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少し前ランキングで見て気になりながら忘れてしまっていたのだけど、先の日曜日、朝日の書評欄にあったので思い出し、今度は買ってみた。
川越で祖父が残した活版印刷屋を営む若い女性を中心にした連作短編集。みんなよい話でしたねぇ。
第1話、女性ながら運送屋の所長を務めるハルさん。成長した子どもの自立と親の子離れ、そして、名前に込めた親の思いと引き受けた子どもの思いの物語。
『自分で自分の道を決めて、そこで人の役に立つ仕事をできるのが、大人』って、私も仕事を辞めて帰って来ていつまでもブラブラしているわが子に言いたい。
でも、そんなことを言うことさえ、子どもの自立を阻んでいるのではないかと思うんだな。
中学校の修学旅行の時、親の宿題で書かされた子どもへの手紙は、その子の名前の由来を書いて子どもに伝えるというお題があって、今読んでも自分で泣ける良い文章だと思うのだけど、当人は覚えているかなぁ、どこまで伝わっているのだろう…。
『生まれてきた子を見たとき、ああ、これでよかった、って思った。この名前で合ってた、って。あれほど悩んだのが嘘みたいだった』
第2話、叔父の後を継いで喫茶店を営む岡野くん。叔父が築き上げた喫茶店をどう引き継ぎ、どう自分の色にしていくか悩む。
この本全体に「人間は誰の代わりでもなく自分は自分だ」というテーマが貫かれているように思ったが、『だれでもない自分になりたい』という望みも、『ほかのだれかの代わりになる』という思いも、同じように傲慢なことだと言い切るこの章は、なかなか重い。
第3話、文芸部の顧問をする女子高の遠田先生。大学時代の演劇仲間との思い出が切ない。
ここもまた「銀河鉄道の夜」を題材に、人間は誰かの代わりに生きているのではないという思いが示される。
『だれかを救いたいという衝動が人のなかにある、そのこと自体が、希望のように思えます』
最終話、幼馴染みとの結婚を控える図書館司書の雪乃さん。結婚を後押ししてくれた祖母への思いと、結婚への微かなためらい。
亡くなった祖母についての共通の思い出から、いつもは押しが強いフィアンセの弱さも知る。
『いっしょに行こう』、短い言葉に込める思い。
いろは歌と同じように同じひらがなを一度しか使わない披露宴の招待状が力強い。
お話のメインの筋立てだけでなく、俳句や宮沢賢治やいろは歌や、勿論、活版印刷のことも、本が好きな人が惹かれるアイテムに溢れ、これにも好感。
「銀河鉄道の夜」が猛烈に読みたくなった。
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川越の古い活版印刷所三日月堂に孫娘が帰ってきたところから始まる物語。
それぞれの思いを、活版印刷を通して形にしていくような、そんなお話が4つ。
活版印刷の良さもだけれど、仕事への姿勢が気持ち良かった。どうデザインしていくかとか、考えるの楽しいだろうなあ。
半透明のショップカードや俳句のコースター、銀河鉄道の一文が刷られた栞は本当に手に取ってみたい‼と思えました。
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この作品は短編集でもある。全部で四話。それぞれ悩みを抱えた主人公が、祖父の活版印刷の技術を継ぐ若い女性、弓子と共に「印刷」「文字」を通して解決していく物語だ。
主人公は変わっても、登場する人物、人々の思いが輪となり繋がっていて、とても心に温かな希望を灯してくれる素敵なお話。これらの一話だけでも読了した読者たちはきっと、少し前に、歩いていける──そんな気がする。
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印刷関係の仕事をしているため、タイトルを見てこれは、と思い購入。どのお話でも、主役は三日月堂に依頼に来た人たちで、三日月堂の店主はあくまで脇役、という構図が何だか印刷の本質のような感じがして印象的でした。ただ、登場人物のセリフがどれも説明的で、言わされているように感じてしまい、物語に深く入り込めなかったことが残念でした。
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活字の持つパワーや温かみを感じて、文字がもっと好きになる。活字って拾うものなんだ。
ハートフルなお話も心に染みる。
一文字一文字に込められた思いを大切に感じるあんなアイテム達、私の手元にあったら絶対絶対、宝物にする!
活版印刷、かっこよすぎる!!
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ずっと読みたかった本。やっと読めた。
ミステリーがあるわけではなく、生活に寄り添ったお話で、すっと物語の中に入っていけた。
生活していると過去に囚われることがあるけれど新しい風が吹いたり、新しい扉を開けたり、開けてもらったりでいつでもまた変われる。変化が怖い時もあるけれど選択を信じて楽しもうと思った。
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過去がわやしたちを守ってくれる。
そうして、新しい場所に押し出してくれる。
だから弱音を吐いてもいい。
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この空気感が好きである。
国立にあるやはり空気感が好きなカフェで読んでいたせいか、目に浮かぶ光景は国立の街並みなのである。
活版印刷、好き~!
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キラキラした表紙と「ポプラ社」の響きで、YA向けほっこりベタ(?)かと勝手に敬遠していましたが......。
すごくよかったです。ごめんなさい。
古くて新しい活版印刷が、まさに過去と未来との架け橋となって、悩みを抱えた人々に救いを与えてゆく物語。
誰もが過去を背負って生きなければならない。しかしその過去の中から、生きる力を新たに得ることだってできるのだ。
著者は詩人でもあるそうで、描写に独特のセンスを感じます。活字から印刷された文字たちが放つ不思議な魅力が、実物を見るかのように伝わってきました。
「活字たちがすごく......緊張しているみたいに見える」
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「だれでもない自分になりたい」というのが、子どもじみた愚かな望みだということは知っていた。でも、だれかの代わりになれると思うのだって、同じくらい傲慢なことだ。
(P.125)
「まわりから見て個性に映るものって、その人の世界への違和感から生まれるものなんじゃないかな。それが強いほど人を惹きつける。でも、本人にとっては苦しいものでしょう? それに耐えられるほど強くはないかもしれない」
「すごいものが書けても、人として強いわけじゃないってことですか……」
「そうね。むしろ逆かも。人として脆いから強いものを書いてしまう」
(P.179)
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昔ながらの活版印刷で、客の依頼に応じて手作業で言葉を印刷する『三日月堂』。悩みを抱える人々をやさしい言葉で癒す連作短編集。
口当たりは良いが歯応えがないというのが率直な感想。登場人物がいい人ばかりで、人間の匂いを感じない。でも、懐かしいインキの匂いは伝わってきた。
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活版印刷?と思って調べ、これのことを言うのかと改めて知る。結婚式の招待状の文言を考えるシーンが好き。言葉を選ぶって、本来これくらい真剣にやるもんだったんじゃないかとふと思ってしまうくらい。
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「活字」に
重さ があり
大きさ があり
それゆえに 手に持つことができる
「活字」に
過去 があり
人との交わり があり
それゆえに 人と人をつなぐことができる
「活字」に
訴える力 があり
慰める力 があり
それゆえに 物語になっていく
全編を通して
しみじみとした情感が漂います
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川越の街に昔あった活版印刷のお店が
ふたたび孫の弓子さんによって動き始める。
真摯なモノ作りに対する姿勢、
相手のココロに寄り添って作ろうという姿勢に
活版印刷店を訪れた人たちが助けられ
その人たちにまた店主も助けられていく。
作るってそういうことだな~としみじみ。
活版印刷で何かを作ってみたい。
何を作ろう・・・
しばし考えるのも楽しいな。
そんな風に思わせてくれる本でした。
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印刷所の三日月堂と、それぞれの人々、依頼主の思いと、弓子との語り合い、依頼者にとって、印刷に、家族の思い、願い、優しさがあり、どの話も素敵で、じんわりと心が温まるもので良かった。普段目にする印刷物も昔は活版印刷されているものだと思うと、感慨深く、印刷にまつわるものが書かれているのは興味をそそられる。現代では、大量印刷、効率化と利便性が優先されるが、丁寧に丹精込めて印刷し、言葉を紡ぐ作業、そこには思い、温もりが感じられて良いものである。その言葉は届けられる人も温かい気持ちになるとじんわりする思い。