紙の本
『憲法という希望』
2016/11/04 10:10
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:シエル - この投稿者のレビュー一覧を見る
日々、様々な報道に接する中で必ず法律論と言うか法律を扱う情報に接する。
否応なしで報道されるんだがロクに法律を学んだこともなければ大学で法律の授業を選べるまで在籍しなかった。
確か、中学で憲法を学んだような気がするがその授業を講じる先生はどの程度、法律のことを知っていたのかさえかなり怪しいもんがある。
然し、何となく知らないままに既に50歳を過ぎ学ぶより忘れる方が得意になってきている。
“今更、憲法!?”というなら笑えば好いと思う。
でも、余りに無頓着過ぎる。
憲法が話題に上るのは5月3日と決まってる。
そして、8月15日の終戦記念日だが日本だけが、日本人だけが8月15日に戦争が終わったと思っているようだが、国際的にはなんでもない普通の日だ。
本書では日本国憲法と立憲主義、人権条項、「地方自治」に各章を設けて説明している。
有体に言えば、“憲法って何?”という問いから始まって統治機構までに及ぶ一章。
二章では婚外子の問題から家族と憲法論である。
家族の問題で法廷に行きこそしなかったが2回も被告になっているので身近な問題であり、個々人に降り掛かる恐れの最も高い法律だ。
第三章は「辺野古問題」から地方自治を考える。
沖縄の問題は日本の端っこで起きている、自分と関係の遠い問題に思われているが自分の住む町に「基地」があれば他人事ではない。
非常に重要で大事な問題だと思う。
第四章は国谷裕子氏との対談で明らかにする「憲法論」で分かり易く説明してくれていると思う。
話者と対談がウマク噛合っていて、非常に分かり易いと思う。
最後に付録として日本国憲法全文を紹介して、参議院予算委員会のやり取りと憲法について学ぶ文献リストが載っている。
非常に分かり易いんだが読むとその深さが分かる。
それが書名の『憲法という希望』として現れていると思う。
憲法に興味が湧いたら是非一読して損はないと思う。
そんな一冊だったと思う。
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今年5月14日に大阪弁護士会が主催して行われた憲法講演会の講演と対談をもとに、加筆・修正してまとめられた本。講演会に行けず残念に思っていたので、読むことをすごく楽しみにしていました。
先の見えない息苦しい世の中、その原因を突き止め進むべき道を確かめるためには学問に触れること。そこには人類が積み重ねてきた歴史や知恵があり、何らかの筋道を見つけることができるのではないか。憲法を学ぶことで、「『込められた本当の力』を伝えたいし見つけてほしい」とのメッセージから始まりました。
第1章「日本国憲法と立憲主義」では、
+憲法は国家の失敗を防ぐための法律
+尊厳の担い手になった個人が公権力担当者に憲法を守らせる
+過去に国家がしでかしてきた三大失敗(①無謀な戦争②人権侵害③権力の独裁)を踏まえ、①軍事統制②人権保障③権力分立が置かれてきた
+憲法の条文も置かれた文脈や背景が大事
+国連憲章2条n4項・武力行使に関する規定から考えても、憲法9条は特別な存在というよりスタンダードな考え
等々、どのように考えられ組み立てられてきたかがよくわかりました。
第2章「人権条項を活かす」では、
婚外子相続分の問題や昨年12月に最高裁で出された夫婦別姓に関する判決を取り上げ、
+民法750条は、女性に対して氏の変更を強制しているわけではない。婚姻の法的効果を受けたければ夫婦の性を統一しなさいと言っているだけ
+「不当な扱いを受けている」という怒りを抑えて冷静になる。自分の不利益や生きづらさの原因を落ち着いて分析する。憲法の判断枠組みに基づいて一つ一つ丁寧に分析することが大事
+理論がガタガタのままでは裁判には勝てない
等々、なるほどと思うことがたくさんありました。
第3章「地方自治は誰のものか」では、
沖縄・辺野古基地問題を取り上げながら、
+統治機構論ーこの権限は誰の権限なのかを延々と議論する分野。
+主権者である国民が、憲法を通じて国家機関にどのような権限を与えているのかを考える
+辺野古移設に関する法的な根拠が見つからない。あるのは、2回の閣議決定だけ。
+立法とは法律事項を決定する権限。国政の重要事項については国会で定めなければならない。
+憲法41条(立法)、92条(地方自治の本旨)、95条(住民の投票)というところから組み立て(「木村理論」)た移設に関する国会質問に対する国の回答、国が根拠をもっていないことがわかった。
+民主主義や法の支配といった基本原理に基づく国家運営をしていないことの表れ。安全保障は国の事務だから国が決める。地方自治体の自治権制限は発生しないとの態度。
+今まで仕方ない、我慢するしかないと思っていたことも憲法を見直すことでよりよい形に変えていく可能性がある
+憲法は日々を生きる私たちの味方。うまく使いこなさなければ活かすことはできない。
等々、これからの憲法の可能性を感じることができました。また、国と地方自治体の関係・福祉制度に存在する地域間格差について、深めていく視点をもらったように思います。
第4章「対談“憲法を使いこなす”には」(国谷裕子×木村草太)では、
講演会の対談をまとめたもので、第1章〜第3章までに触れられたテーマを深めるもので、
+立憲主義の危機ではあるけれど、今だからこそ憲法の価値を考えることができるチャンス
+権利を学ぶということは、自分が主張できる権利についてだけ学ぶというものではない。相手にどのような権利があるかも同時に学ぶということ
等々のメッセージが、当日参加していなかった僕にも具体的なやりとりがイメージできる臨場感溢れる展開でした。
他にもたくさんのメッセージがありました。運動の専従者として、自分自身の足りないことにことにも気付かされたように思います。
+多様な意見に耳を傾けながら、よりよい解決策を見つけていこうとするのが民主主義の基本的な思想
+政府のこの活動はおかしいのではないか、個人の権利が侵害されているのではないかという勘を働かせる能力が大事。
+自分らしく生きようとした時に感じる息苦しさ、自分が我慢すべきことか社会の側が変わるべきことなのかを考える
とてもいい本です。みなさんにお勧めします。
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著者の講演をもとにした本で、前半は夫婦別姓と辺野古基地移転という具体的な問題を取り上げて「憲法を使いこなす」方法が語られています。
憲法の解釈においては、他の場合よりも概念法学の弊に陥ることを避けなければならないと思いますが、生きた憲法の運用の実例を教えてもらえるという意味で、本書の議論は啓発的だと思います。
後半は、NHKの『クローズアップ現代』の司会を務める国谷裕子との対談で、前半の内容についてより広い問題意識から考えなおすきっかけを与えてくれるように感じられました。
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111頁『憲法について考えると、権利者への恐ろしさがわいてきます。例えば、辺野古基地問題を突き詰めていくと、「安全保障に関することは、すべて内閣が勝手に決めていいのだ」との思想に向き合わなければならなくなります。』といったように、日頃のニュースでもやもやっと感じることがあったとき、憲法について理解があれば、自分の考え方を整理できると思いました。
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p.23-p.26
憲法とは「過去に国家がしでかしてきた失敗のリスト」
「国家権力の三大失敗は、『無謀な戦争』『人権侵害』『権力の独裁』」
「こうした三大失敗を踏まえて、無謀な戦争をしないように軍事力をコントロールしよう、人権侵害を防ぐために大事な権利をあらかじめ示しておこう、独裁にならないように権力を分立したら民主的にコントロールしよう、というルールを憲法に書き込んだのが、立憲主義の憲法」
「ですから、立憲的な意味の憲法では、軍事統制、人権保障、権力分立が三つの柱」
国家批判は抽象論ではなく、具体的に。
夫婦別姓の問題は「男女差別」ではなく「法律婚と事実婚の差別」として戦う。
辺野古基地移設問題は憲法41条と92条・95条のコンボで攻める。
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・憲法=国家の失敗リストという定義が斬新。
・最高裁は「重要な憲法判断については、明白に違憲と言えない限り、法的判断を下せない」という態度をとるらしい。中立・公正な立場を貫く難しさが見て取れると同時に白黒つけないメリット(議論が深まる)にも言及されている。
・憲法は権力者の監視ツールとして認識していたが、考え方の異なる人同士が尊重し合う、合意を得るためのツールと捉えることもできる。
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学生時代、憲法を勉強していて、憲法の体温を感じたことはなかった。
ところが、この本は全く違う。
政府任せにして批判ばかり繰り返す日本人になってはいけない。
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普段読まないジャンル。
監査でもよく言っている、フレームワークを使って考える、の憲法版(憲法がフレームワーク)。
・国家権力の三大失敗「無謀な戦争」「人権侵害」「権力の独裁」
・憲法はこれを防ぐためのもの
(リスクに対するコントロールですね)
・訴訟戦略の巧拙
・道徳よりも法務教育!
・人権侵害は、少数の人にのみダメージがあり、その他の大多数にとっては、あまり影響がない。だからこそ、憲法で保障される。
→民主主義と多数決は同じでないという理解が大切。
一番意外だったのは、松田さん(松田公太)の参議院での質疑。議院内閣制にあって、弊害も目立つようなこの頃を鑑みると、こうした質疑を憲法を使い倒してやっていくっていう議員がいたことに、驚きました。
さて、憲法なんて、大学時代の、芦部憲法とやらの分厚い教科書を思い出すけど、その本にも触れていた。
「あまりにも緩くて、理論的に突き詰められているとは言えない」
「こんなに粗い議論では人権は守れない」
一生懸命読まなくて正解??
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ちょうど別方面からも「木村草太さん」を薦められ、初めて彼の本を読んだ。
読みやすく、わかりやすく、おもしろい。
最後に「本当のプロ(教授と言われる人達を指す)は、一般の人が理解できる言葉に直してこそプロだ」というようなことを書いてあって、その通りだと思った。
片方から批判するのではなく、憲法を使っていかに理論を組み立てられるか。
辺野古も、ぜひ木村理論で押してほしい。
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安全保障に関しては、ここに基地を造ると閣議決定してアメリカと合意すれば、地方自治体に関係なくそこに基地を造れる。
現政権はまじにそう考えてる。恐ろしい。
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「憲法の本」というと,硬いんじゃないかというイメージが先行するのだが,本書は,その先入観を気持ちよく砕いてくれて,とてもスイスイと読むことのができた。
社会に息苦しさが蔓延しているとすれば,それは国家が何らかの失敗をしているということであり,その解決の道筋は憲法に示されている可能性が高い。今こそ,憲法に託された先人たちの知恵に学ぶべきだろう。(はじめに)
法律が、過去のさまざまなトラブルの経験から成り立っているように,憲法も悲惨な人間の失敗からできている。だからこそ,もし,いま変な息苦しさが社会に蔓延していると感じるのなら,それは,どっかでまた以前と同じ失敗をしようとしているのかも知れないのだと,木村はいう。
本当にそうだと思う。
本文では,立憲主義の基本的な考え方を説明すると共に,夫婦別姓や辺野古基地問題などの具体例を挙げながら,法律とはどのように扱うべきなのか…ということを分かりやすく説明してくれている。読めば読むほど,法律や憲法が身近に感じてくるから不思議な体験ができる本だ。
巻末には,クローズアップ現代の国谷裕子氏との対談も収録されていて,さすがに国谷さん,木村さんの専門知識をわかりやすい形で引き出してくれている。これは,本人(木村氏)もそういっている。
著者は,あとがきで本書の題名を『憲法という希望』としたことについて,次のように述べている。
だれかを責め立てるようなものではなく,憲法の魅力を伝えられるようなもの,社会をより良くしていくための積極的な提案を示せるものにしようということになった。(P174)
安倍政権が憲法をないがしろにしてきたことへの警鐘・批判はあったが,「憲法ってなかなかいいじゃん」と思える内容だったし,もっと憲法について書かれた本を読んでみたいと思った。巻末には,読書指南もついていて至れり尽くせりだ。
そういう意味でも,本書は,これから憲法について考えてみたいと言う人にとっては,いい入門書になっていると思う。
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない。
憲法を守ると言うことは,そういうことなんだなあ。
そうそう,最高裁の「白黒の判断を留保するという姿勢」についての見方も,斬新だった。「最高裁が重要な憲法判断については、法的判断を下さないという態度をとるのは,もっと国民間で議論を深めていってねということではないか」ということらしい。確かに,もしも「白」と言われてしまったら,急に考えることをやめてしまいそうだ。「自衛隊は合憲!」と言われてしまったことを考えると,その後の展開はとても怖い。
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さらっと読める憲法の本。面白かった。
最後に推薦書をいくつか挙げてくださっているのでこれから少しずつ読んでみようと思う。
・選択的夫婦別姓訴訟のアプローチについて
・辺野古基地問題からみえる現政権の憲法観
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著者が書いたというのではなく、大阪弁護士会が主催した講演会での講演をもとにした本。後半は国谷裕子さんとの対談になっている。国谷さんの夫が大阪の弁護士さんだからこういう企画ができたんだろう、きっと。
ふだん新聞やメディアで見かける著者のコメントからすると私と同じ左寄りの人という印象だったんだけど、初めて著書(この本)を読んでみるとそうでもない。ま、それも当然で、著者は憲法学者として原則的に憲法という枠組みに沿って物事をとらえ発言しているに過ぎない。そして、それがやや左寄りに聞こえるということ。そうなるってことはつまり、現在の日本国憲法では「自由」や「平等」といった左派的思想が味つけのベースになってるってことなんだろうな。
憲法や法律、条例といった類のものは、ガチガチに固めるのでなく運用でどうにかなる余地・あそびを残しておくものだと思う。そういうことがこの本からも読み取れる。書中で解説されている夫婦別姓を男女差別という観点から違憲と訴えたのが認められなかったことや、辺野古への米軍基地移設にあたって住民投票がなされるべきといった主張は、なるほどと納得がいくとともに、憲法に含まれる余地やあそびをいかに使いこなせるかが知恵の見せどころだということが示唆される。
法とか決まりごとというと、何となく縛るもののような印象で忌避したくなりもするが、憲法や法律を良識に沿って身近な道具として使いこなせるようでないと。忌避すべきものでなく、自分たちの味方にできるものというメッセージが書題の「憲法という希望」には込められている気がする(これは著者の講演の演題でもあって、演題自体は主催者がつけたようだけどね)。