワ周りから危機が迫ってきていても自分は大丈夫。まだ大丈夫だと思ってしまうのかもしれませんね。
「強い者が生き残るんじゃない。環境に適応した者が生き残るんだ」という生物学の命題はここにも当てはまるようです。
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201603/さすが楡周平。どのジャンルも読ませるな~。現実企業をベースにして、技術の進歩と産業の凋落が書かれてるので、わかってても沈んだ気持ちでグイグイ読み進んでしまった。随所で吐露される登場人物達の心情には、業種違っても、働いてる人(企業人・技術屋・商人問わず)なら深く頷いてしまうでしょう。
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一九九二年、世界最大のフィルム会社ソアラの日本法人に勤務する最上栄介は、デジタル製品の販売戦略担当を命じられる。銀塩フィルム全盛の時代、最上は半信半疑のままデジタル製品の売り込みを模索するが、その奮闘を凌駕する速さで、写真業界にデジタル化の波が押し寄せる。技術の進歩によって駆逐される産業と超優良企業の転落を、圧倒的臨場感で描き出す。
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フィクションと言うよりは限り無くノンフィクションに近い作品だった。
コダックについての話だが、100年以上続く大企業であるが故に上手く業務転換出来ないところを非常にリアルに描いていた。
フィルムメーカーのような、ほとんど完璧と言える集金システムを確立してしまったら、それが通用しなくなった時にはどうしようもなくなる。
デジタル化の流れがこれからさらに加速すれば今までのやり方は全く通用しなくなるのは必然の流れだと思うので、どんな状況になったとしても生きていけるように自分の実力をしっかりとつけないといけないと痛感した。
今は時代の流れも早くなっているので一つの会社に身を置き続ける事を当然だと思わず常に自分を磨いて、時代の流れについていけるようにしたい。
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とてもリアルに、世界のエクセレントカンパニー、コダックの終焉を描いています。司馬遼太郎が、先にエバンジェリストが立つとも、時代の変化を後戻りしないものに固定するのは、技術、テクノロジーであると、花神の後書きに書いていました。その変化の中では、資本力、規模、人材、伝統を持つ大企業が有利とは限らない。寧ろ、余りに確立した収益モデルがある場合には、そのモデルへの執着、慢心が自らの変化を遅らせる可能性もある。
誰がこの巨象の命を奪ったのか?企業競争は日常であり、そこに収益があれば必然。ところが変化の大きい場合、その決定的な刺客は、競争の意識さえなかった。1992(アルベールビルオリンピック)から2004年(放射線部門の売却)まで、デジタル化の浸透、そしてインターネットの決定的な普及のもたらした変化、その意味を振り返る良い機会になりました。
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久しぶりに読書。
知人に作者を勧められて適当に選んで読んだんですが、アタリでした。
こういうことって嬉しい。
ギリギリ、当時写真撮ったりしていた世代なので読み進めながらそうだったなって思い出したり、そんな背景があったのかって初めて知ったり、当時をトレースできたので比較的読みやすかった。
デジタル化社会が人々に便利な生活を与えていることには間違いないけれど、それが幸せなのかは少し考えるようになりました。
便利さを追い求め続けていてもキリがないものね。まだ足りない、もっと便利にできる、って、そういうの幸せなのかな。
でもそれが技術の発達に繋がっているのも事実。
もやもや(まとまってない)。
変化に対応できる組織であることも価値があるけれど、歴史のあるものを守ることができることにも価値があると思う。存在し続けることにも大きな価値があると思う。
やっぱりまとまってないな。
しかしソアラを去った人たちはどうしているんだろう。その後、ソアラに残った人はどうなったんだろう。
それは私が調べればいいか。
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起因となる時代背景を古くすることで
現在では、さも当たり前なデジタル化を
一つの物語とした産業小説になっています。
先見を見極めた者が生き残り、乗り遅れた者の運命は…
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ソアラ(コダック)の物語。
コダックの社員だった楡周平が 物語にするのは、
自分の中に 大きな葛藤があったのだと思う。
自分のやって来たことの意味が 問われるからだ。
それでも、冷静に 客観的に とらえる努力をして
大企業が崩壊していく過程を書いたのは、すばらしいことだと思う。
コダックは、フィルムメーカーとしては 世界でトップ。
エクセレントカンパニーと言われていた。
フィルム、現像、そしてプリント。
三つの美味しい事業で成り立っている。
利益率は 1ドルの売上で70セントもあるという。
そこにも、デジタル化の嵐が 巻き起こり始めた。
物語は 1992年から始まる。
最上は、デジタルカメラをプロカメラマンに売っていた。
プロから見るとまだ使い物にならないと言われたが、
デジタルで撮った写真なので、電送できた。
確かに、新しい時代は やって来ている。
フィルムからデジタルへ時代の移行期。
ソアラは充分に利益を上げているので、開発力もあり
デジタル化は避けられないと言うレポートが、経営者にはとどいていた。
つまり、フィルムと現像がなくなると言う大きな時代の変化が
あったが、デジタル画像にしても、どうつかうのか?
イメージがわいていない。
一方で、パソコン、ネットが急速に 発展していく。
それが 深く関連しているが、充分に理解できない状態となる。
『成功体験』とアメリカの株主優先の経営方法がソアラを追いつめる。
1995年 ウインドウズ3.0が 登場することで、
おおきな変化が起こる。
最上は 三河の堂島からアドバイスを受けて、
さまざまな商品を開発するが、残念ながら、突破できない。
中間管理職の悲哀が 綴られる。
さらに 登場したのが カメラ付き携帯電話。
それで、カメラのシャッター数は増大する。
カメラが 子供のある家庭と、老年に限られていたのが
若者が 参加してきたが、デジタル画像は ブログなどに使われて、
プリントはしないという ソアラの 三つの事業が消えざるを得なかった。
確かに、巨象が、崩れ落ちていく過程を
時系列に従って、中間管理職の最上の目線で正確に描かれていく。
ウインドウズ3と一太郎から パソコンを使っていたのだから、
確かにこの時代の歩みが、変化を伴っていること。
その変化に対応できない という企業のしがらみ。
そして、優秀な人材が去って行く。
デジタル化は、ますます さまざまな分野へ波及するのだろう。
『身につまされる』会社の崩壊過程である。
これを、変えていくには、トップの意識なんだろうね。
ここのなかにある 最上の いらだち、焦り、喪失感が
なんとも言えず、沈没する会社にいてもがんばったことが、
人生にとっても有意義だったと言えるような物語になっていると思う。
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いかに巨大な企業でも時代の波に乗れなければ、すぐに淘汰される。過去にとらわれず、自分を変えることができるか。変化を受け入れられるか。これまでのやり方を捨てられるか。まさに我が社に突きつけられた課題。
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20161218
500ページを超える大作。写真がフイルムからデジタルへと変わり、大企業コダックが破綻して行くまでの、社内での詳細なやり取りを再現した長編小説。
実際に作者の楡氏がコダックの社員だったため、リアル過ぎる社内での社員同士の会話がほとんどなうえ、特に面白い事件や出来事も無いため、読み進めるのに珍しく時間が掛かった。
エンターテインメント性に欠ける分、面白味は少なかったが、リアルさは十分にあった。
解説では、デジタルの技術革新により、同様に廃れて行くビジネスとして、新聞、雑誌、テレビ、そしてAIの進化により自動運転に取って変わられる運転手が挙げられている。
いわゆる衰退産業のひとつに身を置く自分に取って身に詰まさられる内容だった。会社は大きくなればなるほど変わる事が難しく、如何に柔軟かつ迅速に変化して行く事が出来るかが、企業に一番求められている事なのだと改めて感じた。
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コダックを舞台にした小説。
企業も個人も変わり続けないと、生き残れないってことだ。
さて今後どうするか。
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2012年、フィルム業界で世界に君臨していたコダックが破綻した。
この物語は、1992年から2004年まで、映像のデジタル化がじわじわとフィルムを浸食していき、他に追随を許さなかった大企業が崩れていく様子を描いたものだ。
写真は紙で楽しむもの。そんな常識が昔はあったわねと、デジタルの歴史はまだ浅いのに懐かしく思う。100年以上続いた常識が崩れ去るなんて誰が想像しただろうか。
でもコダックでの破綻はデジタルによる変化ではなく、その変化の波をうまく利用することができなかった経営不備のせいだと言われる。だってデジタルをいち早く開発したのはコダックだし、フィルムの時代は終わると自分たちで予言までしていた。デジタル商品の開発に投資するということは、現存の商売の邪魔をすることになるいう矛盾との闘い。デジタル化が進んでも、保存は紙だろうという期待に縋る甘い読み。小説の中で、会社に振り回され、不安の中で働くコダック(小説内ではソアラ)社員の奮闘ぶりが巧みに描かれている。かつてはコダックに籍を置いていた楡氏の実体験に基づく話なのか…。
この小説を読んでいると、苦しいほど身につまされる。テレビ業界、出版業界、広告業界だって他人ごとではない。未来永劫なんてものは存在しない。いかに次の時流に乗っていくきっかけをつかむか。多くの社員を路頭に迷わせることなく新しいビジネスに移行できるか。独占市場にあぐらをかく大企業(象)たちの明暗をわけるところだ。実際に、フィルムが廃れた現在でも富士フィルムは元気に生き残っている。
富士フィルムは果敢に新しい商機を探り、磁気テープ、光学デバイス、ビデオテープなどフィルムの隣接分野で商品を開発。さらにゼロックスとの合弁事業を通じて、コピー機やオフィスオートメーションなどの事業に進出した。今日、同社の年間売上高は200億ドルを超え、ヘルスケアやエレクトロニクスにも参入し、ドキュメントソリューション事業でも大きな収益を上げている。(他サイトからの抜粋)
↑上記サイトではこうも言っている。
大いなる皮肉は、既存企業こそ破壊によるチャンスを最も掴みやすい立場にあることだ。結局のところ、そうした企業は新規参入者が必死に追い求めているものを多数持ち合わせている。市場へのアクセス、技術力、健全なバランスシートなどである。もちろん、それらの組織能力は制約にもなりえる。そしてほとんど常に、新しい市場において新しいやり方で競争するには不十分だ。新たな成長を追求するには、相応の謙虚さが必要となる。
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コダックの終焉を描いた物語
コダックがデジタルカメラの波にのまれていく様子をサラリーマンを主人公にその視点から時系列で描かれていきます。そのディテールはノンフィクションの様な臨場感。しかし、それが故に、小説としての盛り上がりにはちょっと欠けてしまいます。小説として読むのかケーススタディとして読むのか…(笑)
ストーリとしては、1992年から2004年までの間が語られています。1992年、デジタルカメラが一部プロで使われ始め、95年のWindows95の登場。レンズ付きカメラ、インターネットの広がり、APSカメラ、プリクラ、カメラ付き携帯電話、ブログ登場と言った時代の中で、2000年を過ぎたところから、一気に産業がしぼんでいきます。
デジタルカメラの終焉を予測していたコダック(本書ではソアラ)や主人公が紆余曲折しながら生き残りをかけて、新しいビジネスモデルを構築しようと、その時代の流れに挑みながらも、結局は飲み込まれていく展開となっています。
現状のビジネスを継続したまま、それを否定するビジネスを難しさ、歯がゆさ、苦悩がヒシヒシと伝わってきます。株主に対する対応では、長期の投資がままならないこと。さらに、販売チャネルに対する対応はにっちもさっちもいきません。
一方、巨大企業、巨大産業の中の「おごり」についても言及しています。いつの間にか消費者目線ではなくなっていたこと。長年のビジネスモデルの上に胡坐をかいていたことなど。
イノベーションが既存産業を破壊して、新しい価値を提供していく。まさにそれが起こるさまを破壊される側から語っているところが味噌!
会社名は残るかもしれない。しかし従業員としてそこで仕事の場があるかどうかはわからない。そんなニュアンスのメッセージも読み取れます。
明日は我が身!!怖くなる。
お勧め!!
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コダックをモデルにしたメーカーがデジカメかの波に乗れずに凋落する物語。
あまりにも図体がデカすぎる組織で、すでに完成されて収益構造の中で利益を稼いでいたが、デジカメが銀塩カメラに取って代わられることが分かっていても、しがらみにとらわれてうまく転換できず、凋落の一途を辿る話だった。組織とは何か、新しい潮流に目を向けること、そしてそれを自分のものにすること、あるいはそれを読みきる力が必要であることを感じた。でも、それって難しい。