読者が意識された混沌
2023/04/21 06:10
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投稿者:マーブル - この投稿者のレビュー一覧を見る
高級タワーマンションに広がる理由なき混沌。なぜ始まり、何ゆえ人々はそれに身を任すのか。不満は当然となり、いつしかこの閉鎖空間の新たなルールを心地よく思う様になる。カフカの『城』を思い起こしたが、発表を意図せぬ妄想を書き殴ったようなカフカとは違って、充分に読者が意識され、しかも評価されるものとして扱われている。受け入れられるかどうかを気にしない態度の作家なのか、それともやはり受け要られる土壌が何処かにはあるのか。私には理解しにくいが。
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映画化原作。
確かハヤカワだったか、一度出ていたが、そちらは現在品切れで、創元から復刊された。
よく週刊誌で面白おかしく『タワーマンションのマウンティング合戦』なんてネタがあるが(「SPA!」辺りで読んだ記憶があるw)、本書はそれを思いっきり煮詰めたような内容。これまでバラードが描き出した世界の中では、一番下世話でありながら、ある意味、一番『身近』かもしれない。亭主の職業や年収、自宅のフロアで張り合ってるうちはまだまだ可愛らしいのかもしれないなw
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借りたもの。
祝・映画化記念の再販!
映画鑑賞後に読んだことで、映画との明確な違いを意識する。
映画では”ヴァニタス”――タワーマンションと階級社会に見る人間の傲慢とその儚さ――虚栄を強く意識させられたが、小説ではタワーマンションという空間での環境問題――近隣住民の心身に与える影響やテクノロジーは人間を幸せにせず暇を持て余した人間が刺激を求めて暴力的になってゆく様を強くしている。
世界の縮図、閉じた円環の中で機能する完璧な世界を構想しながら、ただ高みへと目指す一方的な構造は次第に住んでいる人間を不安定にさせる。
公共施設の不備や故障、次第に外界から孤立し、物資も滞ってゆく……
階級意識と不満、近隣の人間との距離の近さも災いして、自身の権利ばかりを強く打ち出す住民たちは次第に文化的・文明的な生き方を放棄する。
停電などの電気設備の故障は、需要と供給のバランスがとれなかった当時を反映しているのかもしれない。
それが脳神経の伝達とリンクし、タワーマンションが人間の身体に見立てられたり、階級社会制度そのままだったり、様々な変容をする。
どの様な解釈をされながらも、それらは閉塞し停滞し、崩壊してゆく。
それがまるで正しい事のように、3人の男たちの視点から描かれている、狂気に魅せられる。
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SF?SFなのか?これ。
ロンドンの中心部にそびえ立つ超高層マンションで起こる不条理劇。
世間的地位はあるものの知的な感じが全くしない住人たちなので普通の感性を持ってる人なら最初から住みたいとは全く思わないマンションが舞台。
その時点で既にもう歪んでる。
その上全てが整えられた環境が少しずつ崩されていく。
住民たちは対処法を考える。という理性はなく
人間の本能のまま行動する。エロ&グロがあるのだがなんとなく紗幕1枚隔てた所で行われている感じがあって「生々しい」というより「浮世離れ」している。
そういう点では「SF」のカテゴリーに入れて良いんだろう。
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面白かったです。この高層住宅に住むことは最先端のように思いましたが、住人たちがどんどん暴力的になっていくところが、退化なのかもしれないと感じました。渦巻く不穏な狂気の空気が好きでした。でも犬はいけない…この描写だけは好きになれませんでした。映画化されているのですね。この世界がどう映像になっているのか気になります。
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何もかもが整った快適な住まいが、あっという間に異常な世界になっていく。そんなことあるわけないよ、と笑えればいいけど、なんだかありそうな気にさせられるのが本当にこわい。
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バーナード嬢いわく、から来ました笑
うん、意味不明やねこれ。
でも読んでまうね。
ジョン・ポールがよく読んでいたらしいバラード、ちょっと他も読もうかな。
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「蝿の王」っぽさを感じるSF小説だけど、当事者が大人同士で、それぞれ見栄だの地位だの、やっかみだのがある分、秩序が崩壊した後の混沌ぶりはひどい。
はじめは読み進めにくかったけど、最後はするする読めた。
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バラード好きなのと、「バーナード嬢」で出ていたので。
高層マンションの住民同士の確執って、実際に聞く話だけど、現実ではどこまであり得るんだろう。まあここまでおかしくなることはないにしても、そこそこ陰湿そうだが。
最初のほうは、モラル低すぎじゃない?と思った(酔っているとはいえ、飲み物のビンを車に落として笑ってるとか)。犬がプールで溺死したシーンの不気味さはなかなか。住民たちが臭いやゴミを気にしなくなるとか、マンションから出て行かなくなるところとか、段々おかしくなっていく感じが良い。
最後までおかしくなったまま終わる訳だが、食料供給にどうしても限界があるのでは。そうなったらそのまま死ぬのだろうか。
巨大建築感を期待していたが、それは正直あまり。エレベーターが20基くらいあるというのが割と具体的な描写だが、現実にあり得る範囲だし。どちらかというと、迷宮感かな。建物から出たくても出られない感じ。
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SF。サスペンス。
創元SF文庫から出版されているが、これはSFなのか?近未来ディストピアものということか。
最初の1ページで感じたとおり、作品全体を通して不穏な空気が漂う。
結局、たいしたストーリーはなかった気がするが、なぜか惹きこまれる不思議な作品だった。
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派遣会社から仕事をもらってアルバイトをさせてもらってた頃、よく顔を合わせてた人にばったり会った。二十代の後半だった俺は三十代の中盤になり、三十代の中盤だったXさんは、今年で四十になると言っていた。たった数年のあいだに、なんだかお互い老けてしまった。会社員として、適当な給料を貰って適当な暮らしをし、ばったり会って「時間ある?」「あ、メシ行きます?」と言って軽メシ軽飲みをし、近況を話し、笑い、最低にはならなかったけど最高でもない互いの日常を確認すると、「じゃあ」「また」と笑って散会した。
帰り道、色んなことを思い出した。若く、貧しく、過剰で、不足していて、現実味のない、無防備な暮らし。仮に時間が巻き戻って、と考えると、背筋に怖気が走る。でも同時に、心躍るような感覚もないことはない。未知数だったからだ、と思う。あらゆることがまるで既定されておらず、どのようにでもなり得る可能性があったからだ、と。当然そこには乞食になる可能性も含まれている。おそらく”怖気”の理由はそこにある。逆に心躍る理由は?自分のことを本当に芸術家だと思っていたことの名残りだろう。表現することがすべてであり、現実はその素材に過ぎなかった。そのように市井から外れるのは快楽の一種だ。そしてその快楽は、嵌ったが最期、容易には抜け出せなくなる。芸術家はホームレスに酷似している。芸術家は犯罪者に酷似している。白線の内側に芸術家が、外側には彼らが存在している。その白線を跨ぎながら、隣人と上手くやることに疲れ果てる人間は少なくない。俺もその一人だった。あるとき不意に、快楽が苦痛へと変転した。幾つかの前触れのあと、夢から醒めたのだ。
地下鉄のホームは人で溢れかえっている。どちらでもよいことで日常は溢れかえっている。列車がホームに滑り込み、扉が開く。人間が出て行き、人間が入って行く。列車は人間の交換、あるいは循環を済ませ、徐に動き出す。対岸のホームに、ホームレスが立っている。男は汚れを着込み、影のように揺れている。一瞬、あれは俺だ、と思う。正確に言うと、俺であっても何も変わらない、と思う。目前を若い女が通り過ぎる。ウェーブした髪から、いつか誰かが使っていたシャワージェルの匂いを発散させながら。胸ポケットで端末が振るえる。メールだ。どうせamazonか、ゾゾタウンのどちらかだ。
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2017/08/18/Fri.(ブックオフにて中古で購入)
2017/10/02/Mon.〜2018/02/22/Thu.
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40階建て一千戸の巨大マンションで、15分ほどの停電の後に一匹の犬の死体が見つかったことをきっかけに、上、中、下層の住民の不満が爆発。衝突が始まる。
SFか?と言われると、そうなのかもしれない。外界と隔絶されているあたりは、宇宙船なり無人島でも描けるテーマなのだが、そこが高層マンションというところがこの作品の面白さでもある。
この作品の大きなキモとなるのが、抗争を恐怖として捉えるわけではなく、住民たちがマンション内だけに与えられた楽しみであり、ゲームであると認識している点であり、このあたりは筒井康隆を読んでいる人にはわかりやすい。ただの恐怖小説だと思って読んでいる人には、全くピンとこない話であろう。
また、上層=上流階級はリーダーを置いて結束し、下層は結束できずに混沌とし、中層はリーダを置くんだか置かないんだかというのは、設定として非常におもしろい。
上層のロイヤル、中層のラング、下層のワイルダーの、それぞれの視点が交錯するが多少難があるものの、わかりやすいストーリー展開であった。
ただ、訳が悪い。比喩を訳すんだか訳さないんだかという部分が多くあり、文章になっていないものもある(主語述語がない)。訳すなら訳すでもう少し厚くなっても良いから丁寧に訳して欲しい。
ストーリー☆4、訳☆2というところ。
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「高層住宅が持つこの荒廃の性質すら 、じつは未来に待ちうける世界のモデルであり 、それはテクノロジ ーのかなたにある風景であって 、そこでは一切すべてがうちすてられているか 、おぼろげながら 、すべてが予想外の 、だがより意味深いかたちで再結合しているのだ 。そんなふうに考えると 、ラングはときとして 、自分たちが現在住んでいるところは 、すでに起こった 、そしていまや疲弊してしまった未来世界なのだという気がしてならなかった 。」
40階建の高層マンションにすむ知識人階級の心理的闘争を描く名作と聞いて読んでみたが、棍棒で殴り合ったり人の家に放尿したりと斜め上の野蛮さで笑った。北斗の拳かよ。
なので今のタワマンカースト的な精神的闘争を期待している人には勧められないが、結局のところ「自分たちは暴力なんて振るわない」と思っていた中流階級たちが荒廃の果てに暴力へ回帰していくという意味を考えると意味深い作品。
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「犬鍋オイシイ!シュゴイアッタマルヨオー!」ある日電車の中で上海出身の留学生は叫び、周りはドン引き。
本編。超高層マンションのダストシュートの設備の崩壊に始まり、電気水道エレベーターが止まり人間らしく生活できる環境を住んでる人間自ら崩壊し、狂気のハードル(ドン引きライン)をピョコピョコ飛び越えていく。
主人公に始まり、この世界ではライン越えの瞬間は特になく、最初から狂気の中にいて、ただ静かに生活していただけなのである。その静かさが恐ろしいが大袈裟にラインなど引いて「私は正常」などとのたまう方が狂気だ。