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少女はとても残酷です
2017/04/20 03:10
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「シャーリー・ジャクスンが好き!」と大声で公言するのは非常に勇気がいる。
少女の持つ純粋さと残酷性はほぼ同意義であることを、認めることになるから。
ある日曜の夜のこと。 作家で鼻もちならない父親のために開かれたホームパーティで、17歳のナタリーは見知らぬ男に話しかけられ・・・。 そしてナタリーは大学に進学し、家を離れて寮に入ることに。 が、ナタリーは新しい生活になじめず、同世代の少女たちに対する劣等感と優越感にさいなまれながらの毎日を繰り返す。 けれどトニーという少女と出会い、ナタリーは初めて親友と呼べる他人の存在に生まれて初めての安らぎを見い出すのだが・・・という話。
帯には<不安と憧憬に揺れる孤独な少女の成長小説>と書いてあるんだけど・・・確かにその面は、ある。 でもそれだけじゃない。
冒頭から、不可解な描写が始まる。 ナタリーから見る現実世界と、彼女の内面世界が同じ次元で描かれているので。 でもそれをすんなり受け止めてしまえる自分に驚く。 まだ私の中には“少女”がいるのか、それとも“少女”の頃の記憶や考え方を今でも鮮明に覚えているからか。 それとも私は今もナタリーと同じように世界を見ているのか。
あぁ、すごくよくわかる、と特に思ってしまった台詞を、296ページから少し長いが引用する。
しばらく無言で歩き、やがてナタリーが穏やかに言った。
「子どものころよく考えたわ。死ぬまでずっと、何千年ものあいだ呼吸を続けていなくちゃいけないのは恐ろしいことだって。続けてこう考えたものよ。自分が息をしてると意識したからには、呼吸にもほかのいろんなことと同じ問題が起きてしまう――つまり、それまで何も考えずにやっていたのに、自分がそれをやってると気がついたら、意識しながらやるのは難しくてうまくいかないはずだって。だけどそんなふうに考えてる最中に、そういえば今、呼吸について考えながら息をしてたから、だいじょうぶだわって気がつくの」
もう終わり頃なので、かなり前向きな意味合いを持つ台詞に聞こえるけど。
帯通り、これが<少女の成長小説>ならば、何故『処刑人』(“Hangsaman”=首吊りさせる人)というタイトルなのか。
誰が殺したのか、誰が処刑されたのか。 何の罪で?
少女が持つ無邪気という名の傲慢故の残酷さのせい?
でもその代償と言うにはあまりに大き過ぎる傷をナタリーは負ってしまったのに。
殺したのも殺されたのも自分ならば、少女時代の自分を葬り去ることが<成長>ということなのか。
でもこの物語のとんでもないところは、そんな「少女、もしくはかつて少女だったもの」にしか響かない、というレベルの作品ではまったくないということ。 暴力的ではないが強権的な父親と、それに対して従うしかないとすべてをあきらめてしまったような母親の間に生まれ育ったナタリーは父親に認められることが自己肯定の唯一の手段。 そのために知識をどんどん詰め込んだ結果、母親を尊敬できないし、父親のアラも見えてしまう。 そういう17歳って大人から見たらすごく厄介だろうし、同世代から見ても扱いづらい。
そういう、“周囲から理解されにくい人”の孤独を容赦なく抉った作品なのだ。
そんな人が、どうやって世間と折り合いをつけていくのか・・・その過程を、幻想小説という枠の中で成立させてしまっている。
でもあくまで過程であって結果ではない。 ナタリーがこの後どうやって生きていくのか。
似たような少女であった者からも、彼女が納得のいく人生を手に入れてほしいと願わずにはいられない。
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