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「昔はよかった」に一石を投じるべく産まれた本、らしいのだが、本当にそうだとするとあまりにも安直。そもそも頭空っぽの大人が思考回路を通さずに口にする「昔はよかった」が示す"昔"というのは、殆どが頭の中で勝手に美化している彼らの過去の時代のことであって、決して何百年も遡るような古典ではないはずだし、仮にそうだったとしても、環境も価値観も習慣も常識も全く違う現代と過去を比べて、捨て子や虐待の件数がどうの拷問の残虐さがどうのと説き、だから現代に生きる我々は幸福だ!と結ぶのはあまりにもナンセンス。現代に生きる苦しみは現代に生きる我々にしか解さないし、逆もまた然り。「昔はよかった」「近頃の〇〇は〜」に始まる文句は確かに不愉快だが、あらゆる時代で口の端にのぼる言葉ならば、もう殆どひねくれた年寄りの様式美だろう。
上記のような視点で読むと大変に苛々するが、単純に知見を広げるという意味ならば、古典は実に面白いと思った(折々「だから現在は幸せだね」視点が出てくるのを丸っと無視すればの話)。特に興味深かった点を下記に。
・親をなにより尊ぶ儒教思想と、現世の幸不幸は前世の善悪業の報いであるという仏教思想の強い影響。子供の立場の弱さ、虐待されても親を欠片も恨まない小林一茶、美醜が重要な価値観だった平安中期。
・学生の頃は害悪だとしか思えなかった「生類憐れみの令」が捨て子や病人、動物(犬以外も)を守る画期的なものだったなんて、、、綱吉見直した。これは参考文献読みたい。
・いざというとき村を守るために、捨て子や乞食を養う合理的システム。
・「結婚して子どももたくさんできました。めでたしめでたし」は特権階級しか家族を持てない時代の究極のハッピーエンド。
・江戸時代における、一夫婦当たり育ち上がる子供数の全国平均は二人。ついでに言うと死別によらない離婚率が二〇〇〇年代のアメリカ並み。
・舌切り雀の原話は、同居する子や孫に馬鹿にされながら暮らす二人の老女が主人公。
・日本人の奴隷売買を禁じ、奴隷解放を求めた豊臣秀吉。
・「さんせう太夫」の拷問のエグさよ、、、
・奈良、平安、江戸時代も子供や身障者、老人の刑事罰は比較的軽かった。
・明治、大正時代の民間座敷牢を調査した「精神病者私宅監置の実況」。図書館にあるみたいだけど読む勇気ないな、、、
・孤児である夕顔をセックスの果てに死なせ、挙句その死を隠蔽する光源氏。一方で、美醜が前世の善悪業によるものとされる価値観の中であえて醜い末摘花を娶りもする。紫式部の突き抜けた発想。
・美しい娘だけでなく、美貌と聡明さを備えた女房を揃えることによって天皇の来訪を誘う平安時代の外戚政治が、清少納言や紫式部といった才能あふれる女達を産んだ。
・ニニギノ命は醜いイハナガヒメを拒んだため、「岩のように盤石な命」は得られなかった。
・「ブスを妻にすると戦死しない」「ブスは武運を高める」という考え方が武士の時代にあった。平安時代の反動じゃないの、、、?
・仏教伝来初期に、仏教を信じれば「金・米・女」が沢山手に入る、という逸話がなければピンとこなかった平安時代の日本人の性質は、神にも仏にも節操なく現世利益の祈りを捧げる現代日本人にも脈々と受け継がれている。
源氏物語は絶対に引用されるだろうなとは思っていたけど、後半になるにつれ頻出度が上がって、しかも面白かったので、小学四年生時に相応のものを読んで以来、改めて読破したいなと思った。著者訳の源氏物語があるみたいなので是非ともそれを読みたい!と思う程度には面白い本でした。
■捨て子、育児放棄満載の社会
■昔もあった電車内ベビーカー的論争
■虐待天国江戸時代
■本当はもろかった昔の「家族」
■マタハラと呼ぶにはあまりに残酷な「妊婦いじめ」
■毒親だらけの近松もの
■昔もあった介護地獄
■昔もあったブラック企業
■昔もいた?角田美代子
■いにしえのストーカー殺人に学ぶ傾向と対策
■若者はいつだって残酷
■心の病は近代文明病にあらず
■動物虐待は日常茶飯
■究極の見た目社会だった平安中期
■昔から、金の世の中