紙の本
古くて新しい問題を再認識
2016/11/25 22:00
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投稿者:K2 - この投稿者のレビュー一覧を見る
邪馬台国については、子供の頃から興味があって、ずいぶんと本を読んだ。大人になってからは、違う時代に関心が移ったため、関連本を読まなくなった。そんな中で、久しぶりに手に取ったのが本書である。纒向と邪馬台国の両者が書名に含まれていて、何とはなしに購入した。シンポジウムの成果ということで、最新の研究段階を知ることができた。特に、倭人と倭国の違いや、三角縁神獣鏡の特質、天津神と国津神の祭祀の問題などは、とても参考になった。シンポジウムの雰囲気を出すためなのだろうが、デス・マス調の文体が少し読み難く感じた。討論部分はよいとして、本文部分はデアル調がよかったかも。
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纏向発見と邪馬台国の全貌というタイトルである。
纏向遺跡発掘に象徴されるように、新たな遺跡発掘ラッシュなのである。
冒頭の文書であるが、「最先端の知の結集」ということで、
「フミ」に歴史を語らせる文献史学
「モノ」に歴史を語らせる考古学
この二つは両輪あいまって、この70年間、新しい歴史像をつくってきた。
70年間といったのは、敗戦と江上波夫の騎馬民族征服王朝説を起点として考えてのことである。
ことに、注目すべきは、「モノ」すなわち、遺跡と遺物の学問である考古学が、三つの側面から、急速に発展したことである。
①発掘された遺跡や遺物が増えることによって、比較検討の幅が広がったこと。それも、数百、数千倍の単位で広がった。
②計測や科学的分析の方法が発達したため、肉眼観察だけではわからない諸点が次々に明らかにされていったこと。
③日本のみならず、朝鮮半島や中国、さらにはユーラシア大陸の遺跡発掘、分析データとも、比較検討が可能になったこと。
と書かれている。
そのような近年の成果を踏まえ、福岡、大阪、東京で開催された専門家の基調講演、討論を求めたものである。
1基調講演 倭国のありさまと王権の成り立ち
コラム 倭国を描く古地図と地理(方位)/倭国とその
王権の誕生と外交/卑弥呼の名と倭人の名
2基調講演 王権はいかにして誕生したか
コラム 前方後円墳と古墳時代の始まり/纏向遺跡・
発掘史そして研究
3基調報告 卑弥呼「共立」と魏王朝・公孫氏政権
討論
コラム 公孫氏政権とは何か/朝貢・冊封体制という支 配制度/『魏志』東夷伝序に書かれていること
4基調報告 邪馬台国時代前後の交易と文字使用
討論
コラム 弥生時代の中国銭貨/三雲・井原遺跡の石硯
5基調報告 銅鏡からみた邪馬台国時代の倭と中国
討論
コラム 銅鏡の研究
6基調報告 卑弥呼の鬼道と天皇祭祀との比較
討論
コラム 宗教をどう論じるか
7論考 製作技法からみた三画縁神獣鏡
8全体討論 邪馬台国とヤマト王権をどう考えるか
日本の古代史を世界史のうねりの中でとらえる
というような内容である。
日本人の先祖が縄文〜弥生〜古墳時代〜倭国とどのように大陸とかかわりながら歴史を紡いできたのか?
物言わぬ遺跡・遺物からそれぞれの専門家が読み解く、そして討論を重ねる。地道な活動だ。
また、いずれの日にか、劇的な発見・発掘があるかもしれない。とにかく、現代人が夢を見ながら議論・討論できるすばらしい素材が日本人が紡いできた歴史なのである(感謝)。
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あらすじ的な新書ではなく、考古学者による纒向遺跡とその時代の周辺国との関係を、文献と考古学的物証にて執筆時の最新考証となっています。考古学シンポジウムの対談と基調講演のパートでの進行で、最先端の情報が得られます。ただしその分かなり深く、私のようなにわかファンには理解できないところも多かったのも事実ですが、外交、政治、風俗、ものの流れなどの切り口で、現在わかってきた当時の状況は臨場感があり十分楽しめるものでした。邪馬台国の所在は未だ確定されていませんが、纒向遺跡を中心とした今後の研究の成果が期待されるところです。